魔拳少女コトミ☆インパクト!
その拳で全てを打ち砕け!! 的なやつです。
魔法少女? いいえ、魔拳少女です。
「優夏ちゃん! おっはよー!!」
「うん、おはよう。今日も無駄に元気ね」
「元気が私のパワーだから! あ、そらちゃんもおはよう!」
「おはよう、コトミちゃん」
晴天に輝く太陽にも負けない明るい笑顔で、天宮コトミは二人の友達に挨拶をする。私立天清小学校の制服を身に纏い三人仲良く歩いている。
コトミは、ちょっと親や周りの人達が特殊で常識では考えられない生活をしているが、小学校では運動神経が良い小学生で通っている。
墨色の長い髪の毛に、赤い瞳。その元気の良さから、クラスでは大人気。そうでなくとも、彼女は日本では知る者はいないであろう大富豪天宮家の一人娘。
嫌でも目立ってしまう。
そんなコトミだからこそ、若干近づき辛い者達も居るがこの二人は違った。二人だけではないが、特にこの二人は、一人の友達としていつも仲良くしてくれている。
「あ! 優夏ちゃん。今日は体育だよ! ドッジボール!!」
「本当、あんたは体育となると目を無駄に輝かせるわね。少しは、勉強にもその元気を使いなさい」
呆れた表情で、ため息を漏らすのコトミの友達の一人である羽柴優夏。かなり棘のある言葉を使うが、根はとても優しい子であり、なんだかんだでコトミにいつも付き合っている。
茶髪のツーサイドアップで、天清小学校へは転校してきたのだ。
「でも、なんだかんだでコトミちゃん。良い成績をいつも取るよね。わたし達が解けなかった問題も解いちゃっている時あるし」
若干羨ましそうにしている黒髪のお下げの子は、大澤そら。見た目通りとても大人しい性格をしているが、やる時はやる子だとコトミは知っている。
いつもコトミに振り回されているが、それでも挫けずついて行っている。
「えへへ。それほどでも~」
「あんたのはただの勘でしょ? 良い成績って言っても理数系が、だからね」
「私は自由に生きてるから!」
「将来のこともちゃんと考えなさいよ、もう」
他愛の会話をしつつ、移動すること十数分後。
私立天清小学校へと到着した。
他の生徒達も、続々と校内に入っていく。
「そうだ! ねえ、今日の放課後なにか予定ある?」
「どうしてよ? また面白い場所でも見つけたの?」
「そうそう! 今度は今までの比じゃないよ! 本当にびっくりするから!」
下駄箱で、靴を履き替えながらコトミは言う。つい先日、とても面白い場所を見つけたと。だが、優夏とそらは申し訳なさそうに言う。
「ご、ごめんねコトミちゃん。今日は、お母さんと約束があって」
「あたしも。今日は、習い事があるの。だから、付き合えないわ」
「そっかぁ。じゃあ、仕方ないね」
自由に生き、押しが強いコトミであるが。友達想いであるため、こういうところはしっかりしている。友達に先約があるのであれば、無理強いはしないのだ。
「今日はいけないけど。その面白い場所っていうのはどんなところなのよ」
「雰囲気だけでも、教えて欲しいな」
「そうだなぁ……うーん」
真剣に腕組みをして思考すること十秒後。
コトミは、簡潔にこう答えた。
「なんかぐちゃぐちゃなところ!!」
「なにそれ。すごく行きたくないんだけど」
「ぐ、ぐちゃぐちゃ……」
コトミの表現力では、まったく伝わらなかった。
・・・★・・・
「ただいまー!!」
「おかえりなさいませ、コトミ様。今日も学校は楽しかったですか?」
「楽しかったよー」
学校から帰宅したコトミを出迎えてくれたのは、執事である絢波駿。本来ならば、学校まで出迎えるのがコトミ自身が歩いて帰りたいと主張している。
車で通っていたら、つまらないと。
友達と一緒に歩きながら登校するのが、日課なのだと言い聞かせているのだ。下校の時もそうだ。やはり一日の終わりは、友達と下校しないと。
「これからのご予定は?」
「とりあえず、森にいく!」
