エル・ドラドへの道
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
黄金郷。
文字にしてみると、いかにもすごい場所であると伝わってくるな。古来、黄金は富や権力の象徴として貴賤を問わず、その価値は大いに理解されてきた。
その金がたっぷり用意された場所となれば、心惹かれるものがあとをたたないのも無理はない。たとえ本物でなく、事実かどうか分からなくとも冒険心へ火をつけるには十分なもの。その代表格の言葉のひとつだろう。
多く、黄金郷は理想郷とほぼ同義とみなされる。好奇心もあるだろうし、疲れる日常からの解放を願って、そこへの到達を夢見ることもあろう。大半はその実現はならず、代わりの場を特定のシチュエーションや想像の空間に魂のいこいを求めるだろうな。
実際、このような快い場は他者と共有したくはない。自分の取り分が減る恐れがあるし。でも、もし失われてしまったのであれば、話して聞かせることもあるかもしれないな。再び、それを得るために。
――つまり、これから話をしようてわけだろ?
ご名答。こーちゃんの知識なら、このエル・ドラドに思い当たるところがあるんじゃないかとも思ってね。
昔の話になるが、ひとつ聞いてもらいたい。
黄金郷の存在がうわさとなったのは、小学校高学年あたりだった。
当時、私たちの地元ではフクロウを見る機会が多かったんだ。山の中とか、自然の多い環境であれば、そこまで珍しいことではなかったかもだけどね。
だが、私たちのいるところは都会と田舎の中間程度の平地。木々もなくはないが、これまでほとんど見かけなかったフクロウが、大勢あらわれるともなれば気になる。
なにせ、あのときはゴミを荒らしたり、夕方に群れをなして飛んで行ったりするカラスたちより、多く見かけた感覚さえあったのだから。
そうしてみんながいぶかしく思い始めたとき、学校のクラスでフクロウをめぐる黄金郷の話が出てきたわけなのさ。
学校の朝学活の前。クラスメートのひとりが、こっそりお菓子をみんなへおすそわけしてくれたんだ。
ポケットティッシュにくるんだ中身は四角いクッキーだったのだけど、そこからこぼれる粒に関しては、角度によって金や銀に色合いを変える不思議な性質を持っていた。
早く食べろとうながされて、そっと口へ運んでみるとこれまた不思議。歯ではさんだクッキーの身がぼろりと崩れるや、口内に広がるのはプリンを想起させるカラメルソースの香りだった。
当時、このような風味を持つクッキーは私たちの地元だと皆無。どこぞのおみやげだろうかと尋ねてみたところ、彼が黄金郷のたとえを持ち出したわけだ。
小学生の私たちに、黄金郷といわれてもピンとこないのが大半。とにかく、すごいところを見つけたんだよ、と彼は話していた。同時に少し不可解なところもある、と。
子供側からすると、なんだか煙に巻こうとしている感が気に食わない。クッキーという餌で釣っておきながら、それ以上のことはせずに、自慢だけしているかのようだ。
みんなで詰めていくと「必ず、絶対というわけじゃないけれど」と前置いて、ひとまずその日の放課後に、希望者は学校の裏門わきへ集合することになった。
話を聞きながらも、用事や習い事で参加できない面々をのぞき、私を入れると6名程度が彼と合流した。
どこへ案内してくれるのかと思ったけれど、彼は動かない。代わりに空を見やっている。
羽を広げて飛ぶ、一羽のフクロウの姿があった。先にも話した通り、最近はカラスの数がめっきり減り、ここ最近はもっぱらフクロウたちばかりが居る。
私たちも、その個体を見上げた。まるでトンビかなにかのように、頭上の空をくるくると旋回していたよ。
「今日もうまくいきそうだ。あのフクロウがどこかへ飛び始めたら、追いかけていくんだ。このとき、フクロウから眼を話したらいけないよ」
彼がそう説明するや、フクロウが東を指して飛び始める。彼はもはやその一点を見上げたまま歩き出すが、私たちは困惑を隠せなかった。
フクロウの飛ぶ方角は、何メートルもいかないうちに、よその家のブロック塀にぶち当たるからだ。しかし、彼は速度を緩めようとしない。
ええい、ままよと私たちも後へ続いた。例のフクロウを見上げながらだ。
するとどうだ。本来ならすでにぶつかっている距離であるはずなのに、いつまでもブロックらしい感触にぶつからない。途中、自転車のベルやクラクションらしいものもあったが、彼はまた「そちらを見ないように」とくぎを刺してくる。
そうして、どれだけ歩いただろうか。
再びフクロウが上空を旋回しはじめると、彼は「もういいよ」と視線を下げる。
私もそれにならうが、周りにいたはずの他の5名の姿はない。彼いわく、おそらく「脱落」してしまっただろう、とのことだった。無事ではあるだろうけど、と。
そうして地上を見やった私の眼に、金色の光が刺さる。文字通りの、まばゆいばかりの金色を私ははじめてみた。
いつの間にか私たちは、周囲をぐるりと大木に囲まれていたんだ。一分のすき間もないほどに身を寄せ合っているが、その幹からは小枝が生えており、その先にあのおすそわけされたクッキーの姿が。
「お菓子の家ならぬ、お菓子の樹てね。実のようにできているそれが、おいしいんだよ」
彼は手の届く範囲をいくらかもいで、口へ放り込んでいく。私もおそるおそる食べてみると、やはりあのプリン味のクッキーだった。
もし普通のお店であったなら、これからもひいきにしているところ。でも、この過程も結果も私が想像していたものと違う。へたに「常連客」にはなりたくない。
私が一枚で止めたものの、彼は4枚、5枚と平らげて、帰ろうという話になった。帰りもまたフクロウを見上げて少し歩くと、樹にぶつかることなく、先ほどの近辺へ戻ることができたよ。
離脱していたメンツとも、合流ができた。みんなはいずれも彼のフクロウの誘導に従いきれなかったようで、臆したり、視線を戻したりした時点でブロック塀にぶつかり、ここへとどまっていたらしい。
彼らにとって私たちは、突然消えて、また現れた存在のように思えたようでね。ますます、私の中で不信感は高まっていった。
それからは、彼のお誘いが何度かあれども全部断ったよ。おそらくフクロウについていけたことで、見込みありと思われてんだろうね。
例のフクロウの正体も、彼のもくろみも分からずじまいさ。だが中学へあがると、両者ともにめっきり姿も見ることはなくなったというのは確か。
彼はあの黄金郷に入り浸っているのだろうかね。こーちゃんも、怪しいフクロウを見つけたら、様子をうかがってくれないか?




