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アーウィナだって分かっている。
本当はこんな事をしている場合ではない事くらい。
だが、この時のアーウィナは正気では無かった。
錯乱したアーウィナは、名も知らぬ男に身を捧げてしまったのだから、この男に嫁ぐしかないと腹を括っていた。
修道院かこの男か‥‥アーウィナの人生の選択肢は2つである。
ここでアーウィナの行動を整理しよう。
婚約者に振られて、街の酒場で飲んだくれる。
目の前の男に絡んで酒を飲ませた挙句、潰れる。
記憶を飛ばしつつ、帰りたくはないと駄々を捏ねる。
アーウィナの世話をしてくれた男の背で吐く。
風呂まで入れてもらい‥‥抱かれた。(記憶はない)
そして、自分が修道院に行きたくないが故に男に結婚を迫ろうとしている最低な女である。
だがアーウィナは、この男に娶ってもらうしか残された道はないのだ。
「迷惑掛けたついでに、もう一つ宜しいでしょうか?」
「‥‥あ?」
「2番目でも3番目でも4番目でも構いませんッ!!私を娶って下さい!!!」
「おい、俺にはどんだけ妻がいるんだ‥」
「私は何番目でもいいんです」
「だから‥俺には」
「じ、侍女として働きます!名目上だけでも籍を‥っ!!」
「‥‥」
「ちゃんと老後まで面倒見ますから!」
「一体、何の話をしてるんだ‥‥それに俺はそんなに老けてるように見えるか?」
「え‥‥?」
「何人も妻がいるように見えるかと聞いている‥」
強面、能面のように動かない表情、怖い。
アーウィナのイメージでは、何人ものセクシーな女性を5人くらい抱えて、フンッ‥と王座のような椅子に座り、煙草をスパーーとしてそうです‥‥そう素直に伝えたアーウィナに対して唖然とする男。
これ以上、この男の前で取り繕っていても意味はないからか本音がポロリである。
アーウィナの目はもう死んでいた。
焦っていたのもあるが、自分でもどうすればいいか分からなかった。
正座しながらダラダラと汗を流しているアーウィナの瞳が右往左往する。
(と、とにかく、どうにか許しをもらわなければ‥!)
「かっ、肩揉みましょうか!?」
「あ‥?」
アーウィナはジリジリと男に近付いていく。
そしてアーウィナの切羽詰まった表情と勢いにドン引きしている男。
そんな時にハラリとアーウィナのガウンを結んでいる腰紐が解けそうになる。
「おい、ちょっと止まれっ!」
ずり下がっていくガウンに気付きもしないアーウィナに、焦った男が手を伸ばした時だった。
―――バタンッ!!
「兄上、どうかされたのですか!?!?今、女の人の悲鳴が聞こえた気がするけど、ついにモテなさすぎて誰かを手篭めに‥‥ッ!!?」
「「‥‥」」
「あ‥」
可愛らしい顔をした青年が慌てて部屋に飛び込んできた。
そしてアーウィナと男を見て固まった。
今の状況を説明しよう。
アーウィナは男の肩を掴んでいる。
男は、はだけそうなアーウィナのガウンに手を伸ばしている。
つまりは、だ。
「ギャアアアアア!!兄上がついに@*×あ○~ッ!」
「待てッ!違う‥!!」
「え‥‥‥兄上、まさか娼婦を?」
「それも違‥「じゃあやっぱり!!僕、父上と母上に報告してきますッ!!!」
「ちょっと待て、モーセ‥っ!」
男が慌てて止めようとしたが時すでに遅し。
青年は嵐のように去っていった。
「「‥‥」」
何か盛大に勘違いして行ってしまったがいいのだろうか。
男は困ったように溜息を吐いて、アーウィナのガウンを指差している。
「す、すみません」
ガウンの紐を慌てて結び直して男から離れたアーウィナはある事に気付く。
「あの‥‥」
「なんだ‥?」
「今更ですが、お名前を教えてください‥!」
アーウィナの部屋よりも何倍も広い部屋。
高級な調度品の数々‥‥貴族である事は間違い無さそうだ。