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始めは誰の仕業か分からずに不思議に思っていたヴァーノンだったが、悪い噂も暗殺者が送られることも日常茶飯事だった為、特に気にすることもなかった。
だが流石に煩わしいと思い、捕らえて口を割らせると"ローレライ"の名前が出てきたのだそうだ。
その結果を知ったローレライは、誤魔化そうと直ぐに色仕掛けに入ったが、ヴァーノンはローレライを制して「アーウィナを裏切りたくない」「お前もそうだろう?」と、ローレライに諭すような形で返り討ちにしたようだ。
そして本性を出したローレライに、直接「別れろ」と言われるようになったらしい。
「お姉様には貴方のような野蛮人は似合わない」
「お前のような奴が、美しく気高いお姉様の隣に並ぶ資格はない」と。
けれどヴァーノンはアーウィナと家族の事を思い、ずっと黙っていたのだそうだ。
アーウィナは違う意味で震えが止まらなくなっていた。
まさかローレライが、アーウィナや家族が知らないところで、そんな事をしているとは思わなかったからだ。
「‥‥も、申し訳ございませんっ!なんてお詫びをすればいいか」
「アーウィナの所為ではない」
「そんなことも知らずに私は‥!てっきりヴァーノン様がローレライに取られてしまうのかと心配になってしまって‥‥本当にごめんなさいッ」
ヴァーノンがローレライから嫌がらせを受けているのにも関わらず、ヴァーノンとローレライの仲を疑い、勝手に嫉妬していた。
自分は一体何をしていたのだろうか。
そう思うと悔しくて堪らなくなった。
そんなアーウィナを見て、何故かヴァーノンは嬉しそうにしている。
「ヴァーノン様‥?」
「アーウィナが嫉妬するほどに俺を愛していると知ることが出来て良かった‥‥嬉しく思う」
「‥っ!」
「何も気にする事はない。実際、ローレライの行動で俺は何のダメージも受けてはいない」
「けれど‥!」
「‥‥デスモント公爵家では、こんな事は日常茶飯事だ」
アーウィナはヴァーノンに思いきり抱きついた。
心が広いヴァーノンには、いくら感謝してもしきれない。
そうしてアーウィナとヴァーノンは互いを愛する気持ちを確かめ合った。
ーーーそして、アーウィナは思った。
これは、身から出た錆だ。
(全部、私とローレライの問題だわ!!)
このままヴァーノンに、そしてデスモント家に迷惑を掛けるわけにはいかないと強く思ったアーウィナは、ヴァーノンに「馬を貸して下さいッ」と言って馬を借りると、ユリサルート家に駆け出して行ったのだった。
「‥‥」
「‥‥」
「モーセ、いるんでしょう?」
「あは、やっぱり母上には敵わないな」
モーセが木の上から顔を出す。
「うちの可愛いお嫁さんに何かあると困るから、追いかけて頂戴」
「了解」
モーセが口に指を咥えてピューと音を鳴らすと、デスモント家の敷地から馬が凄い勢いで走ってくる。
モーセはその馬に乗り上げると、アーウィナを追いかけるように駆け出していった。
「うふふ、わたくし達も向かいましょうか」
「はい、早く行きましょう」
「アーウィナちゃんはとても可愛いわね。わたくし、とっても好きだわ」
「俺もです」
ずっと空気だったゼラニウムが、ヴァーノンに嬉しそうに声をかけた。
必死なアーウィナはゼラニウムの存在を忘れていたのだろう。
またアーウィナが以前のように倒れてはいけないと、ゼラニウムは限りなく影を薄くしたのだった。
「ヴァーノンちゃん‥‥貴方に心から愛する人が見つかって本当に良かったわ。これでデスモント家も安泰ね‥!とても嬉しいわ」
「‥‥はい」