太鼓の超人
全力で遊んだ結果、こうなりました。
「寒いぃぃぃぃぃいいいいいいいい!!!」
「うっせ!」
右隣で由紀が叫んだ。それによって、近所の奥様方が「あらあら」と温かい視線を送ってくる。
奥様方。この子はこんなこと言ってますが、さっき俺の手袋を奪ってますからね? それに加えて、暖かそうなチェックのマフラーしてますからね?
どっちかと言えば、ジーパンにジャンパーだけと言う軽装備の俺の方が寒いから。
冷静に脳内で突っ込んでいると、
「ねえねえ! ちょっとここ行こう!」
由紀が興奮気味に誘ったのは、古そうな印象を受けるゲームセンター。田舎にしてはゲーム機の種類が多く、休日には暇を持て余した学生で溢れているところだ。今も、殆どのゲーム機では若者が楽しそうに遊んでいる。
「ああ。何するんだ?」
由紀はゲームをするタイプではない。だから内心は驚いている。まあ、声色には出ないけどな。
「これっ!」
指を差しているのは「太鼓の超人」と言う、たぬきをマスコットとした太鼓ゲームだ。アニメの曲からJポップ、更にはオペラと、幅広い曲があり、曲に合わせて流れてくるたぬきのマークを指定の場所で叩くと点数が加算され、その合計点で競う。
ちなみに、叩くと「ぽん」と言う。ちょっとうざったい。
「へー」
口角が自然と、そう、naturalに!!
「勝負だ!」
「おうよ」
たまたま前の人が終わったので、金を入れてスタート!
♪♪♪
「うわああ!? 負けた!!」
「余裕」
目の前にはフルコンボの文字が。まあ、見慣れてるけどな。
難易度はいつも通り、「鬼」のもう一個上にある「裏ステージ」。由紀の難易度は「かんたん」。まあ、叩く数も違うからしょうがないが、由紀はそれでも数回間違えている。
いつの間にか周りにはギャラリーができており、ところどころから
「すっげ……」
「叩くスピードハンパじゃねえわ」
「レベルが違い過ぎる」
「隣の子が可哀想」
などと聞こえてくる。由紀を見るとかなりご不満な様子で、下を向いて髪の毛を指でくるくると絡めている。完璧拗ねている。
「も、もう一回!!」
悔しかったのか、由紀がそう叫ぶと、ギャラリーからは
「頑張れー!」
「倒しちゃえ!」
「可愛い!」
などと歓声が。おい、一部。
「まあ、次も勝つからな」
と言いながら、俺は金を財布から取り出した。
「「「はじめるぽん!」」」
ギャラリーが声を合わせて言う。てか、ギャラリー結構いるな。
♪♪♪
「うわああああ!!」
「なぜだっ!」
「くっそお!」
雑魚達が地面を叩く。
結局、周りにいるギャラリーの中から、
「俺が倒してやるっ!」
と挑戦者がやってきて、かなりの回数プレイした。なかなかのやつもいたが、俺の全良攻撃に勝てる者はいなかった。
目隠しまでされたのになあ。
「うーん、お腹減った!」
由紀がそう言うと、周りのギャラリーからも「そう言えば……」などと聞こえる。手元の腕時計を確認すると、十二時半を過ぎたあたりだった。
「じゃあ、何か食べるか」
「よし、マックだ!」
由紀は元気良くその方向へ走って行った。きっと、席でも取りに行ったのだろう。
全く、能天気な奴だなあ。
そう思いながら、由紀をゆっくりと追いかけた。