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一分間彼女  作者: てこ/ひかり
最終幕
34/34

図書室

「荒草くん」


 放課後、図書室の窓際の席で。後ろから声をかけられた。立花さんだった。


「今日も、ミステリーじゃないのね?」

「うん……」


 彼女はクスリと笑った。僕の前には、真っ白なノートが広がっていた。立花さんがそれを覗き込み、僕の横に座った。


「はいこれ、サイダー。飲食禁止だから、こっそりね?」

「あ……ありがと」

 僕は立花さんから飲み物を受け取り、少し顔を赤らめた。

「おりょうさんの新しい噂を作ってるの?」

「そのつもりだったんだけど……」


 僕は頷いて頭を掻いた。

 あれ以来、僕なりに前の事件(うわさ)に変わる何か『良さげな奴』を作ろうとはしていた。だが、残念ながら良い案はひとつも思い浮かばなかった。協力すると言ってしまった手前、何かを作らなくてはと思うのだが、そう思えば思うほど筆が進まない。

理由は単純。

やっぱりこの世は、何かと忙しいからだ。

宿題に塾、増え続ける課外授業、未消化のアニメにゲーム……とにかくやることが一杯なのだ。伊井田は相変わらずゲームばっかりしているし。犬飼も犬飼で、朝練やら遠征やら、また部活動に戻って汗を流し始めた。立花さんが窓の外を見た。空は晴れ渡っていて、雲はぐんぐん風に流されている。


「不思議……。噂って、時間が経つと何だか夢でも見てたみたいね……」


 立花さんが少し懐かしむように言った。僕も同じ気分だった。たった数週間前の出来事なのに、あれは、何処か遠い昔のことのように感じてしまう。


 あの日から……何処かで誰かが幽霊を見た、という話は聞いたことがない。


 実は僕も、あれからだんだんと幽霊を見る機会が少なくなって行った。

海浜公園のトイレで。

音楽室で、『ミルフィーユ店』の前で。

気がつくと、彼らの影は薄くなっていった。いる時はいるのだが、いない時はいない。幽霊とはそんなものだと言われれば、まぁそうなんだけど。


 他の面々も同じだという。するとあの霊感とやらは、『百鬼夜行』の噂が引き起こした一時的なものだったのかもしれない。その噂が流れ去って行くに連れ、僕らの霊感も次第に弱まっていったのだろう。なんだかホッとしたような、少し寂しいような。いるといるで騒々しいのだが、いないといないで、このただっ広い田舎町では、空間がぽっかりと空いてしまったような気持ちになる。


 新しい噂も、今のところ出来そうにもない。みんな、幽霊よりも刺激的で魅力的なものに夢中になって、七不思議は忘れられようとしている。仕方ないのかもしれない。みんな忙しいのだ。


 それに……もうすぐクリスマスだ。

 僕は立花さんをチラリと覗き見た。そりゃ僕だって色々忙しくて、まだ、彼女を誘えないでいた。そもそも立花さんは、何の話があってここに来たのだろう?

「…………」

「…………」

 不自然な沈黙が僕らの間に流れる。これってもしかして、最大のチャンスなんじゃないか? 

 そう思うと胸が高鳴り、手のひらに妙な汗が滲んできた。どうやって切り出そう。静かな図書室の中で、時計の音が妙に煩かった。何も会話が無いまま、時間だけが刻一刻と過ぎて行く。カラカラに乾いてしまった喉を潤すため、僕はこっそりサイダーを口にした。


「そういえば……」

「そういえば……」


 ほぼ同時だった。


「ど、どうしたの……?」

「ねぇ知ってる?」

 

 先に譲った。立花さんが改まって僕に言った。


「来年から、隣のクラスに転校生が来る()()()の」

「転校生??」

「そう。()()()()()()()。双子の兄妹なんだって」

「へぇ……」

「その名前がね。確か……因幡りょうくんと、兎子(うさぎこ)さん」

兎子(うさぎこ)!!」


 僕は驚きのあまり口からサイダーを噴射して、むせ返った。立花さんが目を丸くして、僕の顔を心配そうに覗き込んだ。


「まぁ。荒草くん、大丈夫?」

「ま、まさか……」

「そうなのよ。ねぇ、これってどう思う?」

()()()()()()って、そういう……? いやまさか……」


 今年1番驚いた僕の表情を見て、やがて立花さんが、とびっきりの笑顔を見せた。


「……来年もまた、同じクラスになれると良いわね」

「え……」


 その瞬間、僕の時間が止まったような気がした。白紙の頁の上で、微炭酸の泡が弾けてシュワシュワ鳴った。僕は汗を拭った。これは来年もまた、何かと忙しくなりそうだ。


〈了〉

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