「でしたら、お飲み物をご用意致します。リクエストはございますか?」
「りんごジュース!」
「畏まりました。では、直ちにご用意致しますね」
それから、コトミは私服に着替え、駿が用意したりんごジュースが入った水筒を持ち天宮家の敷地内にある森へと駆け出す。
ぴょんっと四メートルはある高さまで跳び上がり木の枝から木の枝へと飛び移っていく。
移動すること、一分半。
コトミは、今日優夏やそらを連れて来る予定だった場所へ向かう途中だった。そこは、何もない拓けた場所で、その中心には虹色に輝く渦のようなものがあった。
なんだろう? と好奇心旺盛なコトミはくるっと一回転して地面に着地。迷うことなくその渦へと近づいていく。
「うーん。この中、どうなってるんだろ?」
最初は、ただただ観察しているだけだったが。
「よし! 一回入ってみよう!!」
目を輝かせながら、コトミは戸惑うことなく渦の中へと飛び込んでいく。
が、問題が起こった。
「うわわ!?」
渦の中に入ろうとした刹那、向こう側から何かが押し寄せてきたのだ。コトミは、直感的に危ないと思い後ろへと飛び跳ねる。
「ギギギッ!」
「なんだろ、あの生物」
向こう側からやってきた何者かを目視した。木の枝にこちらの様子を窺うように、睨んでいるコウモリのような、いや猿のような? よくわからない生き物だ。
人のような形をしているが、コウモリのような翼が生えており、鋭い牙に爪、赤い瞳はカメレオンのように飛び出ている。
肌の色は全体的に黒く、体長はおそらく二メートルはあるだろう。
「こら! 待てって言ってるだろ!」
「おっ?」
「え?」
謎の生物の次に、今度は何が出てくるのかと思いきや、これは驚愕。
「私?」
現れたのは少女。しかも、コトミと瓜二つ。髪の色や瞳の色以外は、コトミの分身かのような見た目だった。
少女は、巫女のような姿をしており、その手には機械な剣が握られていた。
「君は……って、今はそうじゃない!」
「行っちゃった」
先に出てきたあの謎の生物を追いかけてコトミに似た少女は飛び出していく。そして、これから入ろうと思っていた虹色の渦が消滅してしまったのだ。
「あー! 消えちゃった……」
とても困った。
それに、これからどうしようか? やっぱりここはさっきの少女を追いかけるべきだろうか。あの生物も明らかに危険な存在だ。
今追いかければまだ追いつくか?
今日の予定は、もうない。
だったら追いかけるべきだ。よし! と頷きコトミはさっきの少女を追いかけていく。まだ近くにいるはずだ。
まずは、森の中をくまなく探そう。
「……あれ?」
その結果。森の中にはいなかった。そうなると、敷地外へと行ってしまったのだろうか? 一番大きい木の天辺から顔を出して周りを見渡すも、ここから見える範囲にはいなかった。
・・・☆・・・
「はあ……はあ……はあ……くっ。なんで、力が!」
少女は左腕から血を流しながら、廃ビルの中で荒い息を整えながら唇を噛む。
「普段なら、あんな奴に遅れはとらないのに」
そこで、少女は近くに散らばっていたゴミの中から、一冊の雑誌を見つける。所持していた布で傷口を塞ぎ雑誌を手にとる。
どうやら情報雑誌のようだ。
ざっと流し読みをして、閉じる。
「……そっか。やっぱりここって」
視線を右へとやり、ガラスが割れている窓から外の様子を窺う。雑誌と、外の様子から少女は思考し納得した。
どうして、力が出ないのか。
どうして、普段通りに戦えなかったのか。
「ここって、僕の居る世界とは違うところなんだ」
少女……コヨミは、こことは違うところからやってきたとある目的のために戦っている。その理由が、先ほど追っていた敵。
あの敵を倒すことが彼女にとって目的を果たすための手段。
そのために、毎日のように戦いの訓練を行い、自分に備わっている力を制御し駆使してきた。
(けど、それは僕の世界でしかうまく発現しない。ここにあるマナは、僕の世界のと似ているようで違う。だから)
