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旧幽  作者: 鵜狩三善
2/7

押入れに至るまで

 星を見るのが好きだった。


 勿論都会の只中でだから、夜中でも星の光は打ち消されて、殆ど見えないくらいに弱い。それでも別世界を覗き見るような、その感じが好きだった。

 特に冬。部屋の明かりを消して、暗くしんと冷えた空気の中で夜空を仰ぐのは格別だった。

 趣味が高じて随分いい値段の望遠鏡に手を出したりもした。

 でも今それは、押入れの奥に転がっている。


 ある寒い夜。

 いつものようにベランダで望遠鏡を覗いていたら、星と僕との間を遮って、夜でも闇でもない何かが通り過ぎていった。

 それは塗りつぶした影みたいに真っ黒だった。

 目を凝らすと、頭があって手足があって、およそ人の形をしているのが分かった。腕が奇妙に長くて、全体的な印象は楕円に近い。

 そして巨大だった。とてもとても巨大だった。足下の家々の屋根が膝までも届かない。けれど不思議な事に、それは足音も物音も立てなかった。何かを踏み潰したりもしないようだった。

 まるで影絵のように。

 決して重ならない、別の世界の住人のように。

 ただ静かに、しんしんと歩を進めていく。


 唖然と見送る視界で、不意にそれが足を止めた。

 丸めていた背をぐうっと伸ばして、ゆっくり、探るように周囲を睥睨する。見られているのを察したかのような挙措だった。

 あっと思って部屋に逃げ隠れた。

 気づかれなかったのか、見逃してもらえたのか。

 それ以上は何も起こらなかった。


 でもそれから僕はすっかり、星を見る気をなくしてしまった。

 だから今も望遠鏡は、押入れの奥に転がっている。

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