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 「あれが、噂の…」


 「噂ほどではない。顔は地味ですな」


 窓の外、扉の隙間、不躾な視線が朝霧あさぎりに刺さる。銀細工の釵子で簡素に髪をまとめた白と赤の衣袴姿。それが、朝霧であった。


 今上陛下が推し進めた政策の一環、後宮にとどまらない女性の活躍。女性官吏の登用。朝霧はその一期生だった。


 薬草を煎じたり、粉末状に加工したり、鎮痛のための附子を加工したり、それぞれの薬を手早く薬棚に収めていく。


 「あっ…朝霧殿!」


 同じ典薬寮の同僚が顔を赤らめながら、尋ねてくる。烏帽子と官服姿のその人物は、手の中にある懐紙を差し出した。


 「半夏は左端、上から二段目の棚です」


 朝霧は淡々と場所を指示する。同僚の男は何やらがっかりしたように半夏を棚にしまいに行った。


 「あれは、話のきっかけを掴みたかったのに失敗してしまいましたな」


 「可哀想に…」


 窓の外から覗く二人の狩衣姿の男たちが何やらひそひそと喋っている。朝霧が睨みつけると「おぉ…怖」といって退散していく。あの人たちも宮仕えの立場であるというのに、暇なのだろうか。


 朝霧は目立つ存在だ。傾城の美貌があるわけではない。自分では凡庸な顔をしていると自覚している。化粧をしたら少しはましになるだろうが、朝霧は自分を飾り立てることには一切興味がなかった。

 素顔で出仕し、さっさと宿舎に帰る。この繰り返しである。


 朝霧が目立つのは珍しい女性官吏という存在であることも確かだが、典薬寮に配属されて早々にちょっとした事件を起こしてしまったことも理由がある。


 政敵を暗殺するために、典薬寮の役人を買収しようという動きがあった。それを察知してしまった朝霧は刑部省へ報告を行い、ついでとばかりに今まで呪殺とされていた判例が薬殺でも起こりうるという証拠を文に認め、投書したのである。


 これが都合の悪い貴種の方々がいたのだろう。何人かは実際に検断されてしまった。こうして典薬寮の朝霧の噂は瞬く間に広まってしまった。


 上司も戸惑ったことだろう。朝霧は典薬寮でも変わり者と見られるようになってしまった。そして毎日のように、美人か醜女か確認しにくる暇人たちが出てきてしまったのである。


 金に靡かないので、買収もできず薬殺阻止の大義をもってして典薬寮に居座る女傑である朝霧の存在は、後ろ暗いことを考えている偉い人にとってはまさに目の上のたんこぶなのである。


 宮廷が民間の薬種商から地方の薬を買い上げたものや、宮廷で栽培している薬草の仕分けが終わる。これは必ず仕事の始まりに行う。その後に、粉末や丸薬への加工があるのだ。


 丁度、仕分けが一段楽した頃に直丁の青年が飛び込んできた。朝霧に客人を連れているようである。被衣を被った女は後宮に仕える女官だろう。彼女ら伝統的な女の宮仕えたちは新たに出てきた男の職分を奪うような真似をする女性官吏、朝霧のような者たちを嫌悪することがある。


 「朝霧殿に客人です」


 直丁の青年が朝霧に伝える。その青年の後ろから、女が顔を覗かせた。


 「私に何用でしょうか」

 

 朝霧が尋ねると、女は凛とした声を出した。珠を転がすような玲瓏たる声である。


 「人払いしたへやを用意してくれませんか? お話ししたいことがございます」


 後宮からわざわざ出てきたのだろう。今上陛下の御代になり、申請して受理されれば宮城の中に限り数刻出歩けるように緩和された。後宮の女はお手つきされる可能性があるため、妃から婢女に至るまで帝のものということになっている。


