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第11話『予選試合開始』

 予選の当日はあいにくの曇り空だった。この空のように心と体もそろって重たい。重すぎて朝食も喉を通らなかった。


 顔や腕の筋肉が強ばって、緊張し過ぎている自覚はあった。一目でも団長に会えば、勇気をもらえそうな気がする。だけど、これ以上、何かをもらおうなんて図々しいことは思わない。祝福の約束だけでも大きなことだ。


 それに、自分の力だけで突破してみせる。なんて、強い覚悟があった。祝福も大事だけど、もし予選を勝ち進められたら、騎士として一人前になれたような気がするから。


 祝福を得たいもの、名声をあげたいもの。それぞれの思惑の中、剣技大会の予選は隊長の宣言ではじまった。


 試合の規則として、剣を落としたら負け。地面に腰を着いても負け。いかに剣を振るい、相手を圧倒できるか。少しでも公平さを保つために、使用できる剣は木剣と決まっている。木剣の柄を握ると、ふっと肩の力が抜けた。やっぱり、落ち着く。木剣を握って1回戦の舞台に立った。


 1回戦の相手は同時期に隊に配属された奴だった。何が面白いのか、いつもニヤニヤしている。こいつはルセットを狙っているらしく、何かと「紹介してくれ」としつこい奴だ。ルセットは副隊長が好きなのだから、いい加減諦めてほしいと思う。


「よう、シュテラ。1回戦から俺と当たるなんて不運だな」


「どっちが。あんたのほうが不運でしょ」


「可愛くねえ女」


 わたしは団長以外に可愛く思われたくはない。でも、こんな男の「可愛くねえ」ですら、胸に突き刺さるものがあるから悔しい。自覚はしているんだよ。もう少し可愛げがあれば、団長も振り向いてくれるかもしれないけど。絶対にこの痛みを木剣で晴らす。


「ルセットちゃんの祝福を得るのは俺だ!」


「絶対に親友の祝福を守る!」


 あと、自分の胸の痛みも。審判の隊長が「うるせえな……とにかく、はじめ!」と声を上げた。相手は叫びながらつっこんでくる。勢いだけで口ほどにもない。わたしは相手の攻撃を払い、一瞬のひとふりで、奴の剣を払い落とすことに成功した。まったく歯応えがない。


「勝者、シュテラ!」


 まずは1回戦。


「おい、シュテラ。ずいぶん、気合いが入ってんな。この分だと優勝しちまうかもな」


 隊長が審判がてら、冗談っぽく言い放ってきた。隊長をはじめ、他の同僚たちもわたしが勝つなんて思っていないだろう。何が楽しいのか、周りは人を小馬鹿にしたように笑う。だけど、わたしは本気で優勝したいと思っている。じゃないと、団長に祝福を願ったかいがない。だから、「します!」と高らかに宣言した。


「そうかそうか、がんばれよ」


 隊長のニヤニヤは「無理に決まってるだろ」と言っているかのようだ。他の同僚たちの笑い声も聞こえてきた。わたしが勝つことなんてちっとも考えていないのだ。ますますわたしに火を点けた。こいつらを見返してやる!


 隊長たちも驚くほどの快進撃で、2回戦、3回戦を勝利した。いや、一番驚いているのは自分自身だったりする。


 とうとう予選の準決勝。これに勝てば本戦の出場にぐっと近づく。だけど、対戦表を見ると、次の相手は最も当たりたくない相手だった。ここに来て副隊長と試合をやらなければならないなんて、ついていない。準決勝になると、もう2試合しか行われない。同僚の騎士たちも観客としてわたしと副隊長を見ていた。


「シュテラ」


「副隊長」


 向かい合うだけでも緊張する。


「正直、お前がここまで来るとは思わなかった」


「わたしもです。自分でもびっくりするくらい」


「お前らしいな」


 副隊長は小さく笑いをこぼす。副隊長はわたしにとって、剣技を教えてくれた師匠みたいな人だ。今でもお説教は頭のなかにこびりついている。だからこそ、下手な試合はしたくない。試合開始の号令がかかった。

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