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死神と呼ばれた悪魔使いは追放された異世界で生贄少女と生きていく  作者: 真名瀬こゆ
第2部 第3章 因果はめぐる糸車

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第25話 もう一人の呪術師

「死神の生贄、アイリス・オーブシアリー!!」


 ダニエラの腹の底から張り上げた声が屋敷中に響く。

 彼女の隙のない服装と凛とした立ち姿が、言葉の迫力を過剰にさせていた。まるでここは舞台の上のようだ。演目は低俗なものであるが。


「その呪われた女をこちらへ引き渡しなさい!!」


 女の大声に空気が揺れる。

 荊はゆっくりと前に歩み出た。ネロもならって静かについていく。


「この状況で最初の発言が、旦那様のご子息の心配でも、花嫁候補の心配でもないなんて。とてもいさぎよいですね」


 そう言うと、すうと目を細め、唇で弧を描く。形だけは笑顔のそれであるが目の奥は冷え切っていた。


 空気の温度が下がる。体感ではない。急速に冷え始めたそれに、呼吸をすれば白い息が漂うのが誰の目にも見えた。

 冷気。

 場を支配しようという冷たさに全員が気づいている。しかし、慌てた反応を見せるのはイーサンだけだ。荊から冷気だけでなく、敵意も受けている使用人の二人は微動だにもしていなかった。


「ダニエラさんが俺に依頼を持ち込んだのは、解呪の呪術師を見つけるためだと思っていましたが――」


 気温はとっくに氷点下に達していて、まだまだ下がり続けている。

 肌を刺す寒さのせいか、荊の声色すらも凍てついたものに聞こえた。耳から入り込み、身体の内側から侵していくような声。


「アイリスをこの屋敷に連れてこさせるのが目的だったんですね」


 一閃、刃が通るようだった。

 荊の問いかけに対する返事はない。


 荊は黙ったままでいるダニエラとセナに視線を向けた。

 ダニエラは瞼を閉じて、自ら視界を遮っている。

 セナは無表情のまま、意思の見えない眼差しでアイリスを見ていた。荊にはちっとも関心がないようである。


「セナ君」


 セナは顔の向きはそのままに、眼球だけを動かして荊を見やった。淀んで濁った瞳。先程までの愛想の良い少年執事の姿はここにない。


「アイリスが目的だったなら、ナターシャさんの呪いはもういいよね? 呪術を解いて欲しい」


 荊の言葉はまるで緞帳だ。

 世界からこの空間だけを切り取ったかのように、一瞬だけ時間が止まった。不穏な静寂。


 ひゅっと息を呑むような短い悲鳴は、荊の背後から上がった。発したのはイーサンである。寒さにか、恐れにか、はたまたそのどちらもか、身体を震わせた少年は「何を……、セナが呪術師? ナターシャに呪いをかけてるのは、ジジイじゃ」と愕然としていた。

 荊はセナを見据えたままで口を開く。


「違うよ。ドルド卿が術者だとしたら、君がさっき言ってたように色欲の呪いをかけた上で呪具をつけるで話は終わりだ」


 そもそも、ドルドがナターシャを手篭めにしようとしたのならば、荊に依頼がされるという状況がまず起こらない。

 どうやら、アイリス誘拐計画はイーサンの耳には入って来ていなかったようだ。


「ナターシャさんは俺に調べられることが前提だったから怪我もしてないし、呪具もつけていない。解呪の呪術師が割り込んできたのは想定外だったろうけど、彼女が死にかければ俺がアイリスを頼る、もしくは、アイリスが自ら助力を進言すると踏んでたんでしょう?」


 ナターシャはアイリスを呼び込むための囮。

 

 荊の疑念は、ダニエラが首都のギルドまで足を運び、依頼を持ってきたことから始まっている。

 荊が担当することにこだわる執拗な態度。噂を聞いたというあからさまな嘘。


 そこには、荊を屋敷に招き入れなければならない理由があったはず。


 実際にナターシャを見て、まず荊が立てた仮定は解呪の呪術師――ペネロペを殺すのが狙いなのではというものだ。

 次に、アイリスの境遇を聞き、ナターシャの呪いが悪化したことで新しい仮定が生まれた。アイリスを手に入れるのが狙い、というものだ。

 それでも、荊はペネロペが狙いだと思っていた。さっきのダニエラの発言を聞くまでは。


「違う? セナ君」

「――何のことですか?」

「まだ隠し通せる気でいるの?」


 荊は片眉を吊り上げた。


「セルクさんに呪いをかけなきゃ、ばれなかったかもしれないね」


 セナの失敗はセルクへ呪いをかけたことである。

 これによってナターシャとセルクに呪いをかけた呪術師は同一であり、なおかつ、屋敷にいることが確定してしまった。


 あとは疑いのあったダニエラ、イーサン、セナからの消去法だ。

 セルクに呪いをかけた方法が呪言ならば、ずっと一緒に行動していた荊が気づいたはず。ならば、直接の接触による呪い。あの日、セルクが触れたのはイーサンとセナ。ペネロペの依頼人であるイーサンが除外されれば、一人しか残らない。


「……いや、でも、そうじゃなかったとしても、きっと、君が呪術師じゃないかって疑いは持った」


 荊は憐れみと悲哀を冷静な表情の裏に隠した。

 運命の悪戯という言葉について考える。


「セナ君。君は解呪の呪術師のこと、どれだけ知ってる?」


 セナは荊の質問の真意を測りかねていた。セナだけではなく、この屋敷の人間は全員が怪訝にしている。


 しかし、アイリスとネロはその意味がよく分かっていた。

 セナの容姿を見れば、その疑問を抱く理由は一目で明らかなのだ。

 くすんだ金髪、瑠璃色の瞳、背中から生える瑠璃色の羽、白い羽毛の脚、黒く細いあしゆび


 ペネロペと瓜二つの姿。

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