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露草色の秋  作者: 亰
空を想って
3/3

散らばる影

今日も彼方島の空は青い。


といっても僕が初めて空が青いって知ったのはここだから、よそは知らないんだけども。


自然が街と共存してるこの島の景色も少しずつ色付き始めている。そんな様が僕には思春期を迎えた子供のように思えて、微笑ましいやら恥ずかしいやら複雑な気分で眺めている。


そんな街を見知った顔が自転車で駆け抜けて行く。店先の人と挨拶を交わしながらこの島でただひとつの公立高校である彼方高校に向かって。


隣にいる月火は今何を感じているんだろう。きっと僕より純粋な彼女にはもっと鮮やかに、そして明らかに世界が見えているはずだ。


「なによ」


どうやらじっと見すぎてたみたいで、彼女は少し怒ったような声を出しながら僕を見上げてくる。


距離感はあの日からまだ掴めていない。近寄ったり、遠ざかったり。浮かんだ二つのシャボン玉みたいに危うさをまとって漂っている。とはいえ、動き方は決まっている。僕が遠ざかろうとするたびに、彼女は近寄ろうとしてこけそうになるから、僕は手を指し伸ばしてしまう。そして彼女と目が合う前に手を離す。これの繰り返しだ。今はどこらへんだろうか。


「おばさんのところに顔はだしてるの?」


「だしてるわよ、今日も服を取りに帰る予定だし」


「あまり深くは触れてこなかったけど、二人は納得してるんだよね?」


おばさんもおじさんもこういうことに関しては放任主義な上に、何故か僕のことを信用してくれている。それとも、いろいろと察してくれているからなのか何も言ってこない。


「当たり前じゃない、いってらっしゃいとすら言われたわ」


「月火、納得してもらえたのは分かったけどそれは胸を張って言うことじゃないと思うよ」


「なによ、ちゃんと言ったわよ?もう一生恋人を作るつもりはないから歩の家に住まわせてって。まぁ、本人に了解を得る前に言ったのは悪かったと思ってるけど...」


「それは...」


他人が聞いたらなにがなんだか分からないこの台詞は、僕にしか伝わらないだろう。なんといっても、全ての原因は僕なのだから。月火を家に住まわせるくらいでは取り返しなんてつかないことを僕はしたのだから、彼女が僕の了解なしに両親を説得していても何も言えない。言ってはいけない。


いけない、頭を切り替えなくては。この思考はアレを呼び起こしてしまう。


「二人が納得してるなら僕は構わないよ。誰かのために料理を作るのも、教えるのも好きだから。」


「なかなか上達しないけどね」


「そんなにすぐ上手くはならないよ。僕が初めて作った料理は月火のよりひどかったし」


「そうなの?てっきり最初から......ねぇ、それって遠回しに私の料理はひどいって言ってるわよ?」


「あ」


「あってなによ、あって!不味いなら不味いって言いなさいよっ!!」


「二人は今日も仲が良いですね」

「あ、おはよう会長」


「ちょっと、もっと思ってることは素直に言ってって何度言ったら」


「月火、あなた今日日直でしょう?町田先生が今日朝のホームルームで冊子を配る予定らしいけど、手伝いに行かなくていいの?」


「え?それ本当??ちょっと行ってくる」


そういって月火は走って行ってしまった。


町田先生、本名町田愛子。低い身長とあまりの童顔からこまっちゃんの愛称でみんなに親しまれている我らが担任だ。背の低さゆえにかさばる物を運ぶときには前が見えなくなってしまう。だから、配布物があるときは日直が手伝うというルールは入学してから一週間ほどで僕達のクラスで出来上がっていた。


「助かったよ、会長」


「珍しいですね、歩君が失言するなんて」


「いや、ちょっと考え事してて」


「考え事ならいつも二三個してるじゃないですか」


そう言いながら、肩に流しているくくられた長い髪を指でくるくるしている。これが彼女の癖なのだ 。


「バレてたか...。会長にはなんでもバレバレだよね」


「私ぐらいにはばらしていいんですよ?あなたが抱えているものも、全部」


彼女に優しく微笑まれながらそう言われると、つい話してしまいそうになるから恐ろしい。


「そうしてほしいなら僕をもっと頼ってよ、会長はなんでも自分一人でやろうとしがちなんだから。昨日も夜遅くまで資料でもまとめてたんでしょ?」


「っ!!なんでわかるんですか?くまはできてないはずですっ!」


会長になってから、出来るだけ冷静であろうとしている彼女が珍しく焦っている。なんだかそんな表情も、僕には懐かしい。


「会長ほどじゃないけど僕にもそれぐらい分かるよ。会長が会長じゃなかったときから知ってるんだから」


彼女とは入学したての頃からの付き合いだ。お互いに、良いところも悪いところも知っているから大概のことは分かってしまう。


「そういうことを微笑みながら言うのはズルいと思います」


ちょっと拗ねながら、彼女がそう呟くから。


「お互い様だよ」


と僕はもう一度微笑んだ。

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