布団でぬくぬくと。
あけましておめでとうございます。
昨年はお世話になりました。
今年も突然更新がとまったりするかもしれませんが、お暇な方は活動報告の方も見ていただけると嬉しいです。結構、近況報告してますからね。
では今年も宜しくお願い申し上げます。
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「ああああ!……っと」
ついついテレビを見ていると、少し錆びついている小さめの片手鍋の牛乳が溢れようとしていた。ボタンをカチッと押し、コンロの火を消す。
長年の感覚で染み付いた二人分の量。家族で千葉の人気遊園地に行ったときに兄貴に買ってもらった、色違いのマグカップにココアの粉を入れ、目分量で温かい牛乳を注ぐ。そしてスプーンで掻き混ぜ、試しに一口ずつ飲むといい感じになっていた。流石、私。
「兄貴、元気になるかな……」
甘い匂いが鼻孔を擽る。最近、食欲もなくなってきて隈もできている兄貴が、ふと頭に浮かび、思考に耽る。
私は兄貴に何をしたらいいかわからない。改善策が見つからない。
でも、兄貴が自分で改善策を見つけないと、前に進まないことくらいわかっている。だから、私に今出来るのはココアを入れることくらい。
これまた、人気遊園地のネズミのキャラクターが描かれているお盆にコップを二つ載せ、階段をゆっくりと上がる。一段、また一段と踏みしめる度にギシッ、ギシッと音が鳴った。そして、左手にある兄貴の部屋の前に立ち、小さく深呼吸。左手で握りこぶし
コン、コン、コン。
返事はない。
「兄貴、ココア入れたよ。ドアの前に置いとく。良かったら飲んでね」
返事はまだない。寝ているのかもしれない。
私はドアの前にお盆を置いて、自分のマグカップだけ持った。
「兄貴。私は兄貴がやりたいことをやればいいと思うよ。苦しんでまでやる必要はないと思う」
そこまで口に出して、私は手で口を押さえた。
言うつもりなんて、なかったのに……! 何で?
私は喋ろうとする口を止める為に、急いでココアを一口入れる。口がじゅわっとやけどをした感覚がした。何とも言えない後悔が押し迫ってくる。
口の中は熱いのに、頬には冷たいものが伝った。
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コン、コン、コン。
俺はノックされた音で目を覚ました。視界はぼやけていて、顔に紙が引っ付いている。
「兄貴、ココア入れたよ。ドアの前に置いとく。もし良かったら飲んでね」
ドアの向こうから妹の声が聞こえた。わざわざ、入れてくれたのだろうか。
体がだるくて動かしたくない。後ろのベッドくらいなら頑張れるけれど、ドアまでは二メートルくらいある。そのくらいの距離も動きたくなかった。
俺が何の返事もしないでいると、妹は俺に呼びかけた。
「兄貴。私は兄貴がやりたいことをやればいいと思うよ。苦しんでまでやる必要はないと思う」
いつもの元気百倍の声に比べたら、随分と大人しい。
妹の言葉を頭の中で繰り返す。
――俺がやりたいことをやればいい?
今、していることがやりたいことだと思う。俺は絵本を描きたい。そして、『小学生以下限定、絵本祭り!』に行く。
――苦しんでまでやる必要はない?
確かに俺は苦しい。
ああ、そうか。やらなければいいんだ。
今まで努力は特別してこなかった。第一、絵本を描いたからと言って何が起こるわけでもない。何も起こらない。
苦しいことなんて、しなければいい。それが、やりたいことでも。だって、苦しいのは嫌だし。
俺は布団に潜り込んだ。