 その帝のもの、とならない例外が女性官吏たちだ。今上陛下によって推し進められたこの政策は、保守的な派閥から反発を受けている。


 「…わかりました。ここでは五月蝿いものが多いですからね」


 朝霧が頷くと、女は話が早くて助かりますと言った。宿直室に案内する。室にはいると、女は辺りを見渡して男の影が無いことがわかったのか、被衣を取り払った。


 中からは美しい女が姿を現した。波打つような黒髪、水晶のような澄んだ瞳。口は真っ直ぐ引結ばれていて意思の強さを感じさせた。


 「典薬寮の知恵者と謳われるあなたに、頼みたいことがあるのです」


 女は白雪しらゆきと名乗った。そして懐から香袋を取り出した。


 「この香の鑑定を依頼したいのです」


 白雪は香袋を差し出す。朝霧は不思議に思いながらも受け取った。香の鑑定の依頼とは珍しい。薫物合わせで負けたりしたのだろうか。袋を開けて、手で仰ぐようにして嗅ぐ。


 香は間違いなく沈香。しかし、妙に香りが甘く濃い。そしてはっと気づいた。


 「香料に使われる沈香の変種です」


 朝霧が答えると、白雪は微笑んだ。


 「見事です」


 その返事に、朝霧は試されていたのだと悟る。


 「これは皇后付きの女官を殺したものです。しかし、本当は皇后陛下を狙ったものでしょう」


 白雪の言葉に、朝霧は慌てて香袋を鼻の近くから離した。皇后の女官が不審死した事件は、今宮廷でもっとも熱い話題の一つだった。皇后は、平民出身であり北の蛮族とも謗られる土地の出身だからか、立后の際も貴族たちは大いに反対していた。

 しかし、叛乱を鎮めた当時皇太子だった帝を支えて共に麗扇京みやこを解放したのは今の皇后である。民からの絶大な支持を受け、入内したのだ。


 皇太子だった八束やつか神護瓊花しんごけいかと号を改め帝に即位する。その次の年には、皇家の外戚として権力を振るった家の当主、太政大臣は出家した娘である浜木綿はまゆうを還俗させ中宮として入内させた。


 一帝二后の体制を確立させたのである。こうして激化したのが後宮の勢力争いだ。平民出身の皇后、還俗した中宮、朝霧から見れば正直どちらも癖が強い。

 皇后派か、中宮派かどちらかに割れるのは朝廷の官人たちにも影響がある。朝霧は今までそのどちらにも与しない中立として振る舞ってきた。


 皇后付きの女官を殺した香。実際は皇后を狙ったものだったと白雪も言っていた。朝霧は否応なしに皇后か中宮かその争いに巻き込まれる予感がした。


 「…あなたは何者ですか?」


 朝霧は白雪に尋ねた。嫌な汗が背筋を流れる。もし、白雪が中宮側の人間であれば、皇后暗殺を失敗した香を持ってきたことによりどうすれば次はうまくいくか助言を求めにきたのだろうか。そして朝霧を抱き込もうとするはずだ。


 「私は、皇后陛下の女房です」


 白雪はそう言うが、騙るのは簡単だ。朝霧は疑いの眼差しを向ける。


 「証拠はございますか?」

 

 朝霧がそう尋ねると、白雪は苦笑した。朝霧の疑い深さにある種の感嘆とそこまでする呆れが混じったものだった。白雪はまた懐から何かを取り出す。


 「皇后陛下付きの女房だと示す佩玉です」


 手に取ってみますか? と白雪が挑発的に笑うので朝霧は手に取って佩玉を隅々まで確認した。


 「確かに皇后陛下付きのものとお見受けします」


 白雪が皇后側の人間であることは確かだろう。ならば、白雪が香を持ってきた理由もある程度は推測できる。典薬寮の朝霧が、この程度の香を見破れるのか試したのだろう。


 「朝霧殿。あなたを私の推薦で皇后付きの女房に任命します」


 次に白雪の口から溢れた言葉は、朝霧の予想を超えるものだった。


 「なぜ、私なのですか?」


 朝霧は驚いて尋ねた。朝霧は今まで中立を貫いてきた。


 「私があなたを皇后付きに相応しいと判断しました。あなたの実家はどの家とも与していない稀有な存在です。そして今上陛下が勧められ、反対も多かった女性官吏という立場になった先駆けです。素質は十分でしょう」