手に持ったのは情報端末のような形をした機械。コヨミは、慣れたように操作し耳に当てる。しばらくしてふっと小さく笑い耳から離した。
「やっぱり、だめか。残りの魔力も僅か。次元移動なんて慣れてないことをするもんじゃなかったね」
あの敵を追って、コヨミは次元移動と呼ばれる別次元へと移動をする魔法を使った。これにはかなりの量の魔力を消費するため、滅多にできることじゃない。
しかも成功しないことが多いのだ。
とてもじゃないが、日常的に使える魔法じゃない。だけど、あの敵を倒す事が最優先。戦いの途中なぜか空いていた次元の穴へと敵は入っていった。
元から空いていたために、魔力はそこまで消費しないだろうと……甘い考えだった。
「もし、あいつを倒せても帰るための魔力回復にどれだけの時間がかかるんだろう。その間の、生活も考えなくちゃだし」
これからどうすればいいのか。
痛む左腕を抱きながらコヨミは、天井を見上げこっちの世界に着たばかりのことを思い出す。記憶に強く焼きついたのは、こっちに来てすぐに出会った少女。
「そういえば、さっきの子。僕にそっくりだったな。こんな偶然ってあるんだね。……名前、なんていうんだろう」
・・・★・・・
「それでね! 私と同じ顔の子が出てきたんだよ!」
「なに!? コトミと同じ顔だって? そ、それは……是非に会いたい!!」
「しかし、そんなものが森の中にあっただなんてね。コトミは、色んなものを見つける才能があるな」
虹色の穴から、謎の生物と自分と同じ顔をした少女に出会った日の夜。
コトミは、そのことを父親である天宮卓哉と母親である天宮イズミに包み隠さず話した。普通ならば、信じられない。子供の戯言だと思われるだろうが、この家族は、いや、天宮の者達は違う。
天宮卓哉は異世界へと召喚され、そこで世界を救った。そして、今の奥さんであるイズミと出会い、その部下であるサシャーナを初めとした獣耳っ娘達と地球に帰還。
そこから、ラブラブの生活が始まり無事コトミという最愛の一人娘を授かった。
コトミが、人間離れした身体能力を持っているのは親の遺伝子を濃く受け継いでいるおかげなのだ。
「でもね。その渦も消えちゃったんだ……。中に何があるかすっごく気になってたのに」
ナイフでステーキを食べやすいサイズに切り、フォークで口に入れる。しっかりと噛み締めてから飲み込むと、卓哉はこんなことを言う。
「ん? ということは、そのコトミと同じ顔をした子は帰れないんじゃないか?」
「え?」
「そうだな。もし、その虹色の穴が移動手段のようなものであるなら。それも、自ら空けたのではなく。偶然空いていたものに飛び込んでいたのだとしたら……」
二人の言葉を聞いて、コトミは慌てた様子で椅子から立ち上がる。
「た、大変だよ! その子のこと探さなくちゃ!」
「だが、居場所もわからない。それに、子供はもうお風呂に入って自室で寝る時間だ」
「むぅ……」
「お任せください、コトミ様。ここは私達が探しておきますので」
空になりかけていたコップにりんごジュースを注ぎながらサシャーナはにっこりと笑う。パチンッと指を擦ると獣耳を生やしたメイド達が姿を現す。
そこに、サシャーナが自らの毛で作り出す分身体を加えてところで叫ぶ。
「捜索です! 対象は、コトミ様と同じ顔をした少女! あ、コトミ様。特徴などを軽く」
「えっとね。神の色は白で、なんか巫女さんっぽい服装だったよ」
「なるほど。ありがとうございます。では、諸君。捜索開始です!!」
『はい!!』
まるで、忍者かのように一瞬にして姿を消すメイド達。残されたサシャーナもそれでは! と一礼してその場から姿を消す。
「見つかるといいな、コトミ」
「うん」
・・・★・・・
「それで? 今日はどんなところに案内してくれるつもりなの?」
「今日は、用事がないから一緒にいけるよ」
