02太々しい。お前の籍はもう外しておいた。廃嫡だ。廃嫡なんだそうな
違うと言ったところで、めちゃくちゃな言い分が退けられる可能性はゼロ。
下手に何か言うと、毒殺とか刺殺とかされるとたまったもんじゃないからね。疑惑が確信に変化して、やれやれとなる。
「太々しい。お前の籍はもう外しておいた。廃嫡だ」
とんでもない父親もいたものだ。世の中にこんな人がいてもおかしくないとは知っていたけどね。まさか、己の親が該当してしまうとは。
廃嫡とは実に行動力が早い。話が繋がらないけど、悪くないけど、父の中ではどんなに無関係でも怪我を間接的にさせた娘が悪いんだって。何度考えてもさっぱりわかんない。
「へえ」
バカにした声音で答えたら、男は嘘だと思われていると思っているらしく、こちらを睨みつけて「嘘ではない」と紙を寄越した。
この無言期間になにをしていたのかと思ったけど、貴族の肩書を消してたのか。そういうところだけはキチンとやるんだ。娘を放置してまでやることではない。
多分、この人はケミティが生まれた時からこうしたかったのだなと、いまさらながらざっくり考察。
でなければ、いきなり物事がここまで突拍子もなく進まない。
取り敢えず母の実家か、この人の実家に手紙を出してから反応を見てみないと。となって、急いで母方の祖父母らの家に先ぶれなしで向かうと慌てて色々説明した。
手紙を出す間に、手を回されるかもしれないと思い直したのだ。とっても驚いていた。こちらにはまだ除籍の話はないらしい。聞かれるまで……いや、調べられるまで言わなかったのではないかと思う。
どんな理由で幼い子供を除籍したと聞かれたら、なんと答える気だったのだろう?病気?療養させればいいから関係ない。
性格に難がある?そんなことで貴族の子女を、幼女を外に放り投げはしない。
殺そうとしたから?小さな子供にそれは無理だろう。大人を怪我させるなんて到底できまい。やはり、なんというつもりだったのか気になるな。とりあえず除籍理由を話すと信じてもらえない。
そんなわけのわからん理由で追い出す奴なんていないと。ところがですね、と取り出したのは音声録音魔道具。おまけに映像付きだよ。
挙げ句の果てにと言う言い方は使い方は違うけれど、父親に振り払われた時の全身打撲の医者の診断書。
などと証拠を出しての映像を見終えた面々の顔は、皆がこんなことが本当にあり得るのかと、信じられない顔をまだしていたが、最初と意味が百八十度違う。
貴族の当主が支離滅裂なことを言って、実子を、幼児を外に放り出した。父親の男は娘を孤児院に入れるわけでも、祖父母の家に預けることすらせずにいたのだ。
本当の意味の放逐。貴族の系列の者達に通達なしの排斥。明確な血筋の理由無き排除という、貴族というものを軽視に軽視を重ねた愚行。
ご飯を食べなさいと気を使われる。すごく助かるので頷いた。飲み食いせずに突貫でここまで来たからね。大変お腹が空いている。
幼児の体でよくここまで来れたなと、苦笑する。無我夢中だった。まさか、ノーマネーで放り出されるとは夢にも思わ無かったから。
実は馬車に乗った時に母が持っていたお財布を持ったままだったのだけれど、返却する前にいきなり豹変した相手により、返却の必要はなくなったのだなと察した。
そう思えば持っていてよかった。本当に。無かったら路頭に迷ってたので。
祖父母にめちゃくちゃ甘やかされながらもほっぺをぷくぷくさせてご飯を食べた。
「まあ、そんなにお腹が空いていたのね……ううっ、なんて可哀想なケミティ」
祖母が泣いてしまう。この人たちもある意味被害者だから気にしなくていいのに。あれに気づくのは難しい。なんせ、近くにいて毎日顔を合わせていた自分さえ知らなかったのだから。気にしないでと言うとさらに泣く。なぜ。
それに、もう本性を暴露させたのでこの家を追い出されることもない。安心したらお腹がさらに空いて、もりもり食べる。それにしても、子供が欲しくないのなら、産まなきゃいいのに。
ここで後継云々の話はなしだ。その話になるのなら、ケミティを家に居させておけばいいのだから。それとも男の子の方がよかったのかな。
女の子だからイラネーって思ってとか、思ったけどどう見ても男の子なら自分と違って、可愛がったと想像がつかない。
どの子供も、ダメな気がしてならないよ。なんか嫌な予感がする。母には何と言って、子供がいない理由を話すのだろう。祖父母らよりも言い訳は難しい気がする。いや、待てよ?
「おばあさま。お母様が事故に遭いましたことを知っていましたか?」
「いいえ!わたしくしたちは!そんなこと!一言だって、教えてもらっておりませんのっ」
「そうだ」
祖父が手紙や書類を読みながら、執事たちに指示していた。
「やっぱり。このままお母様が娘なしで過ごせる方法がいくつかあります」
「そんなことが可能なのか?」
可能です。と告げてパンを食べる。お腹が少しずつ満たされていく。
「どうやっていないことにするのだ?」
「死んだことにするが手っ取り早いのですが、死亡届も出しているのか、ないのか……周りを騙せるのは行方不明でしょうか……」
「行方不明……バカにしおって、あいつめっ」
祖父がいきどおる。気持ちはわかるけれど血圧が上がるから、気をつけてね。
気になるけど、気をつけないと。父に祖父たちもなにかされる恐れも否めない。あの人に必要なのは母だけだ。実娘をこうする人だから、それ以外の人も簡単に危害を加えたっておかしくない。
殺されるかもしれないから、母を取り返したいのならケミティの存在を知られない方がいいことを、伝える。
「そんなに危険な男だったとは」
「でも、娘を愛しているのよね?なら、私は……」
まさか、母をあのまま、あの男のところへ行かせたままにしたいと?考えていることを言いそうな祖母の言葉と顔に、わかってないなぁ、と呆れた目を向けた。
「愛ではなく、行動に目を向けてください」
「あ……ご、ごめんなさい」
娘を有無も言わせず除籍して、外に放逐した所業をどうにかして頭を回転させるべき。母を愛しているかなんてもう、どうでもいい。話を戻す。
「母を引き離そうとすると必死に取り戻そうとして、全員に無差別に攻撃すると思うんですよね」
「な、そんなに危険な男だと」
「なにもしてないのにここまでしたのですから、もっとやるでしょうね。まるで依存症みたいです」
ため息をつく。祖母に目をやると不安な目と合う。どうやら恋愛脳の部分があるので下手に元父に協力しないかなあ、と疑惑が湧く。
なーんか裏切りそうな匂いがする。鬼畜なやつのところへいさせることは不幸しか生まないけど、わかってんのかなぁ?




