第3話 追手と秘密の能力
雨は容赦なく叩きつける。
俺たちは泥濘んだ道を駆け、畑の奥にある古い地下倉庫へ向かった。
ここは俺が一人で掘って作った隠し部屋だ。
表向きは「余った作物の貯蔵庫」だが、実際は俺の秘密の実験場でもある。
扉を開け、セラを中に入れる。
中は狭いが、木の棚に干し作物が並び、壁際に小さなベッド代わりの藁束がある。
魔力灯を一つ灯すと、薄暗い空間がぼんやりと照らされた。
「ここなら……しばらくは隠れられるはずだ」
俺は息を切らしながら言った。
セラは壁に寄りかかり、震える手で銀髪を掻き上げた。
「本当に……ありがとう、リク。
でも、追手は執念深い。私の魔力を追跡できる術を持っている」
その言葉通り、外の嵐はますます激しくなっていた。
雷が連続して落ち、まるで空全体が俺たちを探しているようだ。
俺はセラの隣に座り、静かに尋ねた。
「教えてくれ。
空島が天候を操っているって、本当なんだな?
地上の異常気象は、全部あいつらのせいか?」
セラは目を伏せ、ゆっくり頷いた。
「……本当よ。
空島――私たちは『ウィンドリア』と呼ぶ――では、古来より『天候調整院』という組織が、地上の気候を管理している。
戦争の後、地上が荒廃しないよう、雨を降らせたり、干ばつを防いだり……
でも、それは表向き。
実際は、地上の作物を意図的に制限して、依存関係を作っているの」
俺の胸に怒りが込み上げる。
「つまり……俺たちの村が苦しんでいるのは、意図的なものだってことか?」
セラは小さく首を振った。
「全部じゃない。
調整院の幹部たちは『均衡のため』って言うけど……最近は、もっと私利私欲が強い人も増えてる。
私みたいな下級調整士は、失敗したらすぐに処分される」
「だから、お前は落ちてきたのか」
「……そう。
儀式で魔力が暴走して、結界が破れた。
そのまま地上へ……
追手は、私が秘密を漏らすのを恐れてるの」
その時、倉庫の外で足音がした。
重い、複数人のもの。
「見つけたぞ……落ちこぼれのセラフィーナ」
低い、冷たい声。
男の声だ。
セラの体が硬直する。
俺は立ち上がり、扉に耳を寄せた。
外には、三人の影。
背中に薄い翼のような膜を持ち、手に青白く光る杖。
空島の追手だ。
「魔力の痕跡はここだ。
出てこい、セラフィーナ。
大人しく捕まれば、痛い目は見せない」
俺はセラに囁いた。
「ここにいろ。俺がなんとかする」
「だめよ! リクは関係ないのに……」
「関係あるさ。
お前を助けた時点で、俺も巻き込まれてる」
俺は深呼吸をし、【作物成長促進】の魔力を集中させた。
今まで隠していた、もう一つの応用技――
【植物操作】。
扉の外、畑に植えていた蔓作物が、俺の意志で動き出す。
地面から急激に伸び、追手たちの足を絡め取った。
「なっ、何だこれは!?」
「地上の植物が……!?」
混乱する追手たち。
俺はその隙に扉を開け、外へ飛び出した。
雨の中、三人の男が俺を睨む。
リーダー格の男が杖を構えた。
「地上のガキか……セラフィーナを匿うとは、命知らずだな」
俺は笑った。
「悪いな。
俺も、ただのガキじゃない」
そして、俺は初めて――本気で能力を解放した。
【作物成長促進・最大出力】
畑全体が震え、地面から巨大な蔓と根が爆発的に伸び上がる。
まるで生き物のように、追手たちを包囲した。
「な……これは魔法か!? 地上に、そんな力があるはずが……!」
リーダーが杖を振り、雷を落とそうとする。
だが、俺はさらに魔力を注ぎ込む。
蔓が杖を絡め、雷を逸らす。
さらに、近くの作物が実を膨らませ、爆発的に種を飛ばす。
種は空気中で小さな爆発を起こし、追手たちを怯ませた。
「くそっ……撤退だ!
こいつはただ者じゃない!」
三人は翼を広げ、空へ飛び上がろうとした。
だが、俺の蔓はすでに空を覆うほどに成長していた。
「逃がさない」
俺は最後の魔力を振り絞り、蔓を鞭のように振るった。
一本がリーダーの足を捉え、引きずり下ろす。
「ぐあっ!」
地面に叩きつけられた男は、動かなくなった。
残りの二人は慌てて逃げ去った。
嵐は徐々に収まり、雲の渦が解けていく。
俺は息を荒げ、膝をついた。
魔力の枯渇で、視界がぼやける。
「……リク!」
セラが倉庫から飛び出してくる。
彼女は俺を抱きかかえ、涙声で言った。
「すごい……あんな力、地上の人にあったなんて……」
俺は苦笑した。
「まだ、秘密だぞ。
村に知られたら、俺は終わりだ」
セラは頷き、俺の手に自分の手を重ねた。
「私も……秘密を守る。
でも、リク。
これからは、一緒に戦おう?
空島の真実を、地上に伝えるために」
俺は静かに頷いた。
「ああ。
まずは、この村を救うことからだ」
雨が止み、月が顔を出した。
空島の影が、遠くにぼんやりと浮かんでいる。
――次の一手は、俺たちが決める。
第3話 終わり
(次回、第4話 「村の危機と新たな仲間」)




