Ⅰ
西部最大の都市、サールバーツ。
ヴェルヘム国西部に位置する酪農の街。
首都よりもそこまで都会ではないものの西区内では最大の街であり、人々が豊かにのんびりと過ごしている。そして、この街には国内にとどまらず、承認された他国の食材が集まっている。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
サールバーツの街を何者から逃げるように建物の死角を使いながら一人の男が走っていた。
三十代後半くらいの男。
黒のローブを身に纏い、懐には何処からか奪ってきた物を持っている。
「なんで、なんで、あんな所で‼︎」
必死に逃げる男は、自分の仕出かした失敗に悔いていた。
男は人混みを避けながら、裏路地に逃げ込んだ。
男は追いかけてくる人物に顔を見られ、凄く恐れている。
「くそ……。後少しで契約が成立してたのに‼︎」
素顔を見せない男が焦りと追い込みによって、どんどん精神的にきつくなっていく。息が苦しい。呼吸が荒い。
「はぁ、はぁ……。ガホ、ガホ……」
膝に手を着き、足を止める。
荒れた呼吸を通常の呼吸に戻そうと、体が急速に正常へと変換していく。
壁に寄りかかり、周囲を見渡す。来た道を見ると、人々が行き来しているのが見える。一方で、今から行こうとしている道には、誰もいない。
「ちっ……」
男は舌打ちをした。
舌打ちしたのには理由がある。今、向かおうとしている道から足音が聞こえてくるのだ。誰かがやって来る。
「そんなに焦るなよ。たかが、それを見られたくらいで殺されるわけがないだろ？」
その場所から一人の少年が姿を現した。
「くっ……」
男はその少年を見て、悔しそうな顔をしていた。自分がしている所を見られた少年だ。
「流石にこちらとしても見逃せる物じゃねぇーしな。今、ここで渡すんだったらこちらとしても攻撃するつもりはない。さて、どうする？」
