プロローグ
初めまして。七月寿来です。
シャ〇バWBめちゃめちゃ面白いので、執筆時間を見つけるのが難しいですね?
毎週日曜日更新を目標に頑張ります!
「ふぅ……今日も終わったか。慣れちゃってるけど、もう限界かもな……」
デスク上の乱雑に積まれた書類を片付けながら、ため息が出る。
朝の通勤ラッシュに揉まれ、昼はひたすら仕事に追われ、夜は疲れ果てて帰宅し、寝るだけ。
所謂サラリーマンとして働き始めて4年。同じような毎日を繰り返している。
学生時代は割と勉強もできて、記憶力もよかったし、臨機応変な対応も得意だった。
そんなだから大手の面接もかなり余裕で突破し、勝ち組になるはずだった。
学生時代夢見ていた「大人の自由な生活」は、こんなものではなかったはずだ。
朝が早いのは仕方がないが、日々適切な量の仕事を与えられ、時々苦戦しても周りを頼り次回からできるようインプットする。残業も多少は覚悟していたし、学生と比べたら自由が少ないのもわかっていた。
それでも、終業後には同僚や上司の方と食事やお酒を楽しんだり、休日は自分の好きなことをしてリフレッシュできると思っていた。
ところが現実はどうだろうか。
始業1時間前には出社し掃除をさせられ、とても定時内に終わる量ではない仕事を押し付けられた。当たり前だが終わらなければ怒鳴られる。
理想と現実とのギャップに、心、そして体も耐えられそうになかった。
――何か、変わりたい。刺激が欲しい。
俺の心はどこかで求めていた。
日々の忙しさに追われ、時折思い出すゲームやラノベ小説に没頭していた学生時代。あの頃は毎日のようにファンタジーの世界に入り込み、仮想の冒険を楽しんでいた。
今ではすっかりその感覚を忘れていたが、ふと今日は心が渇いていることに気がついた。
「ちょっと、ゲームでもしてみるか。」
自宅のアパートに帰った俺は、パソコンを立ち上げ、「RPGゲーム」と検索した。乾いた心を潤すために、気軽に楽しめるものを探していたのだ。
「これじゃない……あれも違うなぁ……」
探しても探しても出てくるのは、美少女中心の作品だったり、ほとんどが放置前提の物。そして、ポップなデフォルメキャラがメインといった作品だった。
俺が求めているのはこういうのじゃない。
1時間ほど時間をかけたが収穫はゼロ。
俺の心に突き刺さる作品は見当たらなかった。
「明日も早いし、もういいかな……」
もう寝るか……とブラウザを閉じかけた瞬間、目に飛び込んできたのはあるゲームの広告だった。
「新作オンラインRPG『ディステイル』――冒険者となり、伝説を刻め!」
画面いっぱいに広がる現代風のイラスト。壮大なファンタジーの世界は胸を躍らせた。
さわやかな風が吹き、平和の象徴のような草原、果てしなく続く荒野、あらゆる場所が燃え盛る炎の大地、巨大なドラゴン、空を飛ぶ騎士たち……。夢のような世界に目を離せなかった。
ゲームの内容が、どこか心を引き寄せる。
「こんなの、見たことない……面白そうだな」
広告をクリックすると、公式サイトが開かれる。ゲームの紹介動画が再生され、斬新なゲームシステムや、キャラクリの自由さを謳う動画が映し出された。何もかもが魅力的で、胸が高鳴る。
「このゲーム……ちょっとやってみるか」
勢いのままダウンロードを始め、インストール開始。
「このゲージが溜まるまでのわくわく感……久しぶりだ」
永遠にも感じられるインストールを終えゲームを起動。あまりにも長い規約をすっとばし、チェックを入れると画面が切り替わった。
キャラクター作成画面。俺は自分のアバターを作成する際にはかなりこだわる方だ。
こだわって納得のいくキャラで遊べばもっと楽しいだろ?