次の日、今日は二人とも用事がないらしくコトミが先日見せたいと言っていた場所へいけるようだ。それを聞いたコトミは、笑顔で答えようとした刹那。
《コトミ様》
サシャーナからの念話だ。
《どうしたの?》
《コトミ様がお探しの少女を発見致しました。現在追跡中です》
《今どこ?》
《えっと……あっ、コトミ様の目の前です!》
「あっ」
サシャーナの言葉から一秒ほどであの時の彼女が横切る。丁度、優夏やそらは見ていなかったらしくほっと胸を撫で下ろす。
どうやら怪我をしているようだが、それでも必死にあの生き物を追っていた。
《どうしますか?》
《お、追いかける!》
《では、私はもしもの時のために待機しております》
《うん、お願い!》
「どうしたの、コトミちゃん?」
「なにか珍しいものでも見つけたの?」
突然立ち止まったコトミの視線を追って、二人も辺りを見渡すが特にこれと言って珍しいものは見当たらない。
「えっとその。ごめんね! 私、ちょっと用事を思い出したから!!」
「あ、ちょっと!!」
追いかけないといけない。
追いかけないと彼女が危ない。そんな予感がして、コトミの足は自然と彼女が走り去って行った道を進んでいた。
二人には悪いことをした。でも、それでも今は。
「確かこっちに」
立ち止まり周りを見渡す。
だめだ。冷静にならなくちゃ。コトミはふうっと呼吸を整えて、目を瞑り周りの気配を感じようと精神を集中させる。
「……こっち!」
気配を感じ取り、コトミは塀を登ってそのまま走り出す。そのまま家の屋根へと飛び移り徐々にあの少女の下へと近づいていった。
そして、数分後。
そこは人気のない廃工場。
「結界、かな?」
工場を囲むように妙な力。
どうやら人払いの結界を張っているようだ。かなり強力なものだが……コトミは普通に入っていく。
「くっ!?」
「ギギギギギッ!!」
結界内に入った瞬間、あの少女が吹き飛ばされた光景を目撃。謎の生物と戦っているようだが、明らかに押されている様子。
「大丈夫!」
「き、君。どうして。人払いの結界を張っていたはずなのに」
コトミの登場に驚く少女。
近くで、よく見るとやはり似ている。まるで双子かのように。少女の服はところどころ破けており、切り傷も目立つ。
特に左腕は重症だ。
「助けに来た!」
「助けにって。馬鹿なこと言わないの! 君が勝てようような相手じゃないんだあいつは! 僕だって、本来の力があればあんな奴になんて……!」
機械な剣を杖代わりに立ち上がろうとするが、なかなか立ち上がる事ができない。それどころか、機械な剣は光の粒子なり弾け消え去った。
同時に、少女の格好も歳相応の服装に変化している。
「そ、そんな……!」
「ほら、やっぱり限界だったんだよ。無茶しちゃだめだよ?」
尻餅をつく少女の手当てをしようとハンカチと絆創膏を取り出すコトミ。
「ギギギギシャッ!!」
「君! 後ろ!?」
が、そんな悠長なことを許すはずもない。謎の生物は、奇声を上げてコトミ目掛け襲い掛かってくる。少女は、コトミを庇おうと動こうとするも痛みでまともに動けないでいた。
このままでは、コトミがやられる。
しかし、少女の心配を吹き飛ばすようにコトミは。
「おりゃ!!」
襲い掛かってきた生物に回し蹴りを食らわせた。
「え?」
何が起こったかわからない少女は、コトミの勇ましい姿を見て呆然とする。ふうっと一呼吸ついて、にっこりと笑う。
「とりあえず、あいつやっつけちゃうね!」
「え、え? あの、ちょっと待って!」
「なに?」
さっきの一撃で、コトミの力はわかった。そんな顔をしている少女。だけど、それだけじゃ倒せないとばかりにコトミへと携帯端末を渡した。
「これを使って」
「携帯電話? 助けを呼ぶの?」
「違う。それで、変身するんだよ。あいつを倒せる力を与えてくれる姿に」
そう説明されて携帯端末を手に取ると、色んなアイコンがある。
「どうやって変身するの?」
