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第14話『祝福の儀式』

 団長への気持ちに気づいたところでどうなるものでもない。団長がうちの隊に視察に訪れても、わたしは彼の視界に入らないように細心の注意を払った。


 団長から「シュテ……」と呼びかけられそうになったら、速攻でとんずらである。その辺にいた暇そうな隊長に「組み手、お願いします!」なんてあり得ないことを頼んだりした。


 いつもなら面倒そうな隊長も「いいぞ! 来い!」と気合い良く話に乗ってくるので、何度か、むさい顔と向かい合うはめになった。


 結局、団長と一度も話をすることもなく、剣技大会の本戦を迎えた。


 大会を行う闘技場は昔からずっとここにあって、この街の象徴だ。一般の人も観戦できるようになっている。騎士にとって、闘技場の舞台に立つことが名誉だ。


 わたしも幼い頃に何度、行列に並んで大会を見たかわからない。いつか、自分もこの舞台に立ちたいと思っていた。


 儀式用の馬に乗った騎士たちが、祝福者を抱き上げて、頬に口づけをもらう。大会をいい機会にして婚約を申し出たり。この時ばかりは、女性たちからため息が聞こえてくる。男性たちからはうらやましいとの声まで上がる。


 見渡してみると、本戦を決めた副隊長とルセットの姿も見えた。


 ふたりはまるで心の通じあった恋人のように見つめあい、しあわせそうに微笑んだ。ルセットが副隊長の頬に顔を寄せる。祝福の儀式が終われば、勇ましい声が闘技場を支配する。いよいよ戦いの時だ。副隊長はルセットを地上に下ろし、戦いの舞台へと踏み出していく。


 わたしはそこまで見届けて、人混みを避けながら、闘技場を後にした。


 きっと、副隊長は剣技大会で優勝するだろう。ルセットがいれば、ますます力を出して勝つに違いない。負ける心配は一切、していない。剣技大会の優勝で隊が盛り上がってくれたらいい。


 そんなことを一通り考えて、とりあえずは、訓練場に戻って一汗かこうと思っていた。次こそは勝ちたいと前向きに考えて。


「シュテラ!」


「えっ?」


 聞き間違えだったらどんなにいいか。一歩出しかけた足を戻す。


「シュテラ……」


 どう応えればいいのか、わからなかった。ずっと、わたしのなかに居座っていた人が近くにいる。おそらくは後ろを振り返れば、その姿が見えるだろう。


「こちらを向いてくれ」


 手が震える。汗が出る。これは緊張しているから。だけど、胸が痛くて、息が苦しいのは、きっと、緊張のせいだけじゃない。振り向いたら、団長を前にして感情がこぼれてしまうかもしれない。だから、冷静を装って「それはできません」と断った。


「それなら、無理矢理でも向かせる」


 肩に手を置かれた。「向かせる」と強く言ったくせに、手は置かれたままだ。わたしの意志を優先してくれる団長に泣きたくなる。今はこの優しさが苦しい。


「シュテラ、頼むからこちらを向いてくれ」


 なんて言うから、まるで懇願しているように聞こえてしまう。これ以上、期待させないでほしい。もう限界だった。


「嫌です!」わたしは肩に置かれた団長の手を振り払い、駆け出した。

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