16
「俺は‥‥どうすればいい?」
「‥‥」
アーウィナは真っ赤になる頬を隠すように俯いた。
ヴァーノンはアーウィナの言葉を待っていた。
そんなヴァーノンの見えない優しさがアーウィナの胸を熱くさせるのだ。
「‥‥‥ヴァーノン様のご迷惑でなければ、少しだけ此処に居ていただけませんか?」
「!!」
今まで他人に甘えた事がなかったアーウィナにとって、ヴァーノンは初めて自分を受け入れてくれた人だ。
少しだけ勇気を振り絞ってみたが、ヴァーノンはどう思うだろうか。
「‥‥勿論だ」
「!」
「俺もゆっくり話がしたかった」
アーウィナが顔を上げると、そこには嬉しそうな笑みを浮かべるヴァーノンの姿があった。
今までの不安や体の中に巣食う真っ黒な雲が、晴れていくような気がした。
アーウィナはヴァーノンの手を握りながら穏やかな時間を過ごしていた。
今までで1番の幸せを感じながら、アーウィナはヴァーノンの話に耳を傾けていた。
*
アーウィナがゼラニウムから護身術を習い、デスモント家から帰宅した時だった。
順調なヴァーノンとの関係を崩すような、ある噂がアーウィナの耳に入る。
それは『ヴァーノンがローレライに手を出している』『ヴァーノンはローレライに乗り換えようとしている』『密会している』そんな噂だった。
始めは深く気にすることはなかった。
しかし、ヴァーノンとローレライの噂は瞬く間に広がっていく。
全く信じていなかったアーウィナも、なかなか消えない噂に徐々に不安に煽られていく。
まさかまたローレライに‥‥。
そう思うとアーウィナは居ても立っても居られなくなった。
(もし‥ヴァーノン様がローレライと)
そう考えるだけでアーウィナの心は沈んでいってしまうような気がした。
ーーーそんなある日
もうすぐヴァーノンの誕生日だからとプレゼントを買いに、街に侍女と共に買い物に出かけた時だった。
無事にプレゼントを買い終えて、馬車でユリサルート家へ戻る途中、デスモント家の馬車とすれ違った。
(今日、ヴァーノン様はユリサルート家に来る予定では無かったはずだけど‥)
程なくして、馬車は門の前へと着く。
アーウィナが馬車から降りると、何故か門の前にローレライが居る。
アーウィナは驚き目を見開いた。
「あら‥‥おかえりなさい、お姉様」
「ローレライ‥?貴女一体何していたの?」
「‥‥‥」
そんなアーウィナの言葉に、ローレライは考え込むような素振りを見せてから、こう答えた。
「‥‥どうしてですか?」
「さっき、デスモント公爵家の馬車とすれ違ったの」
「あぁ‥‥お姉様に渡したいものがあると訪ねて来たので、わたくしが代わりに預かりました」
「それは申し訳ない事をしたわ」
「大丈夫ですよ?お姉様の代わりに、わたくしがヴァーノン様のお相手をずっとしていましたから」
「!!」
ローレライは機嫌が良さそうに笑みを浮かべていた。
気になるのはヴァーノンと何を話したか。
「そうそう、お姉様‥‥これ、ヴァーノン様からです」
ローレライから渡されたのは一枚の手紙だった。
そこには仕事があり、暫くは会えないと書いてあった。
アーウィナはヴァーノンから渡された手紙をぎゅっと抱きしめた。
「ヴァーノン様、お忙しいみたいですね」
「‥‥。えぇ」
「明日からは、暫くは会えないと書いてあるのでしょう?」
「!!」
何故、ローレライが手紙の内容を知っているのか‥そんな些細な事ですら、アーウィナにとっては不安要素になってしまう。
「お姉様に伝言で、"またゆっくり話そう"だそうです」
「そう‥‥‥ありがとう、ローレライ」