第1話 三人寄れば魔物狩り
式上荊は命を失った魔物たちの身体が燃えていくのを黙って見ていた。
この火の元である全身が木でできた角の生えた魔物――元の世界で言うところのガゼルのような生き物は、まるで自動に動く木彫りの人形で、荊の目には一種の芸術に見えた。が、その実態は人間や魔人の子供を浚い、その角に頭蓋骨を連ねるという妙な習性を持つ害獣。
確かに荊が首を狩ったそれの角にも小さな頭部の骨が刺さっていた。
厄介なことに群れをなして生活しているという魔物たちの首を片っ端から刎ねるのが今日の依頼だ。
仕事の大変さは魔物を殺す事よりもその後片づけだった。木でできた体は簡単にぼろぼろになり、どれが魔物の肉だったか判別がつかない。
あちらこちらに散らばった死骸を集め、火をつけたのが数分前。元の身体が木製だからかよく燃える。
すべてが灰に変われば、任務完了だ。
「ほーんとに二人とも強いね〜。オニーサン驚きを隠せない」
小さくなり始めた火を眺めながら、ほけっとした感心のため息をもらした男はラドファルール・レプレス。この国の治安維持組織である騎士団の一員で、ここ最近に荊が請負った依頼すべての依頼人でもある。今日も例にもれずだ。
足の長い優男はくわえ煙草をしながら、ぱちぱちと称賛の拍手を送った。服装こそ騎士団の白い制服であるが、その振る舞いはどうみても見物人である。
少しだけ離れたところに並び立つ二人とはスタンスが違った。
大きすぎる焚火の真ん前に並んで立っていた二人は魔物の返り血に汚れている。
大鎌を握る妖しい魅力の青年と金棒を握る二本の角の生えたメイド服の美少女。死神と鬼。荊と蘇芳。
「あたしらはギルド・エリオス支部の双璧だから」
蘇芳は自分の腕よりも太い金棒を担ぎ上げ、ふふんと得意げに鼻を鳴らした。彼女の額から伸びた角が炎の色を受けて一層赤く見える。
くいと赤ぶちの眼鏡の位置を直す仕草はわざとらしい。
「いやあ、いつもありがとね。双璧の蘇芳チャンサマ」
「任せたまえよ、ラド君」
「さっすが~、頼もし~。双璧の式上クンサマもこれからもよろしくね」
「変な呼び方やめてください。それに俺みたいな若輩者が蘇芳ちゃんに肩を並べるなんて、おこがましいですよ」
戯れ始めた二人に荊は肩を竦めた。
ここのところ専属と言っていいほど騎士団からの依頼しか受けていない。そして、大体にしてその内容は厄介な魔物討伐である。となると、メンバーは必然と荊、蘇芳、ラドファルールの三人の固定になっていた。
そうして荊が知ったことは、蘇芳とラドファルールを一緒にするとふざけ始めるという事だ。
実際のところ、二人は荊が構ってくれるのが楽しくてそうしているのだが、彼がそれに気づく素振りは今のところない。
「え、もしかして、式上クン、蘇芳チャンがいくつだか知ってる?」
ラドファルールはきょとんとして首を傾げた。
見た目だけを言えば、十八になる荊の方が蘇芳よりも年上に見える。しかし、彼の口振りはそうではないと言っていた。
「二十五歳」
すぱんと言い切った荊に二人は驚きの表情を浮かべる。蘇芳は「……なんで知ってるの?」とぎこちなく首を傾げた。
どうやら正解のようだ。
年齢を言い当てられた少女――いや、女史は怪訝に目を細めた。半目になって荊を窺う視線は渋い。
「え? オレの年齢も分かる?」
「二十二歳」
「嘘ォ! 式上クン、何その一発芸!」
浮かない顔の蘇芳に対し、ラドファルールは飛び上がって喜んだ。あっはっはと高笑い、すごいすごいと褒め称える。
「いやいや、荊君。本当になんで分かるの?」
「魂を見る方法を知ってるので。年齢くらいは――」
「え!? やっぱり死神だから? 寿命を確認するみたいな? オレあとどれくらい生きてられる?」
「違いますし、分かりません」
大興奮のラドファルールを荊はぴしゃりと否定する。
魂を見る方法、それは正確には荊の能力ではなく、荊と契約する悪魔の能力だ。そもそも、魂の品位を見極める力であり、年齢が分かるのは付随効果である。
「式上クン、魔力を測ったりもできんの?」
また知らない単語だな、と荊はぼんやり考えた。
この世界に来て一か月が過ぎた。生活基盤ができあがり、ようやく軌道にも乗ってきたところ。それでも常識を知るには時間が足りなすぎる。
荊はまだまだこの世界の新参者だった。
「俺、魔力が何だか分かりません。魔力があると何ができるんですか?」
荊は学生のように挙手をし、教えを乞う。
この光景はこの三人で仕事をするようになってからよくあるものだった。
蘇芳は異世界出身の荊の境遇を知っているし、ラドファルールは嘘か本当か荊を死神として扱っている。死神ならば人の世を知らずともおかしいことではない。
そうとなれば、荊は二人を相手に、この世界の人間のふりをして無知を隠す必要がなかった。
きらりと蘇芳とラドファルールの瞳が光る。
二人は不敵に微笑み、荊の前に並んだ。結局、二人は荊に構われたいし、構いたいのだ。世間知らずな彼が知らないこととであった時はその絶好のチャンスだった。
「荊君、魔力とは! 異能を操るための生まれ持った才能!」
「魔法、魔術、呪術――いわゆる後天性異能ってやつの適正~」
――出た。またこの手の話だ。
荊は思わず顔をしかめる。元の世界での基準ではないことが必ずあると頭で分かっていても、剣と魔法のファンタジーな話題が彼は苦手だった。
悪魔使いがどの口でものを言っているのか、というものだが、荊にとってそういった異能は裏社会の汚れ仕事をするものという認識が強いのだ。
勇者だ魔王だと言われると、悪魔使いの存在もそのうちに一緒くたにされているようで嫌だった。
悪魔使いはそんなに輝かしいものではないし、みんなが口々に話すようなものでもない。
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