素晴らしいを通り越して、神々しい。
口を大きめに開け、それを噛む。すると、何とも言えない幸福感で満たされた。
バンズと呼ばれるパンを平たくしたようなものに、挽肉などのハンバーグステーキやレタス、マヨネーズに甘いたれを挟んだもの――つまり、マックのてりやきバーガーを食す。
一口食べれば、その美味さに抗えない。甘いたれとマヨネーズは素晴らしいハーモニーを醸し出し、そこに肉汁とシャキシャキとした触感が楽しめるレタスを加える。
もう『素晴らしい』すらも通り越して、神々しいと思えてしまう。何と恐ろしい。
「美味い……!」
「ねえ、何でそんなにハンバーガーの説明が長いの」
前の席に腰をかけている由紀が不思議そうな――いや、不満そうな表情を浮かべている。
あれ、声に出ていたか。
「もう……。何かぶつぶつ喋ってると思ったら、全く私の話聞いてないし」
不機嫌に眉をしかめながら、パクッとハンバーガーを口に入れる。分かりやすい奴だ。
「ごめんごめん。ほら、ソフトクリームでも奢るから」
「ホントっ!? じゃあ良し!」
ハンバーガーを口いっぱいに詰め込み、オレンジジュースをズズズっと吸う。
簡単だなあ……。まあ、手がかかるよりはいいか。
俺はポケットの財布から百円玉を取り出すと、机に出されていた小さめの手に乗せる。
「ありがとっ!」
由紀は冬の青空のような、晴れ晴れとした表情を浮かべてレジの方へ駆けて行った。すれ違った何人かが由紀の方へ振り向くのを、俺は昔からの付き合いで知っている。何故、俺とつるむのかが全然わからないが、その誰かができるまで付き合うとしようかな。
思想に浸りながら、また、手元の『神からの授かりもの』にかぶりついた。
うん……美味い。
☆ ☆ ☆
ふわ、ふわ……。
何かが浮かんでいる。見た目はふわふわしていて、軽そうなイメージ。
ふわ、ふわ、ふわ……。
視点が変わった。
くまのぬいぐるみが大きく見える。車かと思ったら、おもちゃのミニカーだ。
ここはものが大きく見えるのか?
いや……?
俺が小さくなってるんだ。
そう思い、自分の姿を確認しようとしても、何故か見れない。
と言うか、自分で体を動かせない?
どこからか風が吹いてきて、飛ばされる。
着地したのはクローゼットの中。部屋の灯りが隙間から入っている。
ふわふわと浮かんでいるのは、リボンをつけた――。
ふわ、ふわ、ふわ……。
☆ ☆ ☆
「……っ! ――てよっ! 起きてよ!」
「うわぉぅ?」
「ちゃんと喋って」
「すまん……ふぁああ」
ぬくい自分の腕が愛おしい。世界が眩しい。輝かしい。瞼を下げたい。
「上げてよ?」
怒られた。
仕方なく瞼を持ち上げる。すると、ぼやけていた景色がはっきりと目に映ってきた。困ったように眉を下げている由紀。真っ白の肌は、冗談でも触りたくなる。
「起きた?」
「うん……起きた。何時?」
首を後ろに倒し、照明の光で目を覚ませる。そして、首をゆっくり回し、伸びもした。だんだんと、体が夢の世界から現実世界に戻ってくる。
「ん? どんなんだっけ」
ぼやけた頭の中を捜索するが、答えは見つからない。
「何が? 外、行こうよ」
選択の余地はないようで、ぐいっと由紀に腕を引っ張られる。俺を引っ張っている反対の手には、俺と由紀の分のトレーがある。きっと、代わりに捨ててくれるのだろう。ありがたい。
「ありがとぉございましたぁ」
店独特のあいさつを背中に受け、マックを後にする。思わず、「さむっ」と口に出す。
腕はもう、掴まれていなかった。
……ハンバーガー食べたくなってきたなあ。
何故か、ハンバーガーの歴史まで調べてしまった。