 白雪は微笑みながら続ける。まだ怪訝そうな顔をする朝霧を説得しようとしているようだった。


 「あなたはこの沈香を変種であると見抜いた。そしてそれを素直に私に報告した。敵であったり愚かであれば、ただの沈香だと言います」


 平民出身の皇后には味方が少ない。中宮派の方が優勢であり、皇后派は劣勢であると見るのが朝霧たち下々の官吏たちの見方だ。しかし、皇后には帝からの格別な寵愛があった。その結晶とも言えるのが、若宮の存在である。


 現在、若宮こそが直系唯一の皇子であり皇太子となると予想されていた。これに反発するのが中宮派である。中宮派は保守的な貴族層を取り込み、平民の血が混じることは皇家の血統を汚す行いだと騒いでいる。


 中宮派は早く中宮に皇子を産んでもらいたいと願っているだろう。傍系から皇子を立てる計画もあると噂を聞いたことがある。


 「女官が死んだのは香炉に毒が仕込まれていたからです。その毒こそが、この沈香の変種である『青朽葉』です。青朽葉は麗扇京みやこの特殊な気候でしか育たず、典薬寮でしか栽培されていません」


 白雪の言葉に朝霧は思わず唾を飲み込んだ。青朽葉は普通に焚けば甘い香りのする香木だ。普通の温性の炭が使われると含まれる毒素が分解され、華やかな甘い香りだけが漂う。しかし、水で処理された湿炭を使うと青朽葉に含まれる毒素が熱により分解されず香と共に拡散してしまう。


 「典薬寮に皇后陛下を害そうとした敵がいると? ならば尚更、典薬寮の役人である私は怪しいではありませんか」


 朝霧は自分の近くに皇后暗殺を企んだ者がいることに悪寒がした。


 「あなたは先程、自分が皇后陛下の敵では無いことを証明しました。それに香による殺人。先帝陛下の御代に側室の菊の枝(きくのえ)更衣が香の煙が充満したことによる事故で亡くなられました。あの時、一部の人間が事件性を訴えました。その犯人は当時の皇后が疑われました」


  結局、事件性は立証できず事故として処理された。しかし当時の皇后は現在の中宮の伯母に当たる。もし、先帝の側室の死が殺人だったなら。巳家は香での人の殺し方を知っていた可能性がある。


 「犯人は中宮派の人間…?」

 

 朝霧が呟くと白雪は頷いた。

 

 「その可能性が高いです。朝霧殿、あなたの知恵を持ってして皇后陛下暗殺未遂の犯人を突き止めては貰えないでしょうか」


 なるほど、最初からそういうことだったのかと朝霧はやっと気づいた。朝霧が典薬寮に潜む敵ではあれば炙り出すことができたし、逆に潔白であるならば味方に引き込もうとしていたのだろう。朝霧は薬殺阻止を大義とする清廉潔白な役人なのだから。その噂の真相を確かめ、信用するに足ると判断したのだろう。


 白雪は手を差し出す。


 「さあ、あなたはこれから皇后付きの女房です。共に皇后陛下の元へ参りましょう」


 彼女の水晶のような瞳が煌めいて、不敵にしかし優雅に笑った。


 朝霧は白雪に連れられて後宮の敷地内へと入った。皇后の宮、月光宮に見るのも入るのも初めてである。作業途中の薬たちが気になったが、もはや自分は典薬寮の下級官吏ではなく皇后付きの女房になったのだと意識し直す。


