短編
窓から見える景色は白い粒で満たされている。
「ごめんね。せっかくのクリスマスなのに病院から出られなくて...」
彼女は僕の目を見つめながら悲しそうに言った。
「いいんだよ。僕は君といられるだけで嬉しいんだから。」
彼女といるだけで僕の胸はいつも暖かくなる。
「でも...一緒にいるだけじゃつまらないんじゃ...」
彼女は不安そうに僕に言った。
「そんなことないよ。君といると嬉しくて、君と話しているととても楽しいからね。」
彼女は感情が表に出やすく話していると面白い。
「そう...ならよかった...ねぇ、私たちが初めて会ったときのこと覚えてる?」
彼女は少し不安そうにしながら僕に訪ねた。
「覚えているよ。ちょうど一年前、あの日も雪が降っていたよ...この病院前の道で君が膝を抱えて座っていたんだ。」
彼女と出会ったときのことを思い浮かべながら僕は言った。
「そう...そうだったよね。私はあの時、君に抱きしめられたんだ。」
彼女は俯きながらうん、うん、と言っている。
「調子はどう?病気の方は治りそうなの?」
彼女は笑みを浮かべながら言った。
「うん、調子はいいよ。もうそろそろ退院出来るって言われたよ。」
彼女の笑みが少し固いように見えたが、気のせいだと思った。
僕は彼女の手を握り喜んだ。
「よかった!退院したら今より多く思い出を作ろう!」
彼女が一瞬悲しい表情をしたように見えたが、瞬きをした直後には笑顔だった。
「そうだね。色んなところに行こうね。」
彼女と話していると、病室の扉が開き看護師の人が、面会の終了時間だと告げた。
「じゃあ、僕は帰るね。また明日来るよ」
彼女とギュッと抱きしめながら別れを告げる。
「うん、またね。来るまで待ってるわ。」
彼女の表情は抱きしめ合っていたのでよく見えなかったが、涙ぐんでいるように見えた。
「えっ、もう退院したんですか?」
彼女の面会にいつも通り今日も病院へ行ったら、もう退院したと言われた。
彼女からそんな連絡はなく、ふと、昨日の『不安そうな顔の彼女』『笑みが固い彼女』『涙ぐんでいた彼女』を思い出しどんどん不安になっていった。
「どこだ!!...どこに行っちゃったんだ...あっ」
彼女を探そうと慌てて病院を出てすぐに彼女を見つけることが出来た。
彼女は病院のすぐ前で白い雪の上に膝を抱えて座っていた。
「よかった...こんな所で座って、風邪ひいちゃうよ?」
彼女に手を差し伸べながら僕は言った。
「......誰...?」
「...え...?」
彼女の反応に最初はイタズラか、と思ったが彼女の表情を見てすぐに冗談ではないとわかった。
彼女はあの時、初めてあった時と全く同じ不安で不安で仕様が無いという顔をしていたのだ。
「僕のこと覚えてないの...?」
彼女が僕のことを覚えてないとわかってもそれを理解することが出来ず、彼女に訪ねてしまった。
「知らない...誰なの?私のことを知っているの?」
彼女は少しの希望を見つけたような顔をして僕に訪ねる。
たまらなくなった僕は彼女胸に抱きしめて言った。
「うん...!うん!!知ってるよ、僕は君を知っている。」
彼女が涙を流していると僕の胸が暖かいもので濡れていることからわかる。
「何でだろう...あなたのこと知らないのに、覚えてないはずなのにあなたのそばにいると安心する...」
彼女は僕を抱きしめながらしくしくと泣いた。
「私ね、記憶がないの。自分のことも、何もかもわからなくて不安で...」
彼女の告白に僕は確信した。そして決意した。
「僕が君のことを支えるよ...いつまでも、ずっと、ずっと。」
彼女は僕の胸から顔を離し、顔を上げた。
「どうして?あなたはどうして私にそこまでしようとしてくれるの?」
彼女は全くわからないという顔をして僕に聞く。
「それはね...僕が君に一目惚れしたからだよ。」
僕は何度も彼女と思い出を作り直そう。彼女を支えようと決意した。
「そう...私も...あなたに一目惚れしたみたい。」
僕と彼女は一瞬見つめあってから唇と唇を重ねた。それは一瞬だったかも知れない、もっと長かったかもしれない。
唇を離した僕らは先程よりも強く、強く抱きしめ合った。