「……まぁ、こんなところかな?」
結局キャラ作成に1時間もかけてしまったが、もう明日は仮病で休めばいい。今日はこのゲームをやるんだ。
出来上がったキャラの名はラグナで人族。白髪の少年キャラだ。あまりにかっこよすぎても面白くないので、普通にちょっと持てそうなレベルの容姿にしておいた。
次に出てきたのはクラス選択。
これが予想以上に多く、王道の戦士や剣士、魔法使い、僧侶などを筆頭に、商人や鍛冶師なんてのもあった。
そんな様々なクラスの中から選んだのは、「冒険者」クラス。
何かに特化した訳ではないが、剣や槍、弓に斧。さらには魔法に索敵等、全てを卒なく使いこなすのが特徴で、オールラウンダー好きにはたまらない職業だった。
「どこにしようかな……」
クラスを決めた後に待っていたのは始まりの地の選択だった。
「ランデリン王国」「スカファイド帝国」「アルセラシア魔導王国」「ウェルニア聖国」の4つから選べるらしい。
どこまで自由なんだこのゲーム。
4つの王国にはそれぞれ特徴があった。
【ランデリン王国】
人族を中心とした多様な人々が暮らす国家。
その大きな特徴のひとつが、『王立学校』の存在である。王国の各地からだけでなく、他国からも優秀な者たちがこの学び舎を目指して集まる。王立学校では、魔法・剣術・学問・政治など幅広い分野の教育が行われ、卒業生の多くは国の中枢を担う人材となる。
『教育こそが国を強くする』という理念を掲げており、人材育成に非常に力を入れている。そのため、身分にかかわらずすべての子供に教育を受ける義務が課されている。貴族はもちろん、平民や農民の子供であっても初等教育を受ける権利と義務を有しており、成績優秀者は奨学制度により王立学校への進学・編入も可能だ。
なかには、平民出身ながらも王立学校を好成績で卒業し、宮廷魔導師や近衛騎士、文官に抜擢される者もいる。
このような制度により、貴族と平民の差というものが狭まりつつあり、貴族社会にも変革の波が押し寄せている。
【スカファイド帝国】
スカファイド帝国は、人族を中心に構成された軍事国家。
国家のあらゆる制度は「力による秩序」の理念に基づいて構築されており、特に軍事力においては他国の追随を許さない。帝国が誇る常備軍は鉄の規律と徹底した訓練によって統率されており、その戦術・戦略の完成度は、まさに芸術の域に達している。
帝国の最大の行事は、毎年開催される「大闘武祭」と呼ばれる武術大会だ。この大会は、帝国内だけでなく他国からも強者たちが集い、自らの力を証明するために死闘を繰り広げる。優勝者には莫大な賞金と「帝国の英雄」の称号が与えられ、軍の幹部候補としてスカウトされることもある。
また、帝国では幼少期から武芸の鍛錬が義務付けられており、平民であっても剣技や格闘術を習得している者が多い。実力があれば身分に関係なく出世できる機会も存在しており、『強き者こそ正義』という価値観が国全体に深く根付いている。
ランデリン王国とは歴史的に何度も武力衝突を起こしており、現在は一応の和平状態にはあるものの、互いに強く意識し合う関係が続いている。
【アルセラシア魔導王国】
アルセラシア魔導王国は、人族を中心に構成された魔法至上主義の国家。
国のあらゆる分野——交通、医療、農業、建築、日常生活に至るまでが魔法によって支えられており、他国とは一線を画す利便性と生活水準を誇る。訪れた者が『一度住めば離れられない』と言うのも、その快適さと美しさゆえである。
この国では魔法の研究が国家の最重要政策とされており、王族や貴族だけでなく、一般市民にも魔法の基礎教育が施されている。魔法大学や研究機関が多数存在し、日々新たな魔術理論や実用魔法が開発されている。
年に一度、王都で開催されるのが『大魔術学術大会』である。ここでは国内外の魔導士や研究者が集い、自らの発見や新技術を発表する。
中には未知の魔法体系や、世界の理を揺るがすような発表がなされることもあり、「ただの学術大会」とは緊張感と注目が断然異なる。
魔法の才能が高い者は身分に関係なく高い地位を与えられるが、魔法が使えない者にとっては生きづらい一面もあり、格差の問題も潜在している。
【ウェルニア聖国】
ウェルニア聖国は、人族を中心とした信仰国家。
『創造神』を信奉する創世教が国の柱となっている。国家の統治体制も教会主導で行われており、聖王と大聖堂会議による二重権力構造が特徴的。
外交的には極めて穏健かつ中立を掲げており、ランデリン王国、スカファイド帝国、アルセラシア魔導王国のいずれに対しても敵対的行動を取らない姿勢を貫いている。そのため、『世界の心臓』と呼ばれることもある。
しかしその内実は『力なき中立』ではない。聖国が擁する最強の騎士団『神の剣』は、全世界でも屈指の戦闘能力を持つ少数精鋭の集団である。騎士団は神への信仰と武技の両方に優れ、必要とあれば『聖戦』を宣言する権限すら持つ。
この『神の剣』は各大国に数名ずつ“親善使節”として派遣され、災害救援や秩序維持、魔物討伐などを通じて国際的な信頼を勝ち得ている。その存在感はまさに『神の加護の具現化』であり、聖国の真の力を象徴している。
一方で、宗教による支配には異を唱える者も存在し、国内外で密かに動く反宗教勢力や異教徒たちとの暗闘も……?
