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今更だがアーウィナも、ヴァーノンに自分の本当の気持ちを伝えていない事に気付く。
困惑するアーウィナの髪をヴァーノンは優しく梳いた。
「何から話せばいいか分からないが‥‥アーウィナと婚約破棄するつもりはない」
「‥‥‥え?」
「俺は、アーウィナを愛している」
「!?」
「だからそんな事は考えなくていい‥安心しろ」
ヴァーノンの言葉に涙が引っ込んだアーウィナは、鼻水を啜りながらヴァーノンを見つめていた。
「それと、アーウィナの妹であるローレライに好意を持ったことはない」
「え‥?」
「何故そんな不思議そうな顔をする?」
「だ、だって殿方はみんなローレライのような女性が‥」
「俺は特に魅力を感じた事はないが‥‥そうなのだろうか?」
その言葉に力が抜けたアーウィナはその場にペタリと座り込んだ。
そしてドキドキする胸を押さえた。
直様、ヴァーノンはアーウィナを抱え上げてくれた。
「どうしてそんな勘違いを‥‥?」
「噂を、聞いたのです」
「事実無根だ」
「それは私もそう思っていました‥‥‥けれど私が出掛けていた日、ヴァーノン様と大切な話をしたと聞きました」
「‥‥大切な話?当たり障りない会話だけだったが‥‥それにユリサルート家の侍女や執事も同席してもらっていた。聞いてみるといい」
「でも!ローレライは‥‥きっとヴァーノン様の事が好きで‥ッ!」
それを聞いたヴァーノンは困惑気味に頭を掻く。
「それは絶対にない」
「そんな事ありません‥!でなければ毎回、ヴァーノン様がいらっしゃる度に会いに来たりしませんわ!」
「‥‥それは、アーウィナに」
「私‥‥?」
「‥‥」
「何か理由があれば教えて下さいっ!私はローレライにヴァーノン様を取られてしまうのではと不安になってしまって‥!」
「いいや‥‥むしろ逆だ」
「え‥‥?」
「‥‥‥俺の口からは言いづらい事なんだ。それに、アーウィナが傷つくかもしれない」
「覚悟は出来てます!!教えてくださいっ」
ヴァーノンは何かを考えているようだった。
「お願いします、ヴァーノン様」
「だが‥」
アーウィナはぐっと唇を噛んだ。
ヴァーノンはアーウィナの必死な様子を見て、小さなため息を吐いてから口を開いた。
「お前の妹はーーー」
(やはりローレライと何かあったのね‥!)
そう思っていたアーウィナは、ヴァーノンから発せられる予想外の言葉に驚くこととなる。
「お前の妹は、アーウィナ‥お前のことが好きなんだ」
アーウィナは耳を疑った。
けれど真面目なヴァーノンが今、アーウィナに冗談や嘘を言うとは思えない。
「好きって、家族ですから‥」
「そういう"好き"ではないんだ」
「‥‥‥」
ヴァーノンは静かに首を振る。
アーウィナは何度かヴァーノンに間違いはないかと確認するが答えは同じだった。
「‥‥だ、だって私達は姉妹ですよ?」
「あぁ‥‥そうだな」
「どうして‥?」
呆然とするアーウィナに、ヴァーノンは真剣な表情で口を開いた。
「ただ、ローレライはそうは思っていない」
「‥‥」
「直ぐには信じられないだろうが、俺は何度もローレライに"お姉様と別れろ"と言われている」
アーウィナは言葉を失った。
自分が思っていたことと、全く違う展開だったからだ。
ヴァーノンは、その場で動けないでいるアーウィナに全てを話してくれた。
今までローレライはヴァーノンとアーウィナの仲を引き裂こうと動いていた。
ヴァーノンは勿論、それに抵抗していた。
妙な噂を流したり、直接弱味を握ろうと後を付け回されたり。
それだけではヴァーノンは折れないと分かったのか、ついには刺客まで差し向けてきたのだという。