 そして朝霧は皇后に御簾越しに謁見した。そばには白雪が付いてくれている。


 「皇后陛下にご挨拶申し上げます。白雪殿の推薦により女房を拝命いたしました。朝霧と申します」


 御簾の向こうからは少女の凛とした声が聞こえた。


 「よろしく、朝霧。白雪が認めたのだからきっと良い人でしょう。期待していますよ」


 「恐悦至極に存じます」


 朝霧は膝をついて頭を垂れた。それを微笑ましそうに見守っている白雪の視線がむず痒い。しかし、皇后への挨拶は短く終わった。

 御簾の向こうで幼子が「ははうえ」とぐずる声がして、乳母であろう女の声が聞こえた。皇后は申し訳なさそうに「ごめんなさいね。さくが泣いているからあやしてくるわ。次はゆっくりお話ししましょう」と言うと、御簾の向こうには人の気配は無くなった。


 朔とは若宮の名前であり、朝霧のような身分では名前を呼ぶことすら恐れ多くてできない。


 「若宮様は皇后陛下でなければ、泣き止まないこともあるのですよ。人見知りが激しくて…」


 白雪が愛おしそうに語った。きっと女房たち全員が幼い若宮を慈しんでいるのだろうということがわかった。


 朝霧は典薬寮の仕事から皇后付きの女房の仕事に慣れるまで日々に忙殺された。しかし、月光宮の人々は穏やかで暖かく感じの良い人たちばかりで、何より朝霧の容姿を判断してくる暇人がいなくなったことも良かった。

 何か失敗しそうになっても、白雪が助けてくれた。白雪は皇后からの信頼も厚いようで、皇后の居室に長いこと居ては何か話していることがあった。


 月光宮の穏やかな日々とは逆に、朝廷では皇后付きの女官が死んだことを平民出身の皇后を受け入れたことによる天からの罰であったり、皇后の呪いであるという流言が飛び交い、帝に廃后の奏上がなされていた。


 もちろん奏上したのは中宮派の貴族たちだ。帝はそれに断固反対したが、また何度でも奏上は繰り返されるだろう。


 「朝霧殿」


 朝霧が、皇后の文書を整理するために白雪と書庫で二人きりになった時、白雪は改まった様子で朝霧の名を呼んだ。


 「もし、あなたが中宮派の人間だとして皇后陛下の飲み物に砒霜を混ぜるとするならば、どうされますか?」


 また沈香の時のような謎解きを提示され、試されているのだろうかと朝霧は身構えた。やはり飲み物に毒を仕込むとなれば、食事の世話を任される女嬬などを懐柔するだろうか。そして毒を砒霜と限定されている。砒霜は皮膚病や腫瘍の薬としても使われるので、典薬寮で厳重に管理されている。宮中で砒霜を手に入れるなら、典薬寮の役人の懐柔も必要か。


 「私の言葉が、そのまま犯行の道標にされては困ります。そして状況によって犯行の仕方は変わりますので、何も申し上げられません」


 朝霧がそう返すと、白雪は残念そうに「そう」とだけ返すと文書の整理に戻ってしまった。朝霧はこの書庫の中を見回す。この中にも毒はある。例えば、書物の虫食い予防に置かれている芸香。月経を軽くする作用があるが、妊婦には流産を引き起こす劇薬である。


 その他にも、さまざまな場所に置かれている殺鼠団子は間違って若宮なんかが口にしたら、命に関わる。若宮がまだ赤子だった場合、滋養に良いとされる蜂蜜も赤子にとっては毒だ。


 殺鼠団子については、幼児の誤飲の危険があるから撤去せよとは一概には言えない。鼠が病を運んでくる可能性のがあるからだ。


 朝霧は白雪の、どこか残念そうな様子が引っ掛かった。次の日には、皇后が女官を呪い殺したという噂は鎮火するどころか再び激しく燃え上がっていた。各所の井戸に、「蛮族の呪い」と落書きが流れたのである。


 外廷の井戸は直丁などの下級役人たちが、内廷の井戸は婢女たちが掃除するように帝から詔が発せられた。これは皇家に対する侮辱であると。


 その日の月光宮は、普段の穏やかな空気より張り詰めていて中宮派の嫌がらせだろうと目星をつけて怒りを燃やす者や、悲しむ者などさまざまだった。しかし、当の皇后本人はけろっとしていて若宮と遊んだり穏やかに過ごしていたので、皆毒気が抜かれてしまった。


