第5話 畑の奇跡と迫る影
村の朝は、いつもより活気に満ちていた。
昨夜の嵐が嘘のように晴れた空の下、村人たちが田畑の水抜きや土の整備に取り掛かっている。
セラの天候調整のおかげで、雨はぴたりと止み、柔らかな日差しが作物に恵みを与えていた。
俺は自分の畑で、セラと並んで作業をしていた。
彼女は村の服に着替え、銀髪を布で隠している。
まだ追手を警戒して、目立たないように。
「リク、これ……どうかな?」
セラが小さな種を差し出す。
それは、空島から持ってきたという「雲の実」の種。
天候に敏感で、雨を吸収して急速に成長するらしい。
「面白そうだな。
俺の【作物成長促進】と組み合わせたら、どうなるか試してみよう」
俺は種を土に植え、両手を地面に当てる。
魔力を流し込み、セラに合図した。
「今だ。
お前の天候魔法で、軽い霧を呼び起こしてくれ」
セラは頷き、目を閉じて呟く。
「霧よ、集まれ……」
空気が湿り気を帯び、畑の上に薄い霧が立ち込める。
まるで朝露のように、種に優しく降り注ぐ。
すると、土が微かに震え始めた。
種が芽を出し、茎が伸び、葉が広がる。
通常の作物なら数日かかるところが、数分で実を結んだ。
「わあ……すごい!」
セラの瞳が輝く。
実った実は、青白く光る果実。
一口かじると、甘酸っぱい味が広がり、体に力が湧いてくる。
【鑑定】で確認する。
【雲の実・強化版】
【効果:魔力回復・耐天候性向上】
【説明:作物成長促進と天候魔法の融合で生まれたハイブリッド果実】
「これ……村の食料問題を解決できるかも」
俺は興奮を抑えきれなかった。
この融合技を村全体に広げれば、不作の呪縛から逃れられる。
村人たちが集まってくる。
ミアもその中にいて、驚いた顔で実を見つめた。
「リク、またお前の畑が……!
これ、なんだい? こんな作物、見たことないよ」
俺はごまかすように笑った。
「新しい品種を試したんだ。
みんなで分けて、食べてみてくれ」
実を配ると、村人たちの顔が明るくなる。
「体が軽くなった!」「これで冬を越せそうだ!」
ガロン爺さんが、俺の肩を叩いた。
「よくやったな、リク。
この娘――セラのおかげも大きい。
村は、お前たちに感謝してる」
セラは照れくさそうに頭を下げた。
だが、喜びは長く続かなかった。
昼過ぎ、村の入り口から異変が起きた。
馬の蹄の音が響き、数人の男たちがやってきた。
鎧を着込み、剣を腰に差した――王都の調査官だ。
リーダーの男が、村人たちを睥睨する。
「エルド村の者たちよ。
王都から来た。
昨夜の異常気象と、今日の奇妙な晴れについて、調査する」
ガロン爺さんが前に出た。
「調査官殿、何か問題でも?」
男は冷笑した。
「問題大有りだ。
この村の作物が、不自然に育っているという報告があった。
さらに、空から落ちた光の目撃情報。
魔物の兆候か、異端の魔法使いの仕業か……調べる」
俺の背筋が冷たくなる。
――誰かが、密告したのか?
それとも、空島の追手が、王都を動かした?
調査官たちは村を歩き回り、俺の畑に目を留めた。
「ほう……この果実か。
見たことのないものだな。
没収する。分析のためだ」
セラが俺の袖を強く握る。
彼女の瞳に、恐怖が浮かぶ。
「リク……この人たち、ただの調査官じゃないかも。
空島の息がかかってる気がする」
俺は小さく頷いた。
【鑑定】で男たちをスキャンする。
【名前:調査官リーダー】
【所属:王都警備隊……裏で空島調整院と繋がりあり】
【目的:セラの行方探しと、地上の異端抹殺】
――やはりか。
男が俺に近づき、剣を抜いた。
「少年、お前がリクか。
昨夜の戦いの痕跡が、この畑にあるな。
空島の落ちこぼれを匿っているのは、お前だろ?」
村人たちがざわつく。
ミアが俺の前に立ちはだかった。
「リクは何も悪くない!
セラは私たちの味方だよ!」
だが、男は嘲笑う。
「味方?
空の民が、地上の虫けらどもに味方などするものか。
セラフィーナを出せ。
さもなくば、この村を干ばつで壊滅させるぞ」
空が、急に曇り始めた。
調査官の背後で、雲が渦を巻く。
――天候魔法の使い手が、隠れている。
セラが震える声で言った。
「私……出て行く。
みんなを巻き込みたくない」
俺はセラの手を握り返した。
「いや、逃げない。
ここで、戦うんだ」
俺は魔力を集中させた。
畑の作物が、再び動き出す。
村人たちに、叫んだ。
「みんな、下がって!
俺が、守る!」
調査官が杖を構え、雷を落とそうとする。
迫る影が、村を飲み込もうとしていた。
第5話 終わり
(次回、第6話 「融合の力と王都の陰謀」)




