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『魔眼の少年は、神の代わりに世界を視る』  作者: 七月 寿来
第一章 異世界との出会い
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第六話「模擬戦」

「ラグナ、ちょっとこっち見てみて!」


 アリサの声が耳に入る。振り向くと、彼女が嬉しそうに手を挙げていた。どうやら、読書の課題が終わったらしい。


「なに、アリサ?」


「これ、分かる? 文章の意味!」


 彼女が手に持っている本は、王都から来たティレル先生の教材の1つだ。この世界での読み書きは、子供にとってはまだ難しい部分が多いけれど、アリサはすぐにコツを掴んでいた。彼女の知識吸収はかなりのものだった。


 アリサが得意気に微笑みながら、ページを指で指し示した。


「ほら、ここ。『外部の魔素を感知・収束し、自身の魔力を媒介として制御・放出することにより魔術現象を成立』って書いてあるでしょ。私はね、この部分がすごく面白かったんだ。魔法って感覚だけじゃなくて、ちゃんとした理屈があるんだよ!」


 「それはわかってる。……わかってるんだけどな。」


 俺はそう答えながら教本のページをめくる。頭では理解できている。理論も、手順も、すでに何度も読み込んできた。けれど、どうしても――実際に魔法を発動しようとすると、うまくいかない。


「ラグナって、ほんとに理屈はちゃんとしてるよね。でも、魔法って、理屈だけじゃ動かないところがあるのかなぁ……?」


 アリサが小首をかしげながら呟いた。


 そんなとき、ゼインが隣から声をかけてきた。


「ラグナ、お前、今日はちゃんと集中しろよ。お前が集中しないと、俺まで注意されるんだからな」


 今はゼインとペアで読み書きの練習をしてる。彼の鋭い目が、俺ををじっと見ている。普段から無口で、あまり周りと関わらないけれど、授業中は真剣だ。


「分かってるよ」


 ゼインは少し鼻を鳴らして、またノートに目を戻す。彼もまた、勉強に対しては真面目で、成績は優秀だ。でも、どこか自分のペースを崩さないところがある。


 昼休みまでの時間、授業は進んでいく。読み書きの課題、計算、そして少しの歴史の話。村の学校では、これが普通の一日だ。先生は王都から来たティレル先生だが、授業はあくまで基礎的な内容が中心だ。


 しかし、時折アリサのように、独特の興味を持った子どもたちがいることで、教室の空気が少しだけ変わる。そうして、俺たちはそれぞれが持つ才能を少しずつ感じ取っている。今日はアリサが魔法の話をして、ゼインが剣術の話をしていた。


 昼休みになると、アリサが僕に声をかけてきた。


「ラグナ、今日は何して遊ぶ?」


「うーん、今日は特に決めてないけど。ゼインもくる?」


 ゼインはすぐに首を振った。


「俺はいい。訓練がある」


 ゼインは、昼休みもあまり遊ばない。基本的にいつもどおり、何かしらの練習をしている。だから、アリサと僕が一緒に遊ぶことが多い。


「じゃあ、今日は私と一緒に魔法の練習しようよ! ラグナも興味あるんでしょ?」


 アリサが楽しそうに言ったが、魔法にはもうあまり興味がない。あるけれど、出来ないんじゃあ時間の無駄だろう。ただ、アリサが楽しそうにしていると、つい付き合ってしまうことも多い。


「それじゃあ、少しだけやるか。でも、俺は剣の練習がメインだぞ」


「分かってるよ! 少しだけね!」


 昼休みの間、アリサと一緒に軽い魔法の練習をしてみる。途中、ゼインもちらっと顔を出して、「暇なら、俺の模擬戦に付き合え」と言われるが、断ってしまった。


 昼休みが終わり、次の授業が始まる。


 だが、教師のティレル先生が突然、みんなに向かって話し始めた。


「さてみんな、少し特別な話をしよう。実は、王都から視察のための担当者が、君たちの中に魔法や戦闘の才能がある者を見極めに来るという。そのため、少し模擬戦を行うことにした」


「えっ、模擬戦?」


 アリサが驚き、ゼインも無言で反応した。


「もちろん、強制ではないが、王都の各学園が君たちの才能を見たいということで、試してみるいい機会だ。できれば君たちの力を見せて欲しいと思っている」


 アリサは隣でそわそわと落ち着かない様子を見せていた。

 俺も正直、驚いていた。普段の授業では読み書きや算術ばかりで、実戦を想定した授業などほとんどなかったからだ。


「ラグナ、出る?」

「……まぁ、断る理由もないしな。やってみるさ」


 内心は不安もあったが、王都の人間が自分たちを見る、という機会に心がざわついていた。もしかしたら、この村を出るきっかけになるかもしれない――そんな期待も、どこかにあった。


 ゼインは黙って席を立ち、教室の外に出ていこうとした。

 

