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『魔眼の少年は、神の代わりに世界を視る』  作者: 七月 寿来
第一章 異世界との出会い
6/8

第五話「幼馴染」

お待たせしました!

昨日投稿予定だったのですが、なかなか時間が取れず・・・。

 春の風が、朝の空気をやさしく揺らしていた。


 鳥のさえずりと、草木のざわめき。どこか浮き立つような空気の中で、俺は静かに身支度を整えていた。


 今日から、村の学校が始まる。


 「ふぅ……」


 木製の鏡に映る自分を見ながら、軽く息を吐いた。


 この世界に来てから八年。


 ようやく、村の子供たちが通う学び舎に行ける年齢になった。

 

 身支度を終え扉を開けると、朝の陽射しが差し込んできた。

 木々の隙間からこぼれる光が、土の道を照らしている。


 これは登校初日にはぴったりの天気だ。


 そんなことを考えながら歩いていると、背後から声をかけられた。


 「ラグナー!」


 振り向くと、金髪の少女が走ってくる。


 「ラグナ、今日から学校だよ! ついに始まるんだね!」


 「あぁ、楽しみだ」


 「それにね? 先生が王都の人だって聞いたよ!」


 アリサが目を輝かせながら話す。

 その目に見える期待に、俺も少し胸が高鳴る。

 この村では珍しいことだが、王都から教師が来て、村の子どもたちに教えてくれるらしい。


 学校へ通うのは、俺とアリサの他にも村の子どもたちがたくさんいる。

 俺たちは八歳。三年間の学校生活がこれから始まるんだ。


 「でも、ちょっと緊張するな」


 「緊張しないでよー! ラグナはきっと、すぐに馴染むって! だって、剣の訓練してるんだもん!」


 「それが役立つのは、授業じゃなくてむしろ遊びの時だろ」


 アリサが小さく吹き出した。その笑顔が、何だか俺をほっとさせる。


 学校の建物に到着すると、すでに数人の子どもたちが集まっていた。

 古い石造りの建物の前で村の皆が集まっているのを見て、自然と緊張が高まった。


 「うわ、ほんとに緊張してきた」


 「ふふ、わかる! わたしも緊張する。でも、今日は一緒だから大丈夫だよ!」


 アリサが俺の手を握って、力強く言った。それに少し救われた気がする。

 けれど、やっぱり初めてのことは不安だ。


 教室の扉を開けると、すぐに目を引く人物がいた。

 

 黒髪の少年、ゼインだ。


 俺自身は関わりが少ないが、有名人だから名前くらいは知ってる。


 彼はすでに教室に入っており、机の前に立っていた。


 「ゼイン、また早いね」


 アリサが驚いた顔で彼に話しかける。


 「俺はいつも早いからな」


 ゼインはあっさりと答え、ちらりと俺の方を見た。

 鋭い目つきと、少し冷たい表情に、どこか強い印象を受ける。


 「ラグナも一緒か。相変わらずだな」


 ゼインは、俺をまっすぐ見たまま、教室の隅で静かに座る。


 ゼインには剣の才能がある。村でもその腕前をよく見かけるが、かなりのものだ。

 とても今の俺じゃ剣のみでの模擬戦では勝てないだろう。


「よろしくな。ゼイン」

「あぁ、よろしく」


 何とも言い難い空気感に堪えられず、逃げるように席に着いた。


 そして、授業が始まった。


 教師は、王都から来たという中年の男性――ティレル先生だった。

 彼は、落ち着いた声で挨拶をしてから、自己紹介を始めた。


 「はじめまして、みなさん。王都の学び舎で教師をしていたティレルです。これからは、このウィステアの子どもたちに読み書きや計算を教えます」

 

