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ーーーグイッ!



いつの間にか目の前にいるヴァーノンがアーウィナの腕を引く。

驚き声も出ないアーウィナに、ヴァーノンは前髪をサラリと撫でた後、自分の額をアーウィナの額に合わせた。



「‥ッ!」


「顔色があまりよくない‥‥熱があるんじゃないのか?」


「っ、ヴァーノン様!」



アーウィナは恥ずかしくなり、ヴァーノンと距離を取ろうとした時だった。



「大変だわ!お姉様、今すぐお部屋に‥「俺が部屋まで運ぼう」



嬉しそうなローレライの言葉を遮るようにして、軽々とアーウィナを抱え上げたヴァーノン。



「きゃっ‥!」


「‥!!」



アーウィナは小さく声を上げた。



「アーウィナ、部屋まで案内してくれ」


「は、はい‥!」



ヴァーノンの体温と優しさに涙が出そうになった。

それだけで先程の苦しみは消えてしまう。



ヴァーノンは迷いなくアーウィナを選んでくれた。



アーウィナは無意識にヴァーノンに縋り付くように手を回した。

ローレライが目を見開いたまま2人を見ていた。



「すまない、ローレライ。アーウィナを部屋に送り次第、今日は失礼する」


「‥‥‥わかりましたわ」


「行こう」



ヴァーノンが足を進めようとした時、ローレライがヴァーノンを呼び止める。



「‥‥ヴァーノン様」


「‥?」


「また、お話ししましょう」


「ああ」


「今度、とても大切なお話がありますの‥‥聞いてくださいますか?」


「!?」


「‥‥‥分かった」



アーウィナがローレライの言葉に驚き、顔を上げた。

心臓が煩く脈打っている。

ローレライは柔らかい笑みを浮かべながら頭を軽く下げて、アーウィナとヴァーノンが去るのを見送った。










ひとりその場に取り残されたローレライは、椅子に座り空っぽになったカップを見つめていた。



「あり得ない、あり得ないわよね?‥‥お姉様‥‥‥どうして今回はうまくいかないのかしら。不思議だわ‥‥」



徐にローレライはカップを持ち上げた。



「本当、狡いわ‥‥どうして私の幸せを奪うの?」



ミシミシと音を立てるカップは次の瞬間、テーブルに叩きつけられて鈍い音と共に砕け散る。



「早く壊れちゃえばいいのに‥‥」



割れた破片をローレライは静かに見つめていた。



「ーーローレライお嬢様!大丈夫ですか?」



砕けたカップに気付いた侍女が慌てた様子でローレライの側へと向かう。

侍女の声が聞こえたローレライは困ったように笑いながら、侍女に言った。



「ごめんなさい‥‥カップを片付けようと思ったら手が、滑ってしまったの」


「ローレライお嬢様、お怪我はありませんか!?」


「‥‥えぇ、大丈夫よ」



侍女はカップの破片を片付けながら、アーウィナとヴァーノンの姿が見えない事を不思議に思い、ローレライに問いかけた。



「アーウィナお嬢様とヴァーノン様はどちらへ?」


「‥‥」


「ローレライお嬢様?」


「お姉様が具合が悪くなってしまって‥‥ヴァーノン様がお部屋に」


「まぁ!ヴァーノン様は噂とは違い、とてもお優しいのですね。アーウィナお嬢様とも、とても仲睦まじ‥‥」




ーーーガンッ




ローレライが立ち上がるのと同時に、テーブルの食器が派手に音を立てた。



「お、嬢様‥?」


「あらあら‥‥‥わたくしったら、立ち上がろうとしたら足を捻ってしまいましたわ」


「あっ‥‥そ、そうですか」


「お父様とお母様に、この事をお伝えしなければならないから‥‥もう行くわね?」


「は、はい!」


「あとは任せるわ」


「お任せください‥」



侍女は頭を下げながら考えていた。

先程のタイミング‥‥気の所為じゃなければローレライは、アーウィナとヴァーノンの話を聞いて怒ったのだろうか。


(考えすぎよね、あの穏やかで優しいローレライお嬢様がそんな事‥‥)


緊張した空気を掻き消すように、侍女はテーブルを片付けたのだった。


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