さぁどこにしようか。どの国もかなりこだわって設定が作りこまれている。
正直かなり悩んだが、直感を信じランデリン王国でスタートを切ることにした。
王国って響きが最初にふさわしいかなって。
「よし……これで。」
キャラクター作成が完了し、「Enter」を押す。するとゲームが開始され、画面が眩い光に包まれた。
次の瞬間、世界がひっくり返るような感覚に襲われた。
――――――ガタン!
「え?」
俺は床に転がった。視界が揺れ、目の前が暗くなり、次に感じたのは冷たい石畳。顔を上げて周囲を見渡すと、そこは見慣れた自分の部屋ではなく、夢のような世界が広がっていた。
青く晴れ渡った空、遠くにそびえる城、そして、石畳の街並み。広告で見たゲーム内の風景そのものだった。俺は目をこすりながら立ち上がり、自分の手を見下ろす。
「――――嘘だろ」
すぐさま近くの店の窓を覗き込む。
そこには、ゲームのキャラクターとして作成した自分が立っていた。黒々とした冒険者風の衣装をまとい、剣を携えた姿はまさに作成したばかりのキャラクターそのものだ。
「え、えっと……これは一体……」
頭が混乱し、目の前の現実を理解するのに数秒を要した。けれど、確信するしかなかった。目の前に広がるのは、あのゲーム「ディステイル」の世界そのものだと。
俺は、異世界転移したんだ。
「本当に、ディステイルに来ちゃったのか?」
俺は一歩、足を踏み出した。街の中は人々が行き交い、ゲームでは味わえないような生活感が漂っている。その光景に目を奪われた。
そして心の中に沸き起こるのは、かつてゲームで感じていたあの「冒険」の興奮。今、俺はその舞台に立っているのだ。
「これ……本当に、夢じゃない…?」
その瞬間、自分がどれほどこの世界を楽しみにしていたのか、そして今、ようやくその一歩を踏み出したのかとワクワクが止まらなかった。
未知なる世界で、最強の冒険者となるために――その扉が、ついに開かれたのだ。
「ふふっ、そんなに気に入っていただけたかしら?」
一人で感動を味わっていると、突然背後から声がした。
「ひぃい! 何だよ! 驚かさないでくれよ!」
後ろを振り返ると、今まで見たことがないレベルの美人がいた。
白く長い髪を後ろで束ねていて、創った様な整った顔立ち。胸もかなりのものをお持ちで、スラッと伸びた手足は今にも折れてしまいそうだ。
そんな美人な彼女は、俺の驚いた顔を見てとても可笑しそうに言葉を続ける。
「それは申し訳なかったわ。でも、すんなり受け入れる人は少ないから」
「受け入れるって…どうして転移のことを?」
俺はこの世界にきて間もないし、誰にも話していない。
じゃあなぜ彼女が俺の事情を知っているのだろうか。
――――――パチンッ!