 アリサがそれを見て、俺の肩をつついた。


「ゼインも出るんだね……ラグナ、ゼインとやるかもよ?」


「そしたら、全力でぶつかるだけだ」


 最初にゼインからの模擬戦の申し出を断ってから惰性で断り続けてしまったが、ここ最近はむしろやってみたくなっていた。今の自分が天才にどこまで通用するのか、試してみたくなってた。


 ゼイン――彼に認められたいと思っていたのかもしれない。


 午後の授業は、普段使われることのない校舎裏の広場で行われることになった。


 簡易的に設けられた仕切りと、村の大人たちの手によって、臨時の「模擬戦場」が作られていた。


 俺たち生徒は円の外に集まり、順番に名前を呼ばれていく。

 

 教師のティレル先生の隣には、王都から来たという視察担当者――背筋を正した黒いローブの銀髪の女性や、似たような恰好をした男女数名が立っていた。


 どこか冷たい目をしていたが、ただの好奇心ではない、何かを見極めようとする真剣さがそのまなざしにあった。


「次――ラグナ、ゼイン」


 ティレル先生の声が広場に響くと同時に、教室の空気がひときわ強く張り詰めた。


 俺の名前が呼ばれた瞬間、周囲の視線が一斉に集まったのを感じた。

 アリサがどこか不安げにこちらを見ている。ゼインはすでに、仕切られた土の円の中に歩を進めていた。


 俺も一歩ずつ円の中央に進む。手には軽い木剣。何度も握り慣れたものなのに、今は少しだけ重く感じた。


「ゼイン。やるからには本気で行くぞ」


 言葉をかけると、彼は短く応じる。


「来いよ」


 その一言に、ただの挑発ではない、揺るぎない自信が滲んでいた。


「剣の使用は木剣に限る。魔法は禁止。怪我のないように、ただし手加減は必要ない」


 ティレル先生の宣言の後、静寂が落ちる。


 俺は深く息を吸った。全身の筋肉に神経を行き渡らせる。視線の先にいるゼイン――彼の構えは、まるで隙がない。肩の力は抜け、重心は低く、どの方向にも即座に対応できるような柔軟さがあった。


 まるで獣のようだった。


「始め!」


 その合図と同時に、ゼインの体が爆発的に動いた。


 速い――!


 一歩の踏み込みで間合いを詰めてきた。木剣が空気を裂く音と共に、鋭い横薙ぎが俺の左肘を狙ってくる。


 反射的に木剣を立てて受け止める。衝撃が骨を伝って腕全体に走った。


「……っぐ!」


 重い。木剣のはずなのに、金属のような打撃。一歩後退しながらも、すぐに体勢を立て直す。


 再びゼインが斜め上から振り下ろしてくる。避ける暇はない。受けるしかない。


 剣を横に構えて受ける――が、完全には防げない。軌道を外された剣先が肩をかすめ、火花のような痛みが走った。


 ゼインは動きながら間合いを調整している。振る、退く、踏み込む、全てが連動している。


 やっぱり……本物だ


 こちらも反撃に転じようとするが、攻撃の隙を作る間も与えてくれない。


 ――――!


 ……魔眼が反応した。


 一度、踏み込んでみる。


 フェイントを混ぜた右袈裟斬り。しかし――


 読まれていた。いや、誘導されたのか?


 ゼインは一歩下がりながら体を捻り、斬撃を紙一重で避け、すぐさまカウンターの突きを繰り出してくる。


「……っ!」


 体をひねってかわすが、ゼインの剣先が俺の腹に一瞬触れた。軽く打たれただけなのに、そこに届いたという確かな感覚が残る。


 観察されてる。完全に――動きが。


「……くっそ!」


 苛立ちと共にもう一度踏み込む。連撃。左右の斬撃。足払い。捨て身の勢いで崩しにかかるが、ゼインはまるで風だ。受け流し、かわし、回り込む。


 数合――いや、十合以上か――交えたところで、ゼインの口が動いた。


「……甘い」


 その声と同時に、彼の剣が低く滑るように入り込む。


 避けようとする前に、左肩へと鋭い一撃が入った。


「ぐっ……!」


 肩に鈍い衝撃と痛み。バランスを崩し、そのまま地面に背を打った。


 見上げる空が広がる。熱い息が漏れ、全身から汗が吹き出す。


「……はぁ、負けた……」


 悔しい。けれど――心のどこかで、少しだけ満たされた感覚もあった。


「くそ……やっぱり強いな。次は……負けないぞ」


 一瞬、ゼインの動きが止まった。


 そして、彼は思いがけない言葉を口にした。


「……悪くなかった。動きは無駄がない。ただ、考えすぎだ」


「え?」


「考える前に動けるようになったら、お前はもっと強くなる」


 その声には、皮肉も見下しもなかった。


 数秒の沈黙ののち、ゼインは背を向ける。


「次は手加減しない」


 そう言い残し、円の外へと歩いていった。


 俺はその背中を見つめながら、唇の端を少しだけ持ち上げた。


「……なんだよ、それ……少しは認めてくれたってことか?」


 敗北の痛みの中に、確かにひとつの希望が芽生えていた。

 そして――戦いたいと思った。もう一度、今度こそ彼と並ぶために。

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