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ヴァーノンでなければ、ローレライの行動に気付くことはなかっただろう。
それこそ、ずっと‥。
父と母も、ローレライとアーウィナのやり取りに驚いているようだった。
「私は、そんな事を望んでないわ」
「お姉様の一番はわたくし!わたくしじゃなきゃダメなのよ!?」
頬を押さえながらローレライは必死にアーウィナに訴える。
「私は‥今まで貴女が私にしてきた事を許すつもりはないわ」
「いいえ!お姉様だったら絶対許してくれるわ‥っ!いつもお姉様はわたくしを助けてくれるものッ」
「今までずっと我慢してきた。仕方がない事だって‥‥でも私は、私に苦痛を与え続けた貴女を、もう妹として可愛がることは出来ない」
「そんなの嫌ッ!!」
「今度ヴァーノン様に手を出したら‥‥貴女との縁を切るわ」
「ッ!?」
暫く言い争いは続いたが、ゼラニウムとヴァーノンがユリサルート家に着く頃にはアーウィナとローレライの争いは一段落した後だった。
ローレライはアーウィナの言葉に意気消沈していた。
その顔には生気がなく、まるで人形のようにピクリとも動かない。
アーウィナはヴァーノンの元へと駆け寄った。
そんな様子をガラス玉のような瞳で見ていたローレライは、突然大声で叫び出した。
「ーーーアンタのせいよッ!」
そして、ドレスに忍ばせていたナイフを手に取りヴァーノンに向かって真っ直ぐに走っていく。
「アンタのせいで、何もかもが滅茶苦茶よッ!!」
咄嗟のことにモーセは声を上げる。
「ーーー兄上ッ!!」
その声にハッとしたヴァーノンは、ローレライの持っているナイフを見る。
「消えろォッ!!!」
(しまった‥っ!)
ヴァーノンが腕でカバーしようとした時だった。
「やめてッ!!」
ヴァーノンの前には両手を広げて立ち塞がるアーウィナの姿があった。
「ーーーアーウィナッ!!?」
ヴァーノンが叫ぶ。
アーウィナが目の前にいることに気がついたローレライは止まろうとするが、ナイフはアーウィナの胸元へ‥。
ーーーグサッ!!!
「‥‥!!」
小さな金属音と共に、ローレライが持っていたナイフは、いつの間にか手元から消えていた。
モーセは安心から息を吐き出した。
「‥‥さすがです、母上!」
「わたくし、まだまだ現役ですから」
ゼラニウムの投げた暗器によって、ナイフは弾かれて壁に突き刺さっていた。
「ーーいやあぁああぁっ!!!」
部屋にはローレライの狂ったような悲鳴が響き渡った。
ローレライはモーセによって2人から引き剥がされて、拘束された。
そしてゼラニウムがもう何も持っていないかとローレライのボディーチェックをする。
ローレライは呆然としながら涙を流していた。
何度も何度も「こんなの嘘よ、嘘だわ」と繰り返すローレライ。
そんな時、後ろから大きな声がしてアーウィナは肩を揺らした。
「アーウィナッ、何故こんな危ない事を!!」
「あ‥‥ヴァーノン様」
「こんなっ‥怪我では済まないぞッ!?」
「あの‥ごめんなさい」
「もう2度と、こんな事をしないでくれ!!!」
「気をつけ、ます」
ヴァーノンは今にも泣きそうな表情をしている。
アーウィナは、ただヴァーノンを守ろうと必死だった。
「ヴァーノン様を守りたくて‥」
「それは此方のセリフだ」
「‥‥はい」
暫くヴァーノンから説教を受けていたアーウィナは、突然‥胸焼けや気持ち悪さを感じて口元を押さえた。
ヴァーノンはそんなアーウィナの様子を見て心配していたが、アーウィナは込み上げてくるものを押さえるのに必死だったのだ。
静かに首を振るアーウィナを抱きしめるヴァーノン。
コルセットが腹部を刺激する。
(ーーーもう、ダメ)
アーウィナは盛大にその場で吐き戻した。