突然彼女が指を鳴らす。
すると、さっきまで居たはずの王都は消え、うっすらと淡い光の差す空間へと変わった。
「おわっ!? 王都は!? 異世界は!?」
「君はリアクションが大きいのね。さっきまでの景色は幻影。もちろんこの世界には実在するけど」
「じゃあここは……」
「ここは神の居住空間ってところかしらね。現世ではないわ。うーん…そうね、まず君が何故ここにいるのかをお伝えしましょうか」
ここからは女神様の話が始まった。
女神様の名はサレファといい、ここディステイルの創造神で、今は主席を明け渡し世界の観察に没頭しているのだそうだ。
「かつて私は、この世界を創った。今は他の神に管理を任せこの世界を“観測”していたわ。でも、最近眼を失った。もう、何も見えないの。だから、君を“眼”に選ぶ。君の眼に、私の視界を宿す。世界を視るために」
「……それって、監視ってことか?」
「違うわ。理解ね。私は理解したい。人間を。感情を。自由を。でも神は、神であるがゆえに、感情がない。だから、君を通して知りたい」
俺はしばらく沈黙し、その後、声を上げて笑った。
「なんだそれ……自分勝手すぎるだろ。まぁでも、面白そうだ」
「異世界で君に与える能力は二つ。一つは、自らの進化を選ぶ力。もう一つは、我が眼。世界を識る力。それが君個人に与えられる限界かしらね」
「おお……なんか、テンプレな転生チートっぽい……けど、選ぶってのはいいな。自分で自分のやり方、選べるってことだろ?」
「その通り。君は、この世界での人生を選ぶ。私は、それを視る。ただし、その力は道を示すものであって、歩くのは君自身よ」
「……わかったよ女神様。その眼、借りようか。俺なりの人生、ちゃんと見ててよ」
「うん。思った通りね。君を選んでよかったわ。面白い世界を見せてちょうだいね?」
「ただし、気をつけて。世界。そして他の神や人間の中には、君を“選ばれし者”として歓迎しない者達もいるわ」
「君のような『転生者』はいつの時代でも、善悪にかかわらず世界を変えうる存在。時に疎まれ、時に利用される。けれど──」
女神は目を伏せた。
「君なら、どんな運命も遊び尽くせると、私は信じてる」
――――そして、白が砕けた。
目を覚ましたとき、俺はまず、自分がどこにいるのかわからなかった。
いや、それどころか、自分が何者なのかも一瞬わからなかった――そんな感覚。
けれど、目の前に広がる木造の天井、かすかに香るハーブの匂い、肌に触れる柔らかな布の感触。それらが少しずつ、今の“現実”を教えてくれた。
……そうだ。俺は……。
思い出す。あの夜、疲れ果てて帰宅し、無心でパソコンを立ち上げた。ひたすら仕事に追われる日々。逃げ出したくなる現実。そんな中で見つけたのが『ディステイル』という新作RPGの広告だった。
興味本位で始めたゲームの中、キャラを作り、国を選び、ゲーム開始ボタンを押した。
――その瞬間。
世界が反転したような感覚に襲われ、女神に会い、そして俺はこの異世界にいる。
目覚めから数日が経ち、ある程度現状がわかってきた。
俺は「ラグナ」という名前で生まれ変わったらしい。らしいというのも、まだ言葉がわからないんだ。
話せもしないし聞き取れない。翻訳もオマケしてくれればよかったのにな。
唯一、両親であろう男女がラグナと俺に向かって発し、反応するととても喜んでいるから自分はラグナなんだと思っている。
父はおそらく鍛冶師、母は薬剤師か、似たようなものだろう。
毎日金属を叩く音、目の前で草をポーション的な物に変える母。どうなってんだあれ。
年齢は20代前半くらいだろうか。
転生前の俺とそこまで変わらないように見える。
両親というか、心の中では友達に近い雰囲気があってしょうがなかった。
おっと、色々考えているとお腹がすいてきた。
仕方ないがやるか……アレを。俺は大きく息を吸い込み、そして泣き叫んだ。
「んぎゃぁぁぁあああ!!」
24歳にもなって、何をしているのかと自分でも思うが仕方ない。今の俺は0歳で、言葉が使えないんだ。
数秒後、母親であろう人が駆け寄ってきて、おもむろに服を脱ぎだした。
「――――!……?」
何を言っているかはさっぱりわからないが、恐らく「お腹がすいたのね!ちょっと待ってね?」だ。
出された乳を頬張り、満足して寝る。これが今の生活だ。
手は小さく、足は思い通りに動かず、喉もからからだ。だが、はっきりと“生きている”感覚がある。
そういえば、ステータス画面って見れないのか……?
そう思った瞬間、眼前に表示された。
【名前】:ラグナ Lv1
【種族】:人間(0歳)
HP:3/3 MP:4/4
筋力:3 体力:1 敏捷:3
器用:4 精神:11 知力:15
運:25
【ユニークスキル】
・《成長制御》SP0UP0
・《識穿の魔眼》※封印中(起動条件未達)
【加護】
・創造神の加護(成長促進)
うおお……マジか……!
こうして真白悠翔は、転生した。
世界の観測者として。
ただの赤子として。
そしてこれから、世界を生きる者として。
──魔眼の少年は、神の代わりにこの世界を観測する。