18
アーウィナは悩ましい日々を過ごしていた。
もうすぐヴァーノンの誕生日会がデスモント家で開かれる。
ヴァーノンの所属する騎士団のメンバーも集まるとあって、アーウィナは緊張していた。
あれからローレライに何度か聞いてみても、笑顔ではぐらかされてしまう。
苛々と不安は募るばかりだ。
このままではいけない。
そう思ったアーウィナは、思いきってヴァーノンに聞いてみることにしたのだ。
(‥‥‥私らしく行こう)
くよくよと悩んでいても仕方ないとアーウィナは顔を上げた。
ドレスに着替えてから、鼻息荒くデスモント公爵家へと向かった。
*
ゼラニウムと共にデスモント家の屋敷の門の前で、ヴァーノンを待たせてもらっていた。
暫くすると騎士団の制服姿のヴァーノンが馬に乗ってやってくる。
ヴァーノンのいつもとは違う凛々しい姿にアーウィナは感動していた。
しかし、今日の目的を思い出して首を振る。
「おかえりなさい、ヴァーノン様」
「アーウィナ、こんな所でどうしたんだ‥‥?」
「今日帰ってくるとゼラニウム様にお聞きして‥‥お疲れのところ申し訳ないですが、聞きたいことがあるのです‥!私の質問に正直に答えてください」
アーウィナは腹を括っていた。
酒場に行って発散することは、もう出来ない。
だったら真っ向勝負である。
悩んでいたって何も変わらない。
惨めでも愚かでも何でもいい。
どんな結果でも受け入れてみせると。
「この間‥‥ローレライと何を話したのですか!?」
「‥‥!!」
「大切な話をしたと聞きました」
「‥‥そ、れは」
ヴァーノンの気不味そうな表情を見て、アーウィナは固く拳を握る。
「私は‥‥っ!!」
「‥‥」
「ヴァーノン様が、もしローレライが好きだとしても、私はヴァーノン様が好きですから!!」
アーウィナはヴァーノンの胸元に掴みかかる。
その目には涙が浮かんでいる。
「は‥‥?」
ヴァーノンはアーウィナの言葉に目を見開いた。
「確かに出会いはあんなだったかもしれませんが、絶対に私の方がヴァーノン様を幸せに出来ますっ」
「お、おい‥!!」
「だから私との婚約を破棄しないでくださいッ!今回ばかりは絶対に‥っ「‥‥おい、アーウィナ!」
「っ、何でも頑張りますから!!」
「アーウィナ、落ち着け‥!!」
ヴァーノンがアーウィナを優しく抱きしめる。
それだけで我慢していた涙と不安が滝のように流れてくる。
ヴァーノンはアーウィナの涙を指で拭う。
きっと鼻水と涙で酷い顔をしているだろう。
涙でぼやけて何も見えないが、ヴァーノンに呆れられていることだろう。
「ぐすっ‥」
「‥‥一体、どうしたんだ」
「どうしても2人の関係が、気になってしまうのです」
「2人の、関係‥‥?」
「それにヴァーノン様のお気持ちがっ、私にないことは分かっております」
「‥‥何故そう思う?」
「あの日から積極的には触れて下さらないし、愛を囁かれた事もありません‥‥!」
「!!」
「私に女としての可愛らしさや魅力が欠如しているのは認めますっ!でも私は‥っ」
「待て!そうじゃない‥ッ!!」
ヴァーノンの必死に訴えるような声にアーウィナは目を見開いた。
「あんな関係だったからこそ、結婚までは手を出してはいけないと必死に我慢を‥‥っ」
「‥!!」
「‥‥」
「ほ、んとうですか?」
ヴァーノンはアーウィナの言葉に顔を赤くしてから咳払いをする。
「‥‥‥あぁ、本当だ」
まるで子供のようにヴァーノンに気持ちを当たり散らしてしまったアーウィナは顔を覆い隠した。
恥ずかし過ぎて居た堪れない。
「‥‥‥‥‥今のを聞いて、めんどくさい女だと、思っていませんか?」
「思っていない。ただ初めてアーウィナの気持ちを聞いて驚いている」