傘って、個性が出るよね。
しとしとしと。
ぽとぽとぽと。
たったったっ。
ゆっくりと、そして着実に赤やオレンジや黄色などに染まってきた葉っぱたちに、雨が触れていく。
「そう言えば最近、降っていなかったな」と思いながら、濃い緑のチェックの傘を開く。前にビニール傘を差していたら、妹に「ビニール傘とか、女の子にモテないよ!」と言われ、いやいやながらも買った傘だ。今では結構気に入っている。
「おはよ」
後ろから馴染んだ声が聞こえた。周りには何人か人はいるが、こいつが話し掛けるのは俺くらいだろう。
しばらくして、見知った顔が左から現れた。
「おはよう。降ってんな」
「そうだね、一日中かな」
焦げ茶色の長い髪を高い位置で一つにまとめている彼女――幼馴染である由紀はピンクや紫の小さな花柄の傘から少しだけ顔を見せた。相変わらず文化部らしい、真っ白な肌だ。
「テレビでは明日まで降るって言ってた」
雨雲が分厚いのか、朝にも関わらず太陽の光が全く降りてこない。薄暗い道を水溜りに気をつけながら歩いていく。
「へー? じゃあ、明後日遊びに行っていい?」
由紀は水溜りをタンッと飛び越え、その拍子に膝上にある赤のチェックスカートがはねるように揺れた。少しだけ傘に乗っかっていた水が俺の方に飛んできたが、気にはしない。
「いいよ」
俺がそう言うと由紀は世間話をし始めた。数学の教師があー言ったとか、美術の教師がこー言っただとか。
女の話は起承転結があんまりなくて、少し意味がわからない。けれど、楽しそうに話しているので適当に返事をしたりする。
まあ、女で俺なんかと喋ってくれんのは由紀と母親と妹くらいだけれど。
そして、その二日後。帰宅部には素晴らしい、土曜日がやってきた。もう、あの青い「Sutuday」と赤い「Sunday」が輝いて見える。
ゆさゆさ。
体が揺らされる。腹部にやわらかいものを感じ、顔に何やらこそばいものがかかっている。
「ん……」
ゆっくりと瞼を上げると、目には顔が映った。ぼんやりとしていて、丸い輪郭が浮かんでいるように見えた。何かが輪郭の両側から落ちてきていて、俺の顔にかかっている。 何となく、それを引っ張ると、
「えっ!?」
とそいつは俺の方に倒れこんできた。腹に何かが勢いよく乗り、
「うっ」
と呻き声が漏れてしまう。適当に腹の方をまさぐると、生暖かい、ふにふにとしたものに当たった。しばらくそのすべすべの手触りを楽しんでいると手が何かに掴まれ、そいつは起き上がった。手はそっと離され、俺は体を起こしてから、ストンと座り込んだそいつを見る。
しばらくすると、ぼんやりとした視界が開けてきた。
そこにいたのは焦げ茶色のサラサラの髪を一つにまとめておらず、背中に流した由紀だった。今日はコンタクトを外しているのか、地味な黒縁のメガネをかけていた。
真っ赤な顔で俺を睨みつけている。若干、涙目だ。
「え、あー」
俺はのんきに言い訳を、回らない頭で考え出した。
もっとも、言い訳など全く役に立たないし、最終的には由紀が妹の部屋に逃げ込むのだけれど。