 「ちょっとした魔法や剣も教えていきますからね。みなさんはこっちの方が楽しみでしょうか。」


 先生はにこやかに話を終えると、こちらにも自己紹介を促してくる。


 その後、自己紹介の時間になり、村の子どもたちが一人ずつ自分の名前と家の仕事を話していった。

 村なんて子供は数人しか居ない。ほとんど先生に対してしているようなものだ。


 「ラグナです。父は鍛冶屋をしています。少し剣の訓練をしています」


 俺が話すと、少しだけクスクスと笑い声が上がった。まだ俺が「剣の訓練」と言っても、村の子どもたちにとっては遊びの延長でしかない。


 次にゼインが立ち、無駄に長い言葉は言わなかった。


 「ゼイン。うちは狩人だ。弓と剣を使う」


 彼の簡潔な自己紹介に、教室の空気が一瞬静まり返る。ゼインの目線はどこか鋭く、子どもたちの視線が集まるのがわかる。


 なんでだよ!俺の時みたいに笑えよ!とも思ったが、グッと堪えた。


 そのあと、アリサが立ち上がった。


 「アリサです! うちは薬草を作ってるおうちです! 魔法も少しだけ使えます!」


 「すごい! 魔法使えるの?」


 「えへへ、ちょっとだけ。火の玉くらい!」


 アリサの明るい笑顔と、その魔法の話題に、教室はぱっと和んだ。


 授業が進む中で、俺の目にはゼインの姿が気になっていた。

 彼はずっと静かにしていて、授業に参加するわけでもなく、ただ自分の世界に閉じこもっているようだった。


 そして、昼休みが来た。


 「ラグナ、ゼインってさ……本当に強いと思う?」


 アリサが俺に小声で尋ねた。


 「うーん……強いと思うよ。腕はかなりのもんだ」


 「でも、魔法は使わないんだよね?」


 「剣に相当の自身がありそうだからね。見たこともあるけど」


 「じゃあ、わたしが魔法で負けるわけじゃないよね?」


 アリサが少しだけ不安げに聞いてきた。


 俺はそんなアリサを見て、少し笑って言った。


 「それはわからないけど、俺も負ける気はないよ。剣だって、魔法だって自分を信じなきゃ勝てるもんも勝てないと思うし」


「そっか、そうだよね!私は魔法で一番になる!」


 まぁゼインは強いだろう。魔眼で見る必要もない。

 そもそも個人情報を盗み見るのはあまりよくないのでは?と思い始め、最近は見ることもなくなっていた。

 



 ――――翌日


 今日から本格的に授業がスタートする。

 教室の生徒がざわざわしている中、ティレル先生が入ってきた。


 「さて、今日は手紙を書いてもらいます」


 ティレル先生の穏やかな声が響くと、子どもたちの間から小さなざわめきが起きた。


 「手紙?」「誰に書くの?」「そんなの初めて書くよ!」


 ざわざわと騒ぐ生徒たちを見渡して、先生は優しく笑った。


 「宛て先は、誰でも構いません。おうちの人でもいいし、友達でもいい。今は会えない誰かでも」


 アリサがぱっと手を挙げる。


 「先生!未来の自分へ向けてでもいいですか!?」


 「ふふ、もちろん。」


 教室が和やかな笑いに包まれる。そんな中、俺は手元の紙を見つめながら、少し考えていた。


 誰に書こうか――最初に浮かんだのは女神様。でもダメだ、見られるとまずい。次に浮かんだバルトに手紙を書くか。いつも応援してくれて、やりたいことをやらせてくれるいい父親だと思う。

 


 紙とペンを手に取り、俺はそっと息を吐いた。文字を書くのは好きだ。鍛冶屋の手伝いの合間に覚えた読み書きは、こうして少しずつ身についてきている。


 いつもありがとう、って書いてみようか。


 照れくさくて、ちょっと気恥ずかしい。でも、心を込めて書けば、きっと伝わる気がした。


 


 一方、隣のアリサは勢いよくペンを走らせている。

 

 「ねえねえラグナ、五年後の自分に書いてみたんだ! 王都の学校に行ってるかもだし、ちゃんと夢を忘れてないか心配でさ!」


 「そっか。アリサらしいな」


 「えへへ、でしょ!」


 

 教室の後ろの席では、ゼインが無言のまま紙を見つめていた。筆を握ったまま、ほとんど動かない。彼の姿は、まるで風のない夜の森のように静かだった。


 ……ゼイン、何を書くんだろう。


 

 ――――しばらくして、ティレル先生が声を上げた。

 


 「そろそろ時間ですね。では、発表したい人は、前に出て読み上げてください」


 教室が一気に静まり返った。


 最初に手を挙げたのは、やっぱりアリサだった。


 「はい! わたし発表します!」


 スカートの裾を持ち上げて元気よく前に出たアリサは、堂々と紙を広げる。


 「未来のアリサへ」


 彼女の声が、教室に優しく響いた。


 「今、わたしは魔法がちょっとだけ使えて、それがすごく楽しい。でも、夢はもっと大きいです。王都の学校に行って、本格的に魔法を学びたいです。未来のアリサ、ちゃんとあきらめてないよね? 忘れてないよね? わたしは……きっと夢を叶えるって信じてるから!」


 読み終えると、教室からは拍手と「すごい!」の声が上がった。


 


 次に促された俺は、少しだけ緊張しながら立ち上がった。


 「えっと……俺は、父さんに書きました」


 


 「父さんへ」


 紙の文字を見つめながら、俺はゆっくりと言葉を読み上げた。


 「毎日、鍛冶屋の仕事で忙しい中、俺の剣の練習に付き合ってくれてありがとう。まだうまくはできないけど、父さんのように“誰かを守ることができる人”になりたいです」


 声が少し震えた。でも、読み終わる頃には誰かが静かに拍手してくれた。


 アリサだった。


 


 そのあと、何人かの生徒が発表し、授業はゆるやかに終わっていった。ゼインは一言も発しなかったが、先生は何も言わず、彼の紙をちらりと見ただけだった。


 


 放課後、アリサと一緒に帰る途中、ふとゼインの姿が見えた。彼は一人、道端の大きな石に腰掛けて、空を見上げている。


「ゼイン、今日は手紙……書けたのかな」


 俺の言葉に、アリサが静かに言った。


「以外とお母さんとかに書いたんじゃない?」


「ははっ。それは意外だね」


 


 次の日、教室に入ると、俺の机の上に小さな紙が置かれていた。


 短い一文だけが書かれている。


 


 『……悪くなかった。あんたの手紙。――ゼイン』


 


 「……へぇ」


 思わず口元が緩んだ。なんだか、ほんの少しだけ、彼との距離が縮まった気がした。

いかがでしたでしょうか!

面白いと思っていただけたなら是非!ブックマーク・高評価をよろしくお願いします!


次回は水曜日の18時投稿予定です。

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