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死神と呼ばれた悪魔使いは追放された異世界で生贄少女と生きていく  作者: 真名瀬こゆ
第2部 第2章 怪しいお屋敷の眠り姫と静寂の森の呪術師

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第14話 呪術に苛まれるがまま



「ひあ! や、やめ――!」

「やめてあげてくださいよ。幼気いたいけな女の子に手を出すなんて」


 荊はこの状況に嫌な予感がひしひしとしていた。

 自由になっているセルクの右手は荊の腕を撫で、左手はペネロペの腹を撫でている。楽し気に笑い声をあげる彼女の様子は甘ったるい。

 荊は深いため息をつく。セルクが正気に戻った時、自害してしまわないか心配だった。


「ペネロペ、セルクさんのこと解呪できそう?」


 死んだ目をした荊が申し訳なさそうに声を絞り出す。

 血の飛び散った床、氷漬けで転がされた女、色欲に溺れる騎士。頼りの呪術師は息も絶え絶えである。一生懸命、卑猥な手を掴んで押さえようとしているが、少女の細腕では現役騎士に敵いそうにない。


「が、頑張る、けど、ちょっと時間かかる、かも。単純だけど、力が強い」

「じゃあ、とりあえず、氷で拘束して――」

「だ、駄目!」


 先ほどの傀儡人形の反省を生かし、下手なことをされる前に適度に氷漬けしてしまおうという発想に制止がかけられる。


「お兄さんの、それ、力が強すぎる。魔力が、そっちに引っ張られちゃう、から」


 悪魔の力が魔力に影響するのは荊も納得するところだった。しかし、そうなると解呪できるまでこのままなのか。

 仕方ない、とセルクを羽交い絞めにする腕に力を入れ直す。少しでも隙を見せれば拘束を剥がされてしまいそうだった。


「ひ、ひい」

「……ペネロペ、大丈夫?」

「ん、だいじょ――ひゃあ!」


 艶やかな女の手。

 ペネロペは真っ赤な顔で口を押えた。自分の口から飛び出した悲鳴が聞いたことのない声で驚いたのだ。

 身体を這う手の感触、布の擦れる音、劣情に満ちた瞳で見下ろしてくる女、同情の目で見ている青年。羞恥しか感じられない空間で、少女は今にも泣き出しそうである。とても解呪どころではない。


「セルクさん! ペネロペの邪魔しないでください!」

「邪魔してるのは式上だろう。ペネロペは可愛いな」

「うう」


 とうとう限界だったらしい。ぼろぼろと涙を零し始めたペネロペは「へ、変なとこ、触らないでよう」と両手で身体を隠し、縮こまってしまった。


 荊は逡巡した。しかし、結局は目の前のペネロペの姿が見ていられず、覚悟を決める。

 致し方なしにセルクを拘束していた腕を解いた。それから、彼女の首を自分の方へと向け、ちうと瞼に唇を落とす。


「俺で我慢してください」


 セルクはきょとんとして荊を見やった。


「なんだ、式上。構って欲しかったのか?」

「……最初に言っておきますけど、俺は悪くないですからね。後から殴られるの嫌ですよ」

「減らず口め」


 荊はセルクの腰に手を回す。


「ペネロペ?」

「う、うう。僕、こんな、うう。は、破廉恥だ」

「お願いだから頑張って!」


 ようやくと解放されたペネロペは、ゆっくりと起き上がり、溢れる涙を拭った。慰めてやりたいところであるが、そんな余所見を許してくれるほどセルクの腕力は優しくなかった。


 荊の首から後頭部にかけて、セルクの右手が添えられている。その手は荊を自分の方へと引き寄せるべく力を入れていた。下手したら折る気なのでは、と勘違いしたくなる強さである。荊は身体をのけ反らせて距離を保った。力が拮抗している。


 そうこうしているうちに気を持ち直したペネロペが半泣きで荊の元へと寄ってきた。

 

「ご、ごめんなさい。解呪、すぐ、やる」

「いや、ペネロペは何も悪くないから。ところで、解呪ってどうやってするの?」

「え、えっと、体に触れながら、それが一番早い」

「分かった」


 荊は自分の身体の上で遊んでいたセルクの左手を取ると、ペネロペの方へと突き出した。

 不思議そうにするセルクに「ペネロペも混ぜて欲しいんですって」と適当を投げつけて手を繋がせる。セルクは嫌がるどころか喜び、指と指を絡めるように小さな手を握り締めた。びくりとペネロペの肩が跳ねる。


 ――この人、呪いが解けた時に、本当に憤死したりしないよな。

 荊はセルクの首元から耳にかけてを撫で上げる。こちらに意識を奪っておかなければペネロペにちょっかいを出されてしまう。

 どれくらいならセーフだろうかと考えながら、荊は優しくセルクの肌に触れた。


 三十分近く、甘い空気を漂わせながら触れ合い続け、荊は精神的に疲弊していた。

 時間を重ねるごとに、セルクの要求は濃密なものを求めて過熱していく。反して、呪いの力が弱まっていくほど、彼女はうつらうつらとし始めていた。

 かくんとセルクの首が荊の肩に落ちてきたのと、ペネロペが「終わりました!」と万歳をしたのは同時だった。


「お疲れ様、頑張ってくれてありがとう」

「う、ううん」


 荊はセルクを散らかった部屋の中で比較的片付いている場所に彼女を寝かした。


「疲れてない?」

「平気」


 ペネロペは気丈にぐっと握りこぶしを作ると、氷漬けの傀儡人形へと近寄った。掃除する暇もなく、ぶちまけたままになっていた血はもう乾いている。


「あの、お兄さん」

「荊でいいよ」

「え、あ、い、荊……」

「なあに、ペネロペ」


 ペネロペは口をもごもごとしながら「氷、溶かして。傀儡人形、解呪する」と願い出た。

 荊はペネロペの隣に並ぶと、その顔色があまりよくないのを認め、心配に顔を歪める。ここ数時間でいろいろとありすぎた。調子が悪くなるのも当然である。


「それはいいけど、魔力使いすぎじゃない? ちょっと休んだら?」

「う、ううん。傀儡人形、術が難しい分、解呪しやすい、から」


 絶妙なバランスの上に成り立つ繊細な呪術を壊すのは簡単だった。ちょっとでも亀裂をいれられれば機能しなくなる。

 逆を言えば、そんな緻密な呪術が可能なくらい相手は強大だ。


「頼もしいね」


 荊はぽんぽんと少女の頭を柔らかく叩く。少女が頑張るというならば、その心意気に応えてやりたかった。

 傀儡人形に馬乗りになり、氷を溶かした。途端、傀儡人形は「オソウジシナキヤ! ジユジユツシ、コロサナキヤ!」と騒ぎだす。

 じたばたと身体を揺らす女を押し付け、ペネロペに目配せすれば、彼女はこくりと頷いた。

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