アルバイトを完遂せよ-9
「好きにさせてやれよ、親父さん」
「自信過剰の素人だ。早めに淘汰された方が、こいつらのためだ」
「こいつらがモンスターに食われれば、それだけモンスターが肥える」
「素材も良くなるってか?」
罵詈雑言の嵐の中、冒険者の店の親父はため息をつきながら依頼書に自らのサインを書き入れた。
「生きて帰ってきてくれよ。あんたらに幸運の神が微笑むことを、心から祈ってるぞ」
レイブンたちは依頼者に会いに行った。街に住む薬師の男性だ。ぎょろ眼の、神経質そうな男だ。
「あんたたちが今回の依頼を受けてくれる冒険者か? これで全部か?」
うなづくバルナス。薬師は大きくため息をついた。
「金に目がくらんだ素人か。まあ、前金を払うワケじゃないから、こっちは損はしないが」
薬師は収集すべき薬草情報(イラスト入り)と、収集場所までの地図が描かれた羊皮紙を示した。
「この資料、現地に持っていくなら預かり金として5ガメル必要だ」
バルナスは無言で5ガメル支払った。
「無事に戻ってきたら、資料と引き換えにこれは返す。収集するのは10枚。十分に成熟した葉だけを収集してきてくれ」
薬師はいったん言葉を切ると、こう続けた。
「モンスターの中には素材として買い取れるモノもある。それを持ち込んでくれたら、買取はするぞ。どうせ全滅するから無駄だとは思うが、これを売ってやろうか?」
薬師は羊皮紙のカードをヒモで束ねたモノを提示した。
「これは?」
バルナスがそれをめくった。そこには薬の原料となるモンスターの姿と、素材部位の剥ぎ取り方法がイラスト入りで書かれていた。
「素材剥ぎ取り辞典、薬師版だ」
冒険者の店で売られている素材剥ぎ取り辞典とは、微妙に異なるようだ。バルナスは全てのページに目を通した。自分の所持している薬学辞典との相違は見られない。
「僕の知識と相違はないようです。購入はしません」
薬師は大きくため息をつくと、気の無い様子で手を振った。
「そうと決まれば、すぐに立ってくれ」