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短編怪談  作者: ライラ
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紫陽花

 中学生の頃。6月のことでした。


「ーーつまり、赤いリトマス紙が青くなれば、その気体・液体はアルカリ性というーー」


 午後の授業。先生の声は子守唄に聞こえます。

 何とか眠らないように窓の外の雨を見たり、机の木目を数えたり、教科書の端にパラパラ漫画を描いてみたりしてました。


 教科書の端に棒人間を書いていた時、授業とはあまり関係してこない豆知識が書かれた欄に目が行きましたーー。


◆◆◆


 中学生になった私は吹奏楽部に入りました。理由は楽そうだと思ったからという、適当な理由でした。

 しかし、運動部並みに走り込みや筋トレをするし、楽器は重いし、先輩怖いし……。なんなら、どの部活動よりも終わりの時間が遅く、それなりに力を入れた吹奏楽部でした。


 後悔しました。

 特に、帰り道を自転車で進んでる時は。


 田舎なので、クラスの半分ほどは自転車で毎日40分近くかけて通学していました。私もそのひとりで、部活終わりは毎日夜道を40分ほどかけて帰っていました。


 吹奏楽部の自転車組は、学校を出た頃は他の子達とわいわい帰っていました。しかし、私の家の方へ近づくにつれてどんどん人が減っていき、最後の15分くらいはいつも1人になってしまうのです。


◆◆◆


 特に部活が遅くなった日のことでした。

 友達と別れ、1人で走る道。もうすぐ家だ! と自分を励ましながら1人でペダルを漕いでいました。


 私には、帰り道で嫌いな場所が何ヶ所かがあります。


 1つ目は、空き家。周りの家は明かりが灯ってるのにそこだけはいつも暗くて不気味に感じるのです。

 2つ目は空き地。草木が生え散らかっており、夜は虫が群がっているのが不快でした。


 そして3つ目、墓地。道路を挟んで向かいには空き家もあるし、空き地もあるので、ほかの生き物も多いのです。


 そのせいか、人気がないのに草むらがガサガサ揺れることが多く、私はその道が嫌いでした。しかし、全力で自転車を漕げば通るのは一瞬のこと。


 私はいつもそこを全速力で通るようにしてました。


 今日も全速力で漕ぎ、余力で墓地と空き地を通過しました。

 ほっと一息着いた瞬間、目の前に青白い大きな顔が現れました。


 とてもスピードが出ていたので、見えたのは一瞬。しかし、女性っぽいという感覚がありました。私にもう一度振り返る度胸はなく。再び全速力で家まで帰りました。


 その時は驚いたのですが、家に帰りよく考えてみると、空き地には青い紫陽花があったので、それが光の加減で青白い顔に見えたんだろうと。


 理科の教科書の端にも書いてありました。

『紫陽花は土が酸性であると赤、アルカリ性だと青の花を咲かせる。

コンクリートはアルカリ性であり、その近くで咲いた紫陽花は青い花が多い』と。


 たしかに、道路の近くでその紫陽花は咲いていました。


 結局、世の中の幽霊というのは、このような勘違いがほとんどなのかもしれません。私はがっかりしたような、ほっとしたような不思議な気持ちになりました。


 次の日の朝、通学途中に紫陽花を見てゾッとしました。


 その紫陽花は葉化病にかかっているみたいでした。葉化病は、紫陽花の花が全て緑色の葉っぱのようになってしまう病気のことです。


 空き地に咲いていた紫陽花に青い花はひとつもありませんでした。


 じゃあ、昨日のは……?

 ……ここで私は考えることを辞めました。


 だって、少なくともあと2年は毎日その道を通るのですから。

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