最終話
アーウィナとヴァーノンの初めの出会いを彷彿とさせる光景に、ヴァーノンはポカンとしていた。
そんなアーウィナの様子を見たゼラニウムとアーウィナの母は顔を見合わせる。
直様、侍女達がアーウィナの衣服を整えてベッドに寝かせた。
ヴァーノンが着替えている間、ゼラニウムがユリサルート伯爵と夫人に事情を説明する。
ユリサルート伯爵家には伏せられていた2人の出会い。
そして婚約するきっかけとなった出来事。
普通ならば婚前に関係を持たないのは常識だが、こうなってしまった以上、何があったかは明白である。
そしてローレライが今までヴァーノンとアーウィナにしてきた事が明かされた。
ユリサルート伯爵と夫人は言葉が出ないようだったが、事の重大さに震えながら頭を下げていた。
ゼラニウムは「また後日ゆっくりと話しましょう、今はアーウィナちゃんが優先ですわ」と言って2人を宥めていた。
ローレライは後から来たフェニックスと騎士団に拘束されて、処遇が決まるまでは地下牢で拘束されることとなった。
着替え終わったヴァーノンはアーウィナが寝ているベッドに駆け寄った。
丁度診察が終わり、医師が立ち上がったところだった。
「アーウィナは!!大丈夫なのかッ!?何か重い病気に!?!」
慌てるヴァーノンに、医師は柔かに笑って言った。
「ヴァーノン様、落ち着いて下さい。アーウィナお嬢様のお腹には、新しい命が宿っています」
「!!」
「兄上‥‥色んな意味で強いとは思ってましたが、まさか1回でーーーいでっ!!」
いつの間にかヴァーノンの隣でニヤニヤしていたモーセは、ヴァーノンの重たい一発に頭を押さえた。
「ヴァーノン、様‥‥?」
「アーウィナ、大丈夫か?」
「はい‥‥今まで悩みすぎていて、月のものが来ていないことすら気付かなくて」
アーウィナは顔を手のひらで覆いながら、恥ずかしそうに言った。
「嬉しいよ‥」
「はい、私も嬉しいです」
ヴァーノンとアーウィナは堅く手を握って笑い合った。
ーーーあの後、ローレライは国外の修道院へと送られた。
怪我は無かったが、ヴァーノンに殺意を持って刃物を向けたこと。
そして姉のアーウィナに対する異常なほどの執着が重く受け止められた結果だった。
ローレライの件は両親もかなりショックだったようで、暫くは落ち込んでいた。
そして3人でデスモント家に頭を下げた。
ヴァーノンもフェニックス、ゼラニウムも「気にしなくて良い」と言ったが、「それでは気が済まない」とユリサルート伯爵家は言い張った。
「それならば、元気な子を産んで欲しい」
そんなデスモント家の言葉にアーウィナは頷き、ユリサルート伯爵家は感謝したのだった。
両親は落ち込んでばかりいられないと、養子を取るために親戚を回っている。
そして数ヶ月後、アーウィナの悪阻が落ち着いてから結婚式が行われた。
もうアーウィナのお腹は少し膨らんでいたが、無事体調を崩すことなく式は終わった。
ヴァーノンはずっとアーウィナの体調を気遣っていた。
そして祝いの席だからと、結婚式の後に簡単なパーティーが開かれた。
どんどんと床に転がる空き瓶。
騎士達が酒を飲み盛り上がる姿を見て、アーウィナは笑みを浮かべた。
「どうした?アーウィナ、具合が悪いのか?」
「ふふ、ヴァーノン様ったら‥そればっかり」
「無理をするなよ?」
「分かってます‥‥この光景を見て、ヴァーノン様との出会いを思い出していたのです」
「!!」
「あの時は人生のドン底だったけど、今は幸せ過ぎて怖いくらいです」
「あぁ‥」
「ヴァーノン様、ありがとうございます」
アーウィナは満面の笑みを浮かべた。
ーーーガチャーン
ドンドンッーー!
賑やかな宴を見て、2人は手を握り寄り添っていた。
出会いは滅茶苦茶だったが、アーウィナの人生に光を与えてくれたのは間違いなくヴァーノンだ。
「でも‥‥やっぱり、お酒はほどほどにした方がいいですね」
「ははっ!その通りだな」
end
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