15.ヴァーノンside4
分かっていたから、近づかないようにしていた。
だが、意図せずにアーウィナと関係を持ってしまった。
アーウィナに何の説明も出来なかったことをヴァーノンは後悔していた。
婚約した後に言うことではないが、何もかもがトントン拍子に話が進んでいた為、ヴァーノンも何の説明もなしにこうなってしまったことと、己の軽率さを後悔すると共に気を揉んでいた。
もしアーウィナに「このことは白紙に戻しましょう」そう言われても仕方ない。
その時はそれ相応の補償をしなければと思っていた。
ヴァーノンがアーウィナにその事を話そうと、覚悟を決めてから口を開いた。
けれどアーウィナはヴァーノンが思っていたこととは全く違う反応を示した。
アーウィナは平然と「なら、私もゼラニウム様に護身術を習わなければなりませんね」と言ったのだ。
その後にアーウィナは「ゼラニウム様のところに話しに行ってきます」とすぐに向かった。
そしてアーウィナは定期的にデスモント家に通い、花嫁修行ではなく護身術を習得していた。
ヴァーノンが理由を尋ねると「チャンスは逃したくありません」「行き遅れたくはないのです」とよく分からない返事が返ってきた。
だが、今までの自分の悩みを全て跳ね除けてしまったアーウィナに、温かい気持ちが込み上げてくるのを感じたのだった。
そんなアーウィナが、今までにないくらいに落ち込んでいる。
目の下には隈があり、顔色が悪い。
先程もボーっと何かを考えているようだった。
その原因をヴァーノンは何となくではあるが分かっていた。
それはヴァーノンがユリサルート家に訪れた時に感じるものだ。
恐らく原因は妹の"ローレライ"だ。
ローレライは必ずヴァーノンとアーウィナの間に入り込んでは、聞いてもないことをペラペラと話している。
そうするとアーウィナの顔色はどんどんと悪くなっていくような気がするのだ。
アーウィナの不安そうな表情を見ていると胸がざわついた。
次第にアーウィナが何かに怯えているのだと気付いたものの、どうやって不安を取り除けば良いか分からないのだ。
(どうにかしなければ。でも、どうすればいいんだ‥)
こんな時、剣ばかり振っていた自分の不器用さが恨めしい。
アーウィナをどんなに想っていても気の利いた言葉一つすら出てこないのだ。
アーウィナは無意識なのか必死にヴァーノンに縋り付いているように思えた。
アーウィナが抱える不安を今すぐに拭い去りたいと思っているのに、上手くいかずにやきもきしていた。
(アーウィナを守りたい‥)
ヴァーノンの服を握り、不安そうに瞳を揺らすアーウィナの心が少しでも晴れるようにと、思いを込めて手を握る。
するとアーウィナは少しではあるが、安心したように顔を綻ばせた。
(‥‥やはりスキンシップ不足なのだろうか)
モーセにもヴァーノンの距離感の遠さや表情の固さについて指摘されたことがある。
モーセの言いたい事は何となく分かっていた。
けれど、いきなり全てを変えるのは難しい。
まさか自分が恋愛事で悩む日が来るとは思わなかったのだ。
ただでさえアーウィナとヴァーノンの出会いは普通ではなく突発的な関係だった。
普通の婚約者達よりは、まだ互いを理解していないのかもしれない。
けれどアーウィナを愛おしいと思う熱い気持ちは己の身に募るばかりだ。
体の関係から入っておいて、今更アーウィナにこの気持ちを伝えたら何と言われるのだろうか。
薄っぺらい言葉を並べたとして、アーウィナが喜ぶとは思えなかった。
(‥‥アーウィナは、本当は俺のことをどう思っているのだろうか)
それすらも怖くてアーウィナに問いかける事が出来ないのだ。
「‥‥アーウィナ」