11.ヴァーノンside2
ヴァーノンは酒で酔い潰れた事は一度もなかった。
しかし今回ばかりは、酔いが回りそうである。
機嫌よく酒を飲んでいた男達も次第に酔い潰れていき、酒場のマスターですらウィーナに飲まされて、カウンターに突っ伏してしまった。
ーー数時間後、酒場に居た全員が酔い潰れた。
自然とウィーナとヴァーノンの2人が残った。
ウィーナは大分酔っているように見えた。
ヴァーノンはウィーナに注がれるがまま酒を口にしていた。
酒を飲まなければウィーナが泣き出すからだ。
始めは他愛のない話をしていたが、次第に内容が濃くなっていく。
「わたし‥‥おんなとしての魅力がないんでしょうか!!?」
「‥‥‥は?」
ウィーナは見目もよく、所作も綺麗だった。
肌も艶があり、とても色っぽい。
つまりは女性として、十分魅力的に思えた。
酔いが回ってきたのか、いつもは恥ずかしくて言えない言葉がサラリと出てくる。
「俺は、とても綺麗だと思うが‥」
「ほんとれすか?」
「ああ」
「じゃあ、けっこんしてくださいッ!!」
「‥‥」
「ほら!してくれないじゃないですかぁ~」
どうやらウィーナは男性に振られ、自棄になって酒場に来たようだ。
そして、ウィーナを家に送り届けようとフラつく足で立ち上がったのは良かったがーー。
「家は何処だ‥?」
「いえ‥?いえには帰りたくありまへんッ!!」
「‥‥このままだと危険だぞ?」
「ぜったいに、かえりまふぇん」
「はぁ‥どうしたら家に帰るんだ」
「すてきな、ひとが‥」
「素敵な人‥?」
「おーじさまが~むかえにきてくへるまれ、ぜったひにかえらないっ!!(王子様が迎えに来てくれるまで、絶対に帰らないっ!)」
「‥‥はぁ」
見事に出来上がって、面倒な事になってしまった。
仕方なく落ち着いたら家に帰そうとしたところ、ヘロヘロと倒れ込み、おんぶして背負ったのは良かったが、まさかの嘔吐。
そして侍女を起こす訳にもいかずに、目を逸らしながらウィーナの体を綺麗にしてからベッドに寝かせた。
ヴァーノン自身もシャワーを浴びて、部屋に戻った時だった。
むくりと起き上がったウィーナは折角着せたガウンを脱ぎ始めたのだ。
ヴァーノンは慌ててウィーナにシーツを掛けようとしたものの、ウィーナは抵抗してなかなか言う事を聞かない。
苛立ったヴァーノンが思わず声を上げた。
「ーーいい加減に」
暴れるウィーナの手首を押さえて押し倒すような形になってしまった。
そんな時、ウィーナと目が合った。
ポロポロと涙を溢していたウィーナを見て、ヴァーノンは目を見開いた。
「だれもっ、わたしを、見てくれない‥‥!」
「‥‥!」
ウィーナの弱々しい声が微かに耳に届いた。
ヴァーノンは押さえていた手首から手を離した。
「‥‥‥おねがいっ、わたしを‥‥わたし、だけを」
「‥‥」
「愛し、て‥‥っ」
涙を流して必死にヴァーノンに縋り付くウィーナ。
先程とは、まるで別人のようだった。
ヴァーノンは無意識にウィーナの頬を撫でた。
一瞬だけ驚いたように目を見開いたウィーナは、潤んだ瞳でヴァーノンを見てから、ヴァーノンの手の上に自らの手を重ねた。
そして酷く安心したように、ヴァーノンの手のひらに擦り寄ると嬉しそうに微笑んだのだ。
その瞬間、ヴァーノンの心は激しく揺さぶられた。
強くあろうとするウィーナの、本当の姿を垣間見たような気がした。
歪な気持ちを抱えて苦しむウィーナが、自分と重なって見えた。
そして強く惹きつけられたのだ。
ウィーナの細く白い腕がヴァーノンを包み込むように絡められた。
酒で身体が熱っていたのか、欲に煽られたのかはわからない。
(‥‥これ以上、泣かせたくない)
もう自分を止められなかった。
ただ目の前にある悲しみを癒そうと必死だった‥。




