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プロローグ 好奇心は猫を殺す

 腐れ縁の幼馴染は変人だった。

 その縁は同じ日に同じ病院で生まれたことから始まり、家が隣同士なうえに小中高ときて大学まで一緒、と現在進行形で続いている。関わらずに生きていくことの方が難しい距離だった。そうじゃなかったら、この変人と友達にはなっていないと思う。


 大学の敷地内の隅、サークル棟の二階の一番奥、オカルト研究同好会の部室。そこが幼馴染の第二の巣である。第一の巣は彼女の家の自室だ。

 規模の小さい同好会に与えられた部屋はお世辞にも広いとは言えない。ただでさえ狭い部屋であるのに、用途不明のあれやこれが積まれていて一層に閉塞感を感じる。極めつけは日光を遮る分厚い黒のカーテンだ。

 呼び出されて来たはいいものの、非常に居心地が悪かった。


 呑気な幼馴染は私の不快感など気にも留めずに、部屋の真ん中に置かれたテーブルに座って「よく来てくれた」と対面のパイプ椅子を私に勧めてくる。ここまで来て断る道理もないので大人しく席に着いた。


「……で、悪魔憑きがなんだって?」


 すべてを端折って本題から入る。届いたメッセージの内容はちゃんと読んでいないが、今日の議題はこれだったはずだ。


 本人の性格の問題か、話題の内容の問題か、幼馴染の話し相手は私かオカ研の仲間しかいない。そして、()()()()()を掴むと彼女は必ず私だけを部室に呼び出した。今回も例に漏れずである。

 幼馴染は年甲斐もなくぷくりと頬を膨らますと「悪魔憑きじゃなくて悪魔使いだよ」と私の言葉を訂正した。その二つの何がどう違うのかは知らないし、興味もない。


「悪魔と契約を果たした闇に生きる悪の使者。裏社会の仕事人。誘拐、脅迫、暗殺、なんでもござれ。世の権力者たちは悪魔使いを使ってその地位を守ってるの」


 ……またこれだ。この子は都市伝説に踊らされている。


 はずれだ、と無意識のうちにため息が出た。

 正直、この類の話は聞き飽きている。でも、私は懲りずに彼女の招集に乗るのだ。たまにだが、本当に興味をそそられる話があったりするから。

 残念ながら今回の話は私の口には合わなかったけれど、宝探し感覚でここに通うことは今後もやめないと思う。


「じゃじゃーん」


 早々に聞き流すモードに切り替えた私の目の前で、彼女はどこからか取り出した紙を見せびらかしていた。紙自体の色は白、その上には真っ黒の線で奇怪な模様が書かれている。


「何それ」

「悪魔を召喚するための魔方陣」


 う、胡散くさ……。


 声に出さずとも顔に出てしまっていたのだろう。彼女はご機嫌な様子から一転、憤慨した顔で「嘘じゃないよ!」と抗議した。


「これは本物! 五十万もしたんだから」

「ごっ、――五十万!? こんな落書きが!?」

「落書きじゃないってば!!」


 五十万。変な模様を描いただけのコピー用紙が。五十万。

 絶対に騙されている。趣味で許される範疇を超えている。


 そのお金はどこからでてきたのか、売ってきた相手とは連絡が取れるのか。

 言ってやりたいことは山ほどあったけど、どうせ今は言うだけ無駄であると諦めが先行していた。オカルトスイッチの入っている彼女は、私がどんなに正論をぶつけてもまったく聞く耳を持たないのだ。


 こうなってしまうと、まずは黙って話を聞くしかない。説教はその後。


「これに血を垂らすと悪魔が喚べるの」


 言うが早いか、彼女は魔方陣とやらをテーブルの上に敷き、近くに用意されていたカッターを利き手に握った。ひくり、と私の頬が無意識のうちに引きつる。


 何に使うかと思えば、こんなことのためだったとは。これだから不必要に行動力のある奴は……!


「……まさか、今からやるの?」

「もちろん!」


 彼女は満面の笑顔であるが、私には何が楽しいかさっぱり分からない。


 私が制止の言葉をかける間もなく、彼女は空いている手の人差し指の先を切りつけていた。ぷくりと湧き上がる赤い雫。その量は零れ落ちるほどではなく、どうにか血を落とそうと彼女は魔方陣の上でぶんぶんと手を振っている。

 随分、格好がつかない儀式だ。


「あ」


 ようやく、血が落ちる。


 ――――それからどうなったのか、私は覚えていない。

お読みいただきありがとうございました。


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