03本当に頭の中には母のことしかない。実父そっくりで気が合いそう
娘が幸せならとか思考がそこで止まるのはいかがなものかと思う。
色んなことを言いたいけれど、この世界のでしゃばらない教育を長年受けている人に何を言っても無駄なような。頭を振る。
孫よりも娘が大切らしい。呆れて何も言えなくなりそう。追い出そうかなと頭を過った。絶対に裏切りそうな、濃厚なパターンがいくつか思い浮かぶ。
味方のふりをした敵が一番厄介なんだ。睨みつけないように目を細めた。
「お婆様?」
「な、なに?」
こちらのイラつく声音に怯えたのか肩を竦ませる。そんなに嫌なら、向こうに行けばいいのに。あ、そうか。
「お婆様が見てきてくださいよ」
「え?わたしが?」
「それは」
祖父が止めたそうにしたが、祖父へも笑みを配る。そんなに向こうの娘がいいのならば現実を見せればいいんだな。
何度も母が大怪我をしたと風の便りを聞いて見にきたことにすればいいのです、と説得する。
祖父も、それもそうだなと納得していく。
祖母は初めから大怪我した母のことを気にしていたからか、迷うフリをしながらもまんざらでもない態度であちらへ、そそくさと向かう。
孫も事故の被害者なんだけどなぁ。本当に頭の中には母のことしかない。実父そっくりで気が合いそう。
祖父はあっと言う間に向かった祖母を引き止めようとしても、ハンカチ片手に向かうと言って聞かない妻にため息を吐いて見送った。
それを孫の自分も見送る。適当なハンカチを振って馬車を見ておく。あの実父に外へ放り出されないように頑張れ〜。
「はぁ」
「いいじゃないですか……向こうのことを知れますし」
祖父を慰めた。一応自分の身内だし、フォローくらいはやろうかなと。ケミティの年齢ではする必要はないけどね。本来ならば。
「そうだな……」
祖父は実父を追い詰めるために王へ話したりするらしい。有責で貴族籍を剥奪しにいくとのこと。高位貴族ではないから、やりやすいだろう。
「お前は貴族籍を残しておくか?」
「ええ。本を読めるので」
笑顔を向けて、それだけのために残しておきたいと願う。低位貴族でも貴族の特権は必要だ。平民なんてとんでもない。
ただ、母が父を追いかけて平民になりたいって言うのならどうするのかな。
ケミティは図書館に向かう。使用人たちや護衛を連れて最近は入り浸っていた。転生者として使える知識やアイデアはないかと、模索中。
実父が追い出さなかったらあと少しで、何か物を作り出すところだった。危ないところだ。
「石鹸は、ある……」
日用品ならあるから、ないものを緻密に細々して探す。なにを作ろうかと日々目をさらにしていると声をかけられた。この幼女に誰が?
「ケミティさん?」
「あ、チェロリィ」
祖父たちの家の近所に住む、貴族の家の女の子だ。彼女とは祖父母の家に行く時に遊んでから仲がいい。えっと、二歳くらい年上だったかな。
「さんって、わたしは年下だよ?」
「マナー教室では、そのように学ぶのよ」
「大変だね」
頷くと相変わらず面白いわね、と懐かしまれる。確かに周りから自分は変人として有名らしい。子供らしくないからね。
「わたしの兄は覚えてるわよね?」
半年間会ってなかったけど、覚えている。女の子のお人形遊びに交ざっていた男の子。
「兄が人形遊びが好きなんてわたしも気づかなかったのに、気づいた上で無理矢理誘って、仕方なく遊んでいるふうに遊ばさせるなんて、あなたはやはり天才だわねって、家族ではいつも話すのよ」
「あー、バレてたのか」
「ふふ、そうね……兄もあなたが去ってから気付いてね」
二人は図書館から移動してカフェへ移動した。母が大怪我して追い出されたことをちょこっと話したら驚かれた。口元に手をやり信じられない話だと思われても構わないと思ったけれど、彼女は信じてくれる。
「大変だったのねぇっ。もう平気よ!わたしと兄が守るもの!」
わあ、どこぞの祖母とは大違いだ。三日後にチェロリィの家に招かれた。兄も会いたいと言うから来てと言われたもので。相手の家にお邪魔しにやってきた。
挨拶をしてお茶会のテーブルに座ると早速最近のホットな情報を話し始める。都会と比べると刺激的な方が少ないので、ケミティの存在は彼女の中ではかなり話題性が高いだろう。
二人して話し込んでいると彼女の兄の令息が声をかけてきた。コンコンコンと扉を開く音。
「はい……あ、お兄様」
兄も会いたがっていたと聞いていたので、わざわざ挨拶しにきてくれたのだと察した。優しい人だ。妹の友達に挨拶する兄なんて、探してもほとんどいない。
「お久しぶりです。プネラス様」
「ああ、久々だな。ここを第二の家と思ってくれ」
相変わらずクールだ。それに優しい。
「ありがとうございます」
「お泊まりも視野に入れましょうよ」
「その時は張り切って歓迎しよう」
わあ、どこぞの祖母とは大違いだなぁ。祖母は泣くこととケミティが可哀想可哀想と、そればかり投げつけてくる。泣くのはいいけどケミティで己に酔うのはやめて欲しかった。
それに対して祖父や彼女たちは無駄に憐れむことなく、寄り添ってくれている。会うたびに急に泣き出されるのはストレスが駆け上がっていた。
「今日はありがとうございました」
たっぷり英気を養い、礼を述べて帰ろうとするとプネラスがチケットをくれた。画家の主催する絵の展示会のもの、らしい。優雅な趣味だと驚く。自分も貴族だが趣味趣向は平民の方面が色濃いから、毛色が違うし。
「よければ、一緒に見に行かないか?母がパトロンをしている画家がいて、チケットを配るように厳命されていてな」
照れたように笑う男に胸がざわめき、誘ってもらえた喜びで何度も頷く。
「行きます」
冗談の口調で笑う彼に、ハードルを低く感じて頷く。
「わかった。じゃあ、当日は馬車を寄越すから」
二人で約束して、当日はさらに楽しく過ごせた。
実父について進展があったことを知る。祖父から聞いたことを反芻させる。
「目覚めたのですね」
それはおめでとうと言いたいけれど、気楽でいられない。むしろ、ここからが本番だろう。実父がどれだけ嘘を吹き込むか楽しみだ。吹き込んでから動かないと、母も信じないだろうし、祖母も目を覚まさないだろう。
こう言うとまるで、祖母も眠っているようなものなのかと気付く。別に寝たままでいいかな。
祖父の選択肢が孫と娘、祖母の選択肢は母である娘だけだったというだけ。悲しみはなく冷静で冷えた頭にあるのは、いざという時は切り捨てるべきかと判断している。