 そんな中、白雪だけが険しい表情をしていたのを朝霧だけは見逃さなかった。夜中、白雪が宿直姿のまま庭へと出ていく後を朝霧はこっそりとつけた。


 「何をされているのですか。白雪殿」


 朝霧は庭の隅で立ち止まった白雪に厳しく冷たい声をかけた。彼女の手には巫蠱の呪いの人形を持っていて、それを土に埋めようとしていたのだから。皇后が女官を呪い殺したという証拠を後から作り出そうとしたのである。


 「黙っていなさい」


 白雪は静かにそう言って微笑んだ。


 「金が欲しいなら、欲しいだけ渡しましょう」


 白雪が蠱惑的に微笑み、手を招く。しかし、朝霧はそれを睨みつけるだけに終わった。


 「私は八虐を嫌う。皇后陛下を害するのは許さない」


 朝霧はそう言い切った。金など要らない。地位も名誉もいらない。白雪が強引に推薦して皇后付きの女房にしなければ、朝霧はただの典薬寮の役人で終わっていたのだから。それで満足だったのだから。


 「あなたの大切な家族が危険な目に遭うかも知れませんよ?」


 白雪は微笑みを崩さぬまま、朝霧を見つめた。白雪は朝霧の実家が弱小な地方貴族であり、どの家にも与していない、つまり有力な後ろ盾や頼るところが何もない家だと知っている。朝霧は奥歯を噛み締めて黙った。


 「黙っていることです」


 白雪は再びそう言うと、宮の方へと戻って行った。朝霧はしばらく庭に立ち尽くしていた。拳を握りしめる。爪が食い込んだ。家族を人質に取るなんて卑怯だ。


 しかし、次の日の朝、朝霧は皇后に白雪の行いを直訴した。白雪は皇后の信頼も厚い。新人の朝霧の言葉など白雪の言葉に比べたら、信じられないかも知れない。でも、朝霧は己の信念に背く事はしたくなかった。


 御簾越しに皇后は朝霧の言葉を聞き、しばらく黙っていた。沈黙が辺りを包んだ。ここで自分は死ぬかも知れないと朝霧は汗が滲んだ。しかし、己の信念を曲げるより貫いた方がよっぽど良い。


 「合格です」


 御簾の向こうから、声が響いた。朝霧は思わず顔を上げる。御簾が捲り上げられると、そこに居たのは白雪だった。


 「私が皇后、ひいらぎだ」


 白雪──否、柊が笑う。最初から、騙されていた。試されていたのか。


 「本物の白雪は私の妹だ。顔はあまり似ていないが、声はそっくりだ。御簾越しならわからなかっただろう」


 柊がそう言うと側に控えていた女房、本物の白雪が騙していた事を申し訳なさそうに頭を下げる。典薬寮に来た白雪は皇后柊本人だった。そして朝霧が月光宮で働き始めてからしばらくの間は白雪と柊は入れ替わったまま、柊は白雪として朝霧に接触していたのだ。


 「朝霧、あなたは金にも目が眩まず、家族を人質に取られながらも皇后である私に忠義を尽くしました。私は、あなたのことを信用しましょう」


 柊は、白雪に扮していた時に皇后付きの女房に朝霧を誘った時と同じ笑顔でこちらを見ている。白雪の推薦なんて要らなかったのだ。最初から皇后本人が引き抜きに来ていたのだから。


 「私は自分の信念に従ったまでです」


 朝霧は臣下の礼をとる。


 「朝霧、お願いです。暗殺未遂の犯人を私と共に追ってはくれませんか?」


 命令だと言って無理矢理にでも従わせることはできるだろうに柊は「お願い」だと言った。彼女の優しい人柄が透けて見えた。朝霧は臣下の礼を崩さず、口を開いた。


 「御意」

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