第四話「好奇心」
アイデアが浮かんではきえていく・・・
「最近のあいつ……自分に厳しくなってきたな。あの年であそこまでストイックになれるもんかね。」
「まだ一年前のこと気にしているのかしら……。」
布団の中で寝ているふりをして、俺は目を閉じる。
そうだ。あの日から強くなるって決めたんだ。
それまでは多少能力が低かろうと大した問題じゃないと思ってた。
神様からの贈り物もある。
急がなくても順調に進んでいくって。
でも違った。
俺が貰ったのはチートじゃない。
努力をほんの少し手助けしてくれる程度のもので、のほほんと過ごしていて成功する筈もない。それを実感したのがその日だった。
一年前。アリサと二人で村の外に出かけたことがあった。
その時はまだ考えが甘かった。
魔物も居るこの世界で外に出るということが何を意味するのか。
「ラグナ!外に出ようよ!」
「ダメだよアリサ。外は魔物もいるし、危険だって言われてるだろ?」
これは歩けるくらいになると誰もが言い聞かされる。
たいして強力な魔物はいないが、それでも子供や武器を持たない者にとっては脅威足りえる。
「いーじゃん!すぐそこまでだって!何かあっても叫べば聞こえるようなとこ!」
「ま、まぁそれなら大丈夫か……。」
俺とアリサは恐る恐る抜け穴から外に出た。一応木剣も持っていく。
「外ってこんななんだね!森ばっかでわかんない!」
「そうだね。あんまり面白いこともなさそうだし帰ろうよ。」
そんなことを言っても外は外。好奇心に勝てず歩き回った結果、少しずつだが確実に村から離れていた。
一時間ほど経った頃だろうか。村とは反対側の茂みから、大きくはない何かが動く音が聞こえる。
いち早く音に気付いた俺はアリサの手を引いた。
「アリサ! 離れすぎた! 戻ろう!」
「ちょっと待って! 痛いよっ!!」
グギャギャ?
俺たちの声で気づいたのか、緑色の肌をした俺くらいのサイズの魔物が顔をだした。
「まずい、ゴブリンだ!アリサ逃げるぞっ」
「う、うんっ……。きゃぁ!」
「大丈夫か!」
強く手を引き過ぎた。体勢を崩し転んだアリサにアイツが近づいてくる。
グギャッ!グギギ!
もう俺たちを1ミリも警戒していない。
大きな耳と鼻、尖ったツメとキバをちらつかせ醜い笑みを浮かべている。
敵わないかもしれないが、せめて抵抗だけはしよう。
アリサだけでも逃げてくれれば……。
「アリサ! 逃げろ! 助けを呼んでくるんだ!」
いかん。素が出てしまった。まぁそんなことは言ってられない。
すぐさま木剣を構える。
「ラグナ! 一緒に逃げよう?」
「ダメだ! 一緒に逃げたら追いつかれてしまう……アリサは村に戻って助けを呼んで来て欲しい」
「いやだ! 一緒に逃げるの!」
アリサは一人で逃げようとしない。
「いいから早く行け! 逃げるんじゃない。助けを呼んで来い!」
「う……うん。わかった……。」
俺の怒気に一瞬たじろいだが、理解はしてくれたようだ。
しっかりと村に向けて走っていくアリサを見届け、緑色の小柄な魔物――ゴブリンと対峙する。
右手に粗雑な棍棒を持ち、薄汚い布切れを纏っている。
俺は覚悟を決めた。焦るな。魔眼もあるし、少しではあるが訓練もした。
一匹のゴブリンなら、狩れる……はず。
「グギィ!」
ゴブリンは棍棒を振り上げると、一直線に俺へと振り下ろす。狙いは俺の頭。
――――来るッ
バックステップ。
棍棒が頬を掠め、鈍い痛みが走る。
「くそっ…………」
まともに一撃を食らえば恐らく死ぬ。
恐怖と緊張感が増し、足がふらつく。
それでも足を止めてはいけない。見様見真似だけど、衛兵の剣術を見たことがある。
「やあっ!」
左下からの切り上げ。
ゴブリンは反応し棍棒で剣を受け止め、力任せに押し返してくる。
体格差もそうだけど、技量もまるで違う。俺の能力が低すぎる。
必死で足を動かし、なんとか間合いを取る。
「ギヒィ!」
読まれていた。だけど俺だって馬鹿じゃない。
こいつが間合いを詰めるその瞬間の踏み込み……ここだっ!
