第4話 村の危機と新たな仲間
朝焼けが、嵐の後の空を優しく染めていた。
俺は地下倉庫の藁束に腰を下ろし、セラの様子を窺う。
彼女は昨夜の戦いの疲れで、まだ眠っている。
銀髪が朝の光に透けて、まるで月光のように輝く。
外からは村人たちの声が聞こえてくる。
「今年も田がやられた……」「どうやって冬を越すんだ……」
昨夜の嵐で、村の半分以上の畑が水没したらしい。
俺の畑も、蔓が暴走したせいで一部荒れてしまったが、それでも他の家よりはマシだ。
――このままじゃ、村は終わる。
俺は決意を固め、セラを起こした。
「セラ、起きて。
村の状況が悪い。
お前の力が必要かもしれない」
セラは目をこすりながら体を起こす。
「私の力……?
でも、天候魔法は今、ほとんど使えない。魔力が回復しきってないし……」
「それでも、何かできるはずだ。
まずは、村の長老に会おう。
あの人なら、話を聞いてくれる」
セラは少し躊躇したが、頷いた。
俺たちは小屋を出て、村の中心へ向かった。
道中、村人たちが俺たちを見てざわつく。
「リクのところに、妙な娘が……」「昨夜の嵐で落ちてきたって?」
噂はすでに広がっていた。
長老の家は、村で一番古い木造の建物。
中に入ると、長老の老人――ガロン爺さんが、囲炉裏の前に座っていた。
白髪を後ろで束ね、皺だらけの顔に深い知性が宿っている。
「リクか。……そして、その娘は?」
俺はセラを前に出し、静かに説明した。
「彼女は、空から落ちてきた。
空島の住人です。
天候を操る力を持っています」
部屋に、重い沈黙が落ちた。
ガロン爺さんはゆっくりと目を細め、セラを見つめた。
「空島……神話の天界か。
お前が言うなら、信じよう。
だが、なぜ今、地上に?」
セラは深く頭を下げた。
「私の失敗で……地上に異常気象が起きやすくなってしまいました。
申し訳ありません。
でも、リクさんが助けてくれたので……せめて、この村を救いたいんです」
ガロン爺さんは長いため息をついた。
「異常気象が、人の仕業だったとはな……
古い伝承に、『空の民が雨を司る』という話はあったが、まさか本当だったとは」
俺は続けた。
「空島は、地上の作物を意図的に制限してるんです。
依存させて、支配するために。
セラはそれを止める側に回りたいと言ってます」
爺さんは立ち上がり、窓から外の水没した田畑を見た。
「村は、もう持たん。
このままじゃ、冬前に全員餓死だ。
……娘よ。
お前の力で、雨を止めることはできるか?」
セラは頷いた。
「少しだけなら……今は弱いけど、リクさんの魔力供給を受ければ、回復が早まるはず」
俺は即座に手を差し出した。
「なら、俺の魔力を貸す。
【作物成長促進】の魔力は、植物だけでなく、人にも流せる」
セラが俺の手を握る。
冷たい指先が、徐々に温かくなる。
そして、セラは目を閉じ、小さく呟いた。
「天候調整……雨雲、散れ」
外の空が、ゆっくりと動き始めた。
残っていた黒い雲が、まるで追い払われるように薄れていく。
太陽の光が差し込み、水没した田畑に虹がかかった。
村人たちが、外へ飛び出してくる。
「雨が止んだ!」「空が晴れたぞ!」
歓声が上がる中、俺たちは長老の家で静かに息をついた。
ガロン爺さんが、セラに言った。
「ありがとう、娘よ。
お前は、この村の恩人だ。
だが……空島の追手は、まだ来るだろうな?」
セラは頷いた。
「はい。
私を消しに来るはずです」
爺さんは笑った。
皺の深い、優しい笑み。
「なら、村で匿う。
リク、お前が守れ。
俺も、村の者たちに話を通しておく。
この娘は、俺たちの味方だとな」
俺は胸が熱くなった。
「ありがとうございます、爺さん」
その時、セラが俺の袖を引いた。
「リク……私、もっと強くなる。
あなたの畑で、作物と天候を一緒に育てる方法を、試してみたい」
俺は頷き、笑った。
「ああ。
まずは、俺の畑を復旧させることからだ。
一緒に、村を豊かにしよう」
外では、村人たちが田畑の復旧を始めていた。
希望の光が、地上に満ちていく。
だが、空の彼方では、まだ小さな影が動いているのが見えた。
追手は、諦めていない。
――戦いは、まだ始まったばかりだ。
第4話 終わり
(次回、第5話 「畑の奇跡と迫る影」)




