エピローグ 人生の再生
あれから、いろいろあった。本当に、いろいろ。
住む家が変わった。仕事が変わった。言葉遣いが変わった。
あとは、何が変わっただろう。
いや、変わっていないことの方が少ないか。
クソジジイとクズ神父が騎士団に捕まり、屋敷にいた全員は被害者として騎士団の保護下に入った。
その中で異例だったのが、俺とダニエラ。
共犯の主張をしたダニエラは罪人として収監され、不要なまでに呪術も魔法も扱える俺は監察対象とされ、更生保護として騎士団預かりの身分になった。
それについては別に文句はない。俺が逆の立場でもそうする。
「いやあ、魔力を測定できる人って案外いるんだねえ」
「はあ、そうですね」
「つれないな~」
「荊君と比べられて喜べるわけないじゃないですか」
「嘘……、セナクンレベルでもそう思うんだ」
俺の監察官を担当しているラドファルール卿はとにかく忙しい。
本来は監察官なんて仕事は受けない立場らしいが、荊君とセルク卿が強引に取り付けてくれた。
ラドファルール卿は不思議な人だ。騎士なのに腕っぷしは強くないし、魔力も強くない。正直、戦うという意味ではすごく弱い。
それでも、いろんな人から慕われていて、あの荊君も信頼しているすごい人だ。彼に人徳がある理由は、一緒に行動するようになってすぐに分かった。
「別に騎士団で更生活動しなくても、妹チャンと一緒にギルドで活動したって良かったんだよ?」
「俺のことは俺の力で清算します。それに、会えないわけじゃないですし」
今の俺の仕事は、ラドファルール卿の秘書官。
騎士団の白い制服を着て仕事をすることになるなんて、あの屋敷にいた頃には想像もしていなかった。
ペネロペと荊君が似合うと褒めてくれたから、この制服は嫌いじゃない。
「荊君とラドファルール卿にはお世話をかけますけど」
「いやいや、俺は仕事を手伝ってもらえてかなり助かってるし。式上クンなんかセナクンを甘やかしたくて仕方ないって感じだし。甘えときな、甘えときな」
荊君は引き取り手のいない俺の保護者を申し出てくれた。
俺は監察対象ではあるが、荊君かラドファルール卿が同伴してくれていれば自由に行動できる。当然、仕事の上官であるラドファルール卿を私事に付き合わせるわけにはいかず、荊君が率先して俺の面倒を見てくれていた。
ペネロペの面倒も積極的に見てくれていて、本当に助かっている。
「式上クンってば、ここには一回仕事で来たっきりでちーっとも近寄りもしなかったのに。今や時間があれば顔出してさあ。愛されてるねえ、セナクン」
俺もそう思う。
「……いつかきちんと恩返ししないと」
「うんうん。いいぞ~、若人~! オニーサン、応援しちゃう!」
俺が何も返せないのにって言うと、荊君はすぐに怒る。
俺が楽しそうにしていると、荊君は目を細めて笑う。
俺が辛くて苦しんでると、荊君は何も言わずに傍にいてくれる。
俺の命を必要だと言ってくれた死神。
俺の人生を一緒に背負ってくれる死神。
俺のことを誰よりも理解してくれる死神。
そんな優しくて強くて格好いい死神が俺は大好き。
騎士団の仕事をするようになって、二つ日課が増えた。
一つは牢屋へと通うこと、もう一つは呪詞を上げること。つまりは、クソジジイの牢屋で、色欲の呪術をかけること。
実のところ、俺がクソジジイの牢の前で、恨み辛みをぶつぶつ言っていることは騎士団内でもわりと知られている。
でも、呪術をかけていることまでは知られていない。呪詞なんて普通に生きていれば耳にするものではないし、何を言っているかなんて呪術師にしか分からない。
俺の境遇を知っていれば、クソジジイに恨みがあるのも人情として分かる、という奴が多く、好都合なことに目撃されたところで憐れみの目を向けられるだけだった。
「飽きるまでは相手してやるよ」
折の中で聞き苦しい嬌声を上げる老人の惨めなこと。
せっかく荊君が長く苦しむようにしてくれたんだから、俺はその心遣いに持てる力すべてを持って甘えることにしていた。
自分の体に流れる血が憎くて、死んでしまいたいと思うことがある。
だから、俺はいつかを待っている。
いつか、こいつに復讐することが愚かなことだと気付く日を。
いつか、こいつのことなど忘れてしまう日を。
いつか、自分の人生が心から幸せなものだと思える日を。
お読みいただきありがとうございました。
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