円卓の騎士
この円卓に座するものは、全て平等である。
だが最近は、この『平等』が災いしたのか、会議が荒れる傾向にある。アーサー王とて、その荒海は他人事ではない。ここぞとばかりに、普段は下の階級の者が自分に歯向かってくるのだ。
もちろんそんなことで、王権を濫用しはしないが、いくらなんでもこれはひどすぎる。王とは言えど、人間である。いくら寛容な人間であろうと、怒るときには怒る。
そして今日も泥仕合、泥会議なわけだ。
「ねぇ、ケンカなんてやめてよ」
「おい、女の声がしたぞ。誰だ女を連れ込んだやつは」
「貴様だろ。このドスケベ騎士が。略してドスケベ」
「略せてねえじゃねぇかこの野郎」
「ねぇ! ここはそんな場所じゃないでしょ!」
「誰だよお前は」
「待て待て、言いたいことは言ってもらわないと会議にならな」
「良い子ぶってんじゃねえよヒゲ。そこまでしてモテたいのかハゲ」
「私はハゲていない」
「もう! バカあ!」
円卓に集った騎士たちは、目を見張った。
なんと、円卓が立ち上がったのだ。円卓と言えどテーブルである。テーブルには、必ず足がある。四本の足を、人間で言うなれば二本を手、二本を足のように使い、誉れ有る円卓が立ち上がった。
「え?」
「私、もうこんなケンカばっかりする場所なんて、いてらんない!」
円卓は走って逃げた。二つの足で大地をしっかりと踏みしめ、残りの二つの足は乙女のように胸に畳んで。
「まずい、追いかけろ!」
アーサー王が血相を変えて言う。
「あんなおかしな円卓、もういいじゃないですか」
「そうですよ、行かせてやりましょうよめんどくさい」
「ばかやろう!」
アーサー王が、今度は憤怒の表情で叫ぶ。
「アレの値段を、お前たちは知っているのか? 『円卓の騎士』ってのは、この国どころか近隣諸国にまで響く、いわば騎士のエリートだ。そんな俺たちの、一生分の月給よりも、あの円卓は高いぞ」
騎士たちの顔に動揺が走る。
「あの円卓が、例えば壊れたり、なくなったりしたら、問題は俺たちだけのものではなくなるだろうな。それでもいいやつは、今すぐここから去れ」
「よーし、追いかけるぞー!」
「おー!」
そして『円卓の騎士』は、『円卓』を全速力で追いかけた。
円卓は街なかを疾走し、ゲートから外へ出て、山へと向かっている。追い付けないほどではないが、すぐに捉えられないほどの、絶妙な速度。イラッとする。
「あんな野蛮人連中だなんて思わなかったのだわ! 私みたいな高貴な円卓が、あんな筋肉お化けの鉄板着込み剣持ち野郎どもとお付き合いすることが、そもそも間違いだったのよ!」
「なあ、あのテーブルは何を言っているんだ?」
「考えるな。バカになるぞ」
山を登り、坂を下る。ここでハプニングが起きた。
「ああっ!」
円卓が、坂を良い感じにゴロゴロと転がりはじめた。足(笑)が躓いたのだろう。かの英国が誇る世界最強の兵器、パンジャンドラムを彷彿とさせる格好で転がっていく。
「キャーー! 誰か助けてーーー!」
腐っても騎士。そして騎士である前に紳士である。円卓の騎士たちは、この悲鳴の元を助けようとしていた。だが身体が動かない。当然である。あれは人ではない。テーブルだ。丸いテーブル。なぜか喋る、丸く値段の高いテーブル。
このままでは、泣きわめく円卓が強固な岩壁に激突する。これで円卓と騎士団の給料は、丸々パーである。その場にいるものが息を呑む。
ふぁさっ。
アーサー王が円卓を両の腕で優しく受け止める。間一髪、本当に間一髪であった。
「あなたは…! でもどうして…」
「貴方を失うわけには、いかなかったのです。お金の関係で」
「私も、少し意固地になりました。お許しいただけるでしょうか」
「もちろんです。お金が大丈夫なら」
「うふふ。素直な方」
円卓は、縦にころころ転がりながら、ここまで追っかけてきた騎士たちにお礼を言ってまわる。その姿はまるで、可憐な少女のようであった。テーブルだけど。
「なんだろう。最初よりも、可愛らしく、そして大人になったような…」
「ああ、俺にもそう見える。どうしたのだろうか」
「転がったおかげで、角が取れて丸くなったんじゃないか?」