アルバイトを完遂せよ-1
ここに1つの世界がある。
我々の住んでいる世界とは異なり、文明レベルは低いと言わざるを得ないだろう。
我々の尺度で言えば、中世レベルか、それ以前であり、政治形態や社会生活にも当てはまる。
この世界を特徴付けるのは、さまざまな「魔法」の力、そして、さまざまな「モンスター」の存在。我々が伝説でしかその姿を見ることの出来ない不可思議な魔法の力、凶悪なドラゴン等のモンスターは、ここではまごうことなき現実である。そして、そのために数多くの冒険があることも。
叩けよ。されば、開かれん。冒険の扉は、あなたの目の前にある。
1.エフタルの心臓・ウェルバクレス
商業都市“ウェルバクレス”。エフタル王国の西部に位置するこの都市には、国中から商品が集まり、再び国中に回っていく。その様子から、エフタルの心臓と呼ばれている。
ウェルバクレスから北に向かえば、王都“ラン・クゥル”、南に向かえば城塞都市“ケープ・ラウン”があり、両者の中間に位置している。
ウェルバクレスの東門。4人の冒険者が入街税を支払い、街に入ろうとしていた。
「この街に入る前に、一言だけ……」
徴税官が彼らに話しかける。
「この街の人間は、私も含めて魔術師を忌み嫌っている。故に、魔術師の象徴である杖とローブは重大な禁忌となる。この二つを同時に身に付けていた場合、日中でも袋叩きにされることがあるぞ」
徴税官は彼らを見渡し、こう続けた。見た目から魔術師と思われるモノが居ないので、心なしか笑顔が見えるようだ。
「魔術師には排他的だが、他の冒険者は歓迎される。しっかり稼いで、たくさんカネを落としてくれ」
無言でうなづく4人。彼らは街の中に入った。
「この国の人間は、魔術師がよっぽど嫌いらしいな」
前列左側を歩く身長180cmぐらいの人間の大男がぼそりとつぶやいた。
「別の街で同じハナシを聞かされるとは思わなかったぞ」
大男の右側を歩く身長175cmぐらいの細身の人間の男が答えた。
「古代魔法王国が滅びて500年以上経ちますが、この国の人々の心からは、魔術師に対する忌避感は消え去っていないようですね」
細身の人間の男の声には、どことなく悲しそうな響きが含まれていた。
「人間という種族は……」
後列左側から声が掛かった。身長130cmぐらいのビヤ樽体型。長いひげの中に、ダンゴ鼻が埋もれていた。ドワーフ族の男だ。
ドワーフ族。この世界に生息する亜人の1種。かつては妖精族の一員であったが、物質界に完全に入り込んでいる。身長:120~130cm程度。丸々と太っている。肌の色は濃い肌色。あごには長いひげを蓄えており、だんご鼻。女性にはひげは生えない。
暗闇の中でも昼間と同じように物を見ることができる。手先がたいへん器用で、細工を作ったり鍛冶などの技術に長けている。
性格は頑強で、頑固。エルフを毛嫌いしており、会えばたいてい喧嘩がおきる。
そんなドワーフが短い脚をチョコチョコ動かしつつ、前列の2人に遅れないようについて歩く姿は微笑ましい。彼の姿を見た周囲の人々の顔に、笑顔が浮かぶのも無理はない。
「過去のつらい経験を徐々に忘れ去り、常に前進し続ける強い種族ではなかったのかの?」