――――バキィ!……カランカラン。
読みは完璧だった。
踏み込みに合わせて振りを合わせたが、防がれた。
おまけに、本来戦闘用で作られていない木剣は折れてしまった。
手はしびれ、膝が震える。
だけど、俺は倒れなかった。
アリサが無事に村にたどり着くまで、倒れるわけにはいかなかった。
ゴブリンは勝ちを確信したようにニタつくと、棍棒を振り上げる。
――そのときだった。
「――ラグナァァッ!!」
叫び声と共に、村の方角から駆けてくる影があった。
それは、村の衛兵――じゃない。
アリサだった。
「アリサ!? なんで戻ってきたんだ!」
焦る俺の声に、アリサは手のひらをゴブリンへと掲げて叫ぶ。
「ラグナを置いて逃げられるわけないでしょーっ!」
その瞬間、小さな火球がゴブリンに向かって発された。
威力は強そうには見えない。
だが一瞬、ゴブリンが怯んだ。その一瞬さえあればいい。
俺の魔眼もそう示してる。
チャンスは一度だけ。
俺は折れた木剣の柄を握り直し、腹の底から声を絞り出す。
「うおおおおおおおっ!!」
真正面から飛び込む。怯んだゴブリンの棍棒が中途半端に振り下ろされ、俺の肩に鈍痛が走る。
だが、それでも動じない。
折れた木剣の残骸を、ゴブリンの喉元へ突き立てた。
「――――ッ!!」
ゴブリンが呻き声を上げ、体をのけぞらせる。
次の瞬間には崩れ落ちていた。
【レベルが1上がりました】
【SPに8P、UPに3P加算します】
【初のレベルアップを確認。UPに3Pのボーナスを取得】
俺はその場に尻もちをつき、息を荒げながらアリサを見る。
「か、勝った……なんで、戻ってきたんだよ……助け呼びに行くって……」
「うるさいっ!だって怖かったんだもん!ラグナがいなくなっちゃうって思って……!」
アリサの頬に涙が伝っていた。
俺は、何も言えずにただ苦笑する。
「……ありがとう。助かったよ。」
その日、俺たちは初めて命の危険というものを知った。
そして、きっと忘れられない一日になった。
――村の外には、やはり危険がある。
でも、同時に「絆」が試される場所でもあるんだと、俺は思った。
「おい!いたぞ!ラグナとアリサだ!」
ふらふらとした足取りで防壁の前までたどり着くと、衛兵が叫んだ。
どうやら、村人総出で俺達を捜索していたらしい。
「お前ら!村の外に子供だけで出るなとあれほど言っているだろう!」
「あ、あはは……」
言い訳を考える気力もなく、ただ苦笑いをすることしかできず、怪我をした俺がいるもんだから、聴取が始まった。
好奇心に逆らえず、抜け穴から出たこと。近くまでと決めていたのに、気づいたら遠くに来てしまったこと。
帰ろうとした矢先、ゴブリンに襲われなんとか討伐したこと。アリサが無意識に魔法を使ったこと。
全部話してめっちゃ怒られたな……。
「ふぁあああ……」
思い出に浸ってたら眠くなってきた。明日からまた頑張ろう。
………………って、レベルアップしたぞ?
緊張からの解放と周りからの質問攻めのせいですっかり忘れていた。
ポイントを付与とか言ってたっけか……?
とりあえず確認してみるか。
【名前】:ラグナ Lv2
【種族】:人間(6歳)
HP:13/21 MP:12/169
筋力:16 体力:19 敏捷:15
器用:17 精神:43 知力:34
運:25
【スキル】
《剣術Lv1》《見切りLv1》
【パッシブスキル】
《魔力操作》
【ユニークスキル】
・《成長制御》SP8UP6
・《識穿の魔眼》(適合率61%)
【加護】
・創造神の加護(成長促進)
LvUPも相まって結構上がってるな。
MPは諦めずに魔力を練るのをやめていないからだろうか?
訓練してた剣術等も順調にものにできてるな。
さて、この識穿の魔眼だが、最近使えるようになってきてかなり便利だ。
まずは鑑定機能。
大体の物、人のステータスを把握できる。
おっと、ちょうどいい人物がいるな。失礼。
【名前】:バルト Lv59
【種族】:人間(31歳)
HP:457/457 MP:229/229
筋力:593 体力:311 敏捷:198
器用:381 精神:127 知力:242
運:12
【スキル】
《剣術Lv7》《鍛冶Lv7》《体術Lv5》
《見切りLv4》《鍛冶Lv6》
……たっか。
それ以外の感想しか出てこない。
俺6歳でかなり計画的に訓練してるつもりだけど、それでも基礎ステなんて20いかないんだぞ。
ちなみに、成人男性の平均数値は大体80~90くらいだ。
村の大人たちを見てたから多分間違いはないだろう。
バルトは元々Bランク冒険者で、町ではかなり有名だったらしいが、ここまでとは……。
Aランク、Sランクはどんな化け物がいるんだ???
そしてさっきの隙を示す能力。
相手の構えの隙、攻撃後の隙、それらが視覚的にこう……なんて言えばいいんだ?
ピックアップされたような感じで見える。
たまに動きの起動だったりが見えるが、まだ自分の意志では見えない。練度が足りないのだろうか。
主にこの二つが魔眼の能力だ。
さて、気を取り直して自分のステ振りを考えるか。
8Pもある。今の数値の基準からしたら結構大きな数字だ。よく考えねば……。
ゴブリン戦で痛感したのは筋力と俊敏が足りない。
あいつは俺の攻撃にびくともしなかったし、隙をついた攻撃も防がれた。
であれば筋力と敏捷に4Pずつ振るのがいいか……。
……うん。そうしよう。
ふぅ。問題はここからだ。UPをどう使うかだが……。
「やっぱり、魔法は使いたいよなぁ……」
UPの文字に触れると習得可能なスキルの一覧が出てきた。
剣術に体術、乗馬に料理……なんでもあるな。
「っと、あった!」
見つけた。火魔法の文字を。
迷うことなく火魔法に1Pを振り、習得する。
残り3P。どうするか。ゴブリン戦では技量にも明らかな差があった。
武器も折られ、戦う術を失いかけた。
……よし。
剣術に2P、体術に3P振ろう。残りは貯蓄だ。
UPはスキルのレベルが上がるたび、要求値が1P増える仕組みみたいだし、貯めておいて損はないだろう。
魔法に剣術、体術も上げた。明日が楽しみだ!
【名前】:ラグナ Lv2
【種族】:人間(6歳)
HP:13/21 MP:12/169
筋力:20 体力:19 敏捷:19
器用:17 精神:43 知力:34
運:25
【スキル】
《剣術Lv2》《見切りLv1》《体術Lv2》
《火魔法Lv1》
【パッシブスキル】
《魔力操作》
【ユニークスキル】
・《成長制御》SP0UP1
・《識穿の魔眼》(適合率61%)
【加護】
・創造神の加護(成長促進)
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