21
アーウィナはユリサルート家に急いでいた。
頭の中は妙に冷静だった。
アーウィナの中で、違和感が確信へと変わった瞬間だった。
アーウィナが令息との関係が上手くいかない時に嬉しそうにしていた理由や、これだけ男性から求められているローレライが婚約者を作らない訳も。
常にアーウィナの側に居たがる理由も‥‥。
アーウィナは屋敷の中に飛び込むように入ると、自分の部屋を目指す。
そういえば偶に物が動いているような気がしていた。
部屋の物がなくなっているような気がしていた。
今まで気の所為だと思っていたことも、真実が分かるのと同時に全てが明るみになる。
皆、アーウィナの鬼の形相に声も掛けられずにいるようだ。
思いきり自室のドアを蹴り上げた。
ーーーバンッ!!!
「え‥‥お姉様ッ!?あの男に会いに行った筈じゃ!?」
そしてアーウィナのベッドの上にいるローレライの腕を掴んで、ベッドから引きずり下ろす。
そして、胸元を掴み上げる。
アーウィナの額には青筋が浮かび、腕は怒りからブルブルと震えている。
「ローレライ‥‥全部、説明しなさい」
「くっ‥」
「今までの事、全部よッ!」
苦しむローレライの首元から手を離せば、ドサリと重たい音と共にローレライが床に倒れ込む。
騒ぎを聞きつけて父と母も駆けつける。
ローレライを庇おうと部屋に入ろうとするが、それを何処から出てきたのかモーセが制する。
「お姉様ッ、わたくしは‥!!」
「今までのこと洗いざらい吐くまで絶対に許さない」
「っお姉様、どうして‥!」
「よくも私の幸せを毎回毎回、打ち壊してくれたわね!?」
「違うわ!わたくしはお姉様の為を思って‥!!」
ヴァーノンの言っていることが全て正しければ、ローレライにとって一番辛い事は‥‥。
「ローレライ‥‥全部をちゃんと話すまで、私は貴女を無視し続けるわ」
「!?」
「今後、私に関わらないで」
「ーーいや、嫌よッ!」
ローレライは顔を歪めてアーウィナに縋り付く。
「あの男が話したのねッ!?絶対に許さないわ!だから早く消さなくちゃいけなかったのに‥!」
「‥‥」
「ねぇ!お姉様‥っわたくしを無視しないで!お願いだから」
「‥‥」
「お姉様ッ、お姉様‥!」
今まで、アーウィナの恋や婚約者との仲を邪魔していたのは全てローレライの仕業だった。
恐らく、以前の婚約破棄もローレライが相手を全て調べ上げて弱味を掴んで脅したものだろう。
今までもアーウィナが「いいな」と思う令息には自分に気を向けさせたり、結ばれないように動いていたのもローレライ。
つまり、ローレライは"アーウィナが嫌い"だからこのような事をやっていたのではない。
アーウィナを"好きすぎて"こうなってしまったのだ。
「お姉様の幸せを壊すつもりなんてなかったのッ!偶々そうなってしまっただけよ?」
「‥‥ 」
「それに、今までの男は全然お姉様に釣り合っていなかったわ!!お姉様に相応しくない‥‥あんな男達はお姉様のことを分かっていない塵なのよ!?別れて正解だったわ」
「‥‥」
「それなのにあの男が、わたくしのお姉様を無理矢理奪い取ったのよッ!!?だからもっともっと罰を与えなきゃいけないわッ!!‥‥ねぇお姉様、早く目を覚ましてわたくしのところに戻ってきて?」
「‥‥」
「ああ、わたくしの愛するお姉様!お姉様はずっとずっと綺麗なままでいなくちゃ!だからわたくしはあの男を排除しようとッ」
「‥‥‥ローレライ」
ーーーバシンッ
アーウィナはローレライの頬を思いきり叩いた。
今までの怒りがこもった重たい重たい一発だった。