表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神と呼ばれた悪魔使いは追放された異世界で生贄少女と生きていく  作者: 真名瀬こゆ
第1部 第2章 世間知らず、世に放たれる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/193

第19話 喧嘩の相手は選ぶべき

 手土産を持ってきた成果は出した。請け負った仕事が今後どう作用するかは明日の出来次第。お楽しみである。

 応接室を出た瞬間、荊は既視感に襲われた。もはや、呆れを通り越して感心する。

 ――これもお家芸といえるのだろうか。


「荊さん……っ」


 歯をむき出しに威嚇するネロを膝に抱え、アイリスは困ったように眉を下げていた。その隣では屈強な男がにたにたと黄色い歯を見せて笑っている。


「おっ、兄ちゃん、賄賂はうまくいったのかァ?」


 下品で耳障りな笑い声。男の笑声を皮切りに、離れたところでたむろっていた他のメンバーたちは堪えるようにして笑い出したのが半分、我関せずと目を逸らすのが半分。歓迎されていないことは確かだ。

 荊がちらりと横目で蘇芳に彼らの無礼を訴えても、彼女は肩をすくめるだけだった。ギルド側に害がないかぎり、肩入れはしないスタンスなのかもしれない。


「彼女にどんな用事ですか?」

「実力もない口先だけの男についていくこたぁねぇって、教えてやってたんだよ!」

「それはご親切にどうも」


 嫌味を聞き流せば、ご機嫌だった男の顔が陰る。

 対して、荊を見つけるやいなや、アイリスは分かりやすく安堵していた。もう助かった気でいるようだ。

 そんな彼女の仕草も気に入らなかったのか、男は華奢な肩を自分の方へと引き寄せる。アイリスの口から小さな悲鳴が上がった。


「にゃあ!」


 一触即発――、我慢の限界がきたネロが爆発寸前である。

 そのまま経過を見守ってもいいが、荊はするりと手を伸ばして、何もないところから大鎌を手にした。不躾な男の喉を噛み千切ろう、とばかりに飛び出した猫を刃の上に乗せて拾う。

 邪魔をされたネロはむっとした様子で荊を一瞥し、鎌の柄を歩いて彼の肩の上へと収まった。


「すみませんね。うちの猫、好戦的なんです」


 だらりと男の腕がアイリスの肩から落ちる。拘束がなくなると、アイリスは飛び上がるように荊の後ろに身を隠した。

 少女が手元に戻っても、荊は大鎌を突き出したまま。柄をくるりと反転させれば、刃が男の方へと向く。


「いい子だね、アイリス。実力もない口先だけの男についていかなかった。えらいえらい」


 男の顔が怒りに染まる。一瞬で沸点に達したのがひと目で分かった。しかし、彼は怒りに震えるだけで動こうとしない。

 荊はためらいなく鎌を振るう、という判断が男をはりつけにしていた。彼は花をたおるように人の首も刎ね飛ばすと、息をするように殺しをすると、静かな殺意が教えてくれている。

 この場でそれを分かっていないのはアイリスだけだ。


 男だけではない。ここにいる誰かがちょっとでも動けば首が落ちるのでは、という緊張感に張り詰めていた。いつの間にか、笑い声は聞こえなくなっている。


 荊は怪しく目を細め、蘇芳へと視線を向けた。単純に力の誇示である。これくらいはできるから、稼げる仕事を寄越せという主張だ。

 蘇芳はこの時に初めて、あの首を落としたのがこの男で、それも至極簡単に切り落としたであろうことを確信した。


「驚いた! すごいことができるんだね!!」

「恐縮です」


 蘇芳は率先してこの嫌な空気を壊した。このまま仲介をせずにいたら、飛び散った血の掃除をすることになると思ったのだ。そんなのは面倒すぎる。

 荊は鎌を手放すと、恭しくお辞儀をした。


 男はばたばたと荒れた足音を立ててギルドから出ていく。それに目をくれるのは、たむろっているギルドメンバーたちだけだ。あるものは蔑みを、あるものは嘲笑を、あるものは同情を。


「ごめんね、アイリス。一人にしちゃって」


 荊はアイリスにネロを抱えさせ、もともと座っていた椅子へとエスコートした。自分も隣に座り、読めない文字で書かれた書類に目を通す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