「真ん中にある変って一文字で書かれたアイコンだよ。普通の人には無理だけど。結界を難なく突破して、素の蹴りであいつを……【イマージ】を吹き飛ばした君ならきっと」
「これを押せばいいんだよね? よーし! かっこよく変身してやるぞ!!」
ドラム缶の山に突っ込んだイマージという獣を見詰め、コトミは迷うことなく携帯端末の変と書かれたアイコンをタップした。
刹那。
眩く温かな光がコトミの全身を包み込む。その変身は一瞬だった。いや、一瞬のように錯覚させただけで、コトミ自身には服が変化し、武装が装着されていく瞬間が見えていたのだ。
光の眉はスパークし、弾け、新しい姿のコトミを誕生させる。
「す、すごい……これは予想以上だ!」
「おお!! これが変身した私! なんか……かっこ可愛い!!」
天清小学校の制服は、改造巫女服のようなものに変化し、両腕には先ほど少女が持っていた剣と似たような紋章が刻まれた手甲が装着されていた。
下はスカートで動きやすく、腰元には大きなリボンが装飾されている。両腕だけではなく、両足にも機械の装備があり、かっこよさと可愛さを合体させたかのような姿だ。
「よーしこれなら!」
「耳に尻尾?」
「えへへ。驚いた?」
「……うん。驚いた。君もなんだね」
くすっと笑った少女は、コトミと同じようにキツネの耳と尻尾を生やした。
「すっごーい!! 顔だけじゃなくて、ここまで似たもの同士だったんだね!」
「そうだね。さあ、いつまでも驚いている場合じゃないようだよ」
その通りだ。すでにイマージは空高く羽ばたいており、こちらをどう攻撃しようかと様子を窺っていた。もう簡単にはやられないそんな意思も感じる。
だが、コトミは自信たっぷりな表情でどっしりと構えた。
「大丈夫! 私、すっごく強いから!!」
そっちから来ないのなら、こっちから。
コトミは、たんっと軽く地面を蹴っただけで十メートル以上も跳び上がる。目の前にいきなり現れたことでイマージも驚愕し硬直。
その隙を狙い、コトミは右拳を振りかざす。
「りゃあ!!」
「ギギギッ!?」
見事顔面に右ストレートを決め再び吹き飛ばすが、それだけじゃ止まらない。魔力を足元に溜め込み、それを爆発させることで空中移動を可能とするコトミ。
そのまま吹き飛ばされたイマージの背後へと回りこみ、かかと落としで地面へと叩きつける。
「ギギャッ!?」
「どうだ!」
着地したコトミはドヤ顔。
「グギャ……ギギギ!!」
「あれ? 消えちゃった」
のっそりと立ち上がったと思いきや、イーマジは姿を消した。だけど、ここからいなくなったわけではなさそうだ。
気配は感じ取れる。
「気をつけて! そいつは、周りの景色に同化することができるんだ!」
「それじゃ、やっぱり完全にいなくなったわけじゃないんだね」
そういうことならば、と相手の気配に感じ取ればいい。ただ透明になっているだけだ。敵は、まだこの辺りで自分を狙っている。
「よっと!」
「グギャッ!?」
「おー、長い舌」
攻撃を回避し、見事に掴み取った長い舌。それをコトミはにやっと笑い元気よくハンマー投げの要領でぶん回した。
「とおりゃっ!!」
目を回し、足元がおぼつかない様子のイマージ。それをチャンスと思い、少女は叫んだ。
「よし。そのままトドメだ! コアクリスタルを解放して!!」
「コアクリスタル?」
と言われても、コトミにはなんのことかさっぱりである。少女も、そうだった……! と気づき慌ててコトミにもわかりやすく説明しようとするも。
「ぎ、ギギギ……ギギャアッ!!!」
一方的にやられたことで、怒りが爆発したのか。イマージは、耳が痛くなるほどの叫びを上げてコトミへとミサイルのように突撃していく。
これじゃ、説明している暇がない。
「よくわからないけど……こうだよね、きっと!」
コトミには、説明など不要だった。それは、直感。直感的に、コアクリスタルの解放をやり遂げて見せた。拳同士をぶつけ合い、魔力を手甲の紋章へと集束させる。
「キター!!」
