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木曜日のひだる神~おじいちゃんとJKあやかし食べ歩き祭~  作者: 刀綱一實
路地裏のハンバーガータワーと、中華街のタピオカ
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おまけが欲しい!


(とりあえず聞いてから決めよう。メインを先に考えるんだ)


 ホットドックも美味そうだが、やはり最初なので看板メニューのハンバーガーを試しておきたい。そうなると、あまり奇抜でないトッピングは……


「チーズ、エンジョイチーズ、ベーコン、茸とモッツァレラ……このあたりか」

「私、ベーコンチーズ」

「迷いなくカロリーの上乗せを……」

「肉と油は正義」

「清い日本人のはずなのに」

「うるさい。早く決めて」


 怒られてしまった。しかしここでも、俺は壁に突き当たる。


(チーズとエンジョイチーズの違いって何だろう)


 エンジョイの方が百円高いから、なんだか楽しくさせてくれるのだろうが……詳細が分からないのに頼むのは怖い。スープのことも気になるから、まとめて質問してしまおう。


「ひだる、鐘」

「うん」


 さっきから鳴らしたくて仕方なさそうだったひだるが、鐘のレバーに触れる。ちりぃん、と思っていたより大きな音が響いた。


「はあい」


 下から、さっきと同じ女性が駆け上がってくる。ホールは彼女一人が担当のようだ。


「ご注文どうぞ」

「べーこんちーずばっが、ふらい大盛り」

「はい、かしこまりました」


 英語部分は大分怪しかったが、無事にひだるの注文は済んだ。今度は俺の番だ。


「えーと……まず、このエンジョイチーズってなんですか」

「ああ、通常のチーズバーガーは一種類のチーズなんですが、こっちは二個ミックスなんです。味の違いが楽しめてお得ですよ」

「ああ、そういうことか……」


 すっきりした。しかし俺はそこまでチーズ好きではないため、今回はパスする。


「じゃあ、茸とモッツァレラバーガーをメインで……あと、あそこのオレンジ白菜ってのは?」

「ああ、中の葉がすごく黄色い白菜のことです。普通の種類より繊維やビタミンも多いし、とっても甘いんです。冬だけのお楽しみですね」

「それなら良かった。じゃあ、サラダを季節のスープに変更してください」

「かしこまりました。では、今からバーガーを焼きますので十五分ほどお待ち下さい。お水のおかわりは、セルフです」

「わかりました」


 十五分、か。一から作るから仕方ないとはいえ、結構長い。亡霊たちが、手持ちぶさたな表情でフロアをうろついている。


「もうすぐ来るから、好きにしてろ」


 俺が声をかけると、彼らは踊りの練習を始めた。最近踊りに切れがあると思ったら、こんなこともしていたのか。


「なんでこんなことを」

「みんな暇」

「結構成仏したか?」

「そうだね。数十人、もう見送った」


 当初は百人を越える魂の集合体だったのだが、だいぶまばらになっている。


「いいことだな……だが、最後の一体になったら、ちょっと寂しいか?」


 ひだるに聞いてみた。彼女はちょっと、眉間に皺を寄せる。そして答えようとしたとき、客が次々に二階へ上がってきた。自然、オカルトな話がしにくくなって口をつぐむ。


 しばらく沈黙が続いて、どうなることかと思った時……ようやくこの声がしたのだ。


「お待たせしました!」



☆☆☆



「あー、完食完食」


 皿の上は、きれいに空になった。霊体たちも舞をやめ、喜びの余韻にひたっている。二階席は平日だというのに、徐々に埋まり始めていた。


「混雑時は一時間まで、って書いてあるし。そろそろ行くか?」

「そうだね」


 俺たちは早めに席を立った。いつもはごねるひだるが、ずいぶんと大人しい。


「……暁久。言うことを聞くひだるは良い子だな?」

「そういう言い方をするのは悪い子だ」


 なにか目的があったらしい。俺が釘を刺したのに、ひだるは構わず進み続けた。


「これ買って」


 やはり食べ物の無心だった。一階壁際のびんに、ざっくりした全粒粉のクッキーがびっしり詰められている。来た時のわずかな間にこれを発見していたのだと分かると、ちょっと怖い。


「いや、飾りだろ……」

「販売もしてますよ。チョコチップとホワイトチョコチップ選べて……一枚から可能です」

「あるだけ全部」

「お前は黙ってなさい」


 結局ひだると商売上手な店員さんに押し切られ、買う羽目になってしまった。俺とひだるの分で二枚だけ、という条件を貫いた自分を褒めたいと思う。


「ありがとうございましたー。また来てくださいね」


 店を出る。ひだるが食え食えと迫るので、俺もクッキーをかじりながら歩いた。荒い生地に時々チョコレートが混じり、ねっとりと歯に絡みつく。美味いが、帰ったら歯磨きしないといけないな。


「暁久」

「ん?」

「来週は、どこへ行く?」


 ひだるが聞いてきた。俺はそうだなあ、と首をひねる。


「毎回お前が選ぶと胃にもたれるから、次は俺な。大人しく待ってろ」

「うん」


 ひだるはうなずいた。そして先を歩く。勝手知ったるわが家に帰るのだ、といわんばかりに軽く。


(いつまで続くのかねえ、これが……)


 寒空の下、俺は考える。この生活を始めた時は、ひたすら怯えていたのに──なんだか目の前にある背中に、妙な愛着がわき始めているのだ。




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