お兄ちゃんが図書館にいるなう。
「あら、お兄ちゃん」
リビングに入ると母親がたい焼きを頬張るところだった。いつも笑顔の母親は、ほわほわとした雰囲気を今日も纏っている。
「兄貴、これ凄く美味しい! ありがとう!」
妹も母親譲りのほんわかとした笑みを浮かべている。これで惚れる奴もきっと多い筈だ。
と言うか、何故、妹は母親のように「お兄ちゃん」と呼んでくれないのだろうか。そっちの方が萌え――いや、何でもない。そんな感情抱いてはいない。
「お兄ちゃん、何の本を借りてきたの?」
妹が母親に話したのだろうか。俺は母親にも妹同様、図書館に行くということを伝えていない。
「情報網から、お兄ちゃんが図書館にいるなうって回ってきたから気になるのよー」
情報網だと!? なんだ、お母さん情報網みたいなやつがあるのか? それともご近所情報網か?
あと、「なう」とかツイッターじゃないよな? ツイッターで呟かれてもわかんないもんな。
「うーん、本だな」
『絵本を描く為の本』とは、現役高校生であり、思春期真っ只中の俺としては何となく言いにくいので言葉を濁す。
「えっちい本かな?」
……妹が物凄く純粋な目で見てくるんだが。
ていうか、図書館にそんなん置いてるかよ!
「あらあ、貴方。お兄ちゃんはへたれだから、そんな本もってないわよ? 部屋に絵本が大量にあるだけよ?」
「あ、やっぱり?」
やっぱりなのか!? へたれかもしんないけど、本人がいる前でそんな話をしないでほしい! 何か恥ずかしいから!
「兄貴……私は兄貴が可哀想だよ。私が『ハジメテ』の人になってあげようか?」
「やめてくれ! 俺はお前とそういう関係になりたくない!」
席を立ち、一瞬で妹との距離を五メートルほど取る。と言うか、『ハジメテ』の発音が怖過ぎる!! ちょっと妹は俺にべったり過ぎるとは感じていたけれど、何だか同級生の子には扱いきれないのではないだろうかと思えてきた。
「駄目よ? お兄ちゃんはそういう趣味じゃないから。きっと『幼女』が好きなのよ。絵本ばっかり読んでるし」
「違う! 俺は普通の女が好きだ!!」
何で、絵本を読んでいる=(イコール)幼女好きになるんだ!? どう言う方程式!? 間違いで法廷に立ってしまう!
「あー、由紀ちゃん? あの子はいい子ねえ。早く私、あの子におせち料理を教えたいわ」
「あいつとはそういう関係じゃないからな? わかってくれ」
「はいはーい」
くっ! いつも通りの笑顔の筈なのに、諭されているような感じがする。
由紀、というのは俺の幼馴染で、よく家にきている。妹とも仲がいいようで、結構な頻度でいたづらされる――そう、由紀がされる方なのだ――が、まあいい奴といえばそうだと思う。
しかしそんな関係ではないし、今まで十年ほど一緒にいたけれど、そんなこと全く思ったことはない。
「もう上行くからな」
俺はたい焼きを口に入れ、リビングを出て行く。何となく居心地が悪くなってしまった。
サブタイトルをつけたのはこの小説が初めて……じゃないか。
タイトルもサブタイトルも数秒でつけれます。それは捻りがないからだと思います。
なので、何となくサブタイトルをつける人は凄いなあといつも思ってます(笑)