大量の魔力を集束したことで、紋章が刻まれたクリスタルは眩く輝きだし、カシュンッという音を鳴らし展開。
溢れ出す魔力は拳に纏いコトミは。
「必殺! コトミインパクトー!!!」
「ギギャアアアアアッ!?」
真正面からイマージへと叩きつけた。イマージの顎を見事に捉え、結界をも破り天高く。光の柱に包まれたイマージは跡形もなく消滅してしまった。
「……」
「ふいー。いやぁ、すっきり!」
あれだけの力を出したのに、まだまだ余裕の笑みを浮かべるコトミに少女は苦笑するしかなかった。
「終わったよ。さ、次は君の手当てだね。サシャーナ! サシャーナ!!」
「はい、呼ばれてすぐ参上サシャーナさん!!」
「わっ!?」
突然現れたサシャーナに少女はこれまた驚愕。いったいどこから? と。
「サシャーナ。手当てお願いね」
「畏まりました! さ、今から手当てをしますから。じっとしていてくださいね。えっと……」
「あ、そういえばまだ名前聞いてなかったよね。私は、コトミ! あなたは?」
「……コヨミ、だよ」
それから数日。
コヨミは、天宮家で傷が癒えるまでお世話になることになり、今では完治とまではいかないが大分傷も癒えてきている。
「もう大丈夫なの?」
ベランダで景色を眺めていたコヨミに、コトミは問いかける。
「うん。大分ね。でも、やっぱりあのゲートは閉まっちゃったのか。魔力も、ほとんど戻らないし……どうしようかな」
落ち込むコヨミを見たコトミはぎゅっと右手を握り締めた。
「な、なに?」
「それじゃ、ここにいればいいんだよ! 魔力が回復するまで! 帰れるまで! そのゲートっていうのは、もしかしたらまた開くかもなんでしょ?」
「う、うん。ゲートは、一度開いた世界だったらまたどこかで開くことがあるって報告があるからね。でも、迷惑じゃない? 僕のような別世界の住人が居たら」
なーんだそんなことか、とコトミは満面の笑顔を作る。
「だったら、私のお母さんやサシャーナ達だって別世界の住人だよ? 今更、一人増えたところで全然変わらないよ」
「むしろ、僕的にはずっとここに居て欲しいんだが」
「あ、お父さん。お仕事は?」
「今は、お昼休憩だ。コヨミのことが心配で心配で仕事がどうも手がつかなくてな……」
仕事中であるはずのコトミの父親卓哉が突然現れる。どうやら、昼休憩を利用してわざわざ家に帰ってきたようだ。
いつものことながら、とんでもない親馬鹿である。
「卓哉。心配なのはわかるが、仕事が疎かになるようでは上に立つ者として示しがつかないぞ?」
「違うんだよ、イズミ。さっきのはちょっとしたジョークだ。僕は、いつも上に立つ者として、君の夫として。なにより、コトミとコヨミの父親としてしっかりしているつもりさ!!」
「い、いつの間にか、僕まで子供になってる……」
最初ここに訪れた時から、そうだったようにコヨミはずっと卓哉に押されっぱなしなのだ。
「すまないな、コヨミ。卓哉は、獣耳っ娘が大好きなんだ。これも愛情表現。私が言っておくから、許してほしい」
「別に、大丈夫、だけど」
「卓哉。ほら、こっちに来い。昼休憩の間だけでも、甘えさせてやろう」
「よろしく頼む」
まるで嵐のようだった。
卓哉とイズミが去った後、コトミは再びにっこりと笑う。
「ここの人達は、受け入れ万全だよ。それにね、私的にはコヨミともっと仲良くなりたいなって!」
「仲良く、か」
「うん! だから、改めまして!」
すっと手を差し出すコトミ。
「私と友達になろうよ! コヨミ!!」
「……うん。そうだね。友達に、なろう。コトミ」
「えへへ」
「ふふ」
しっかりと手を繋ぎあう二人の少女。その笑顔は、天に浮かぶ太陽に負けないぐらい眩しかった。
前からこんな感じのものを書いてみたいなーっと思っていたので思い切って書いてみました。
やっぱり、ちいさ……いえ! 女の子が豪快に戦う姿っていいものですよね……。
あぁ、映画観に行こうかな。