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第6話 断罪裁判第二ラウンド

「……だからわたしは、フィルの事を愛しています。これからも、ずっと、永遠に、側に居続けます」


 滔々とした語り口でリゼがしゃべり続けていた。

 その言葉にこの法廷にいるみんながただ黙って耳を傾けている。


 この裁判を仕切っていた、ライナスも苦虫を嚙み潰したような顔でただ黙っているしかなかった。

 それくらい、リゼの言葉には気持ちが籠っていた。


「つまり、君はあれか? そこのフィルとかいう男が聖人君子であると、そういいたいわけか?」

「……少なくとも、わたしはフィルが孤児の子たちに変な事をしてるなんて話、聞いたことない、です」


 まあそりゃそうだ。

 してないし。

 いやだって、ねえ?

 子供に手を出すのは頭がおかしいだろ。


 ましてや、自分が保護した子供に立場を利用して手を出すなんて、俺はそこまでクズじゃない。

 例え断罪されるにしても、せめてもう少し名誉ある罪であって欲しい所だ。


「そんな身内の言葉が証拠になる物か!!」


 ライナスが突然叫ぶ。

 さっきまであれだけ余裕たっぷりだったのに、追い込まれるとこうなるのか……。


「じゃあ、逆に俺が手を出したという証拠はあるのか?」

「だから、それは証言が……」

「証言って、今のが?」

「……! そ、それは……」


 そう言って、ライナスは押し黙る。

 何を根拠にしていたのかは知らないが、どうやら証拠はリゼの証言だけだったらしい。

 なんというか、流石に無謀すぎないか……?


「ライナス殿、これでは裁判の継続は……」


 それまで押し黙っていた裁判長が気まずそうに言う。

 周りにいる100人を超す傍聴者も呆れたようにため息を吐いている。


 おいおい、これじゃ俺の計画が……。


「い、いえ! まだ証拠はありますとも!!」

「ほう、それはこの件についての?」

「あ、いえ違いますが……。ですが、この男はほかにも大きな罪を犯しています!!!」


 ライナスが高らかに宣言する。

 呆れ顔の聴衆たちにかすかに期待の声が出て来る。

 悪い噂が絶えない我が家の醜聞を期待する人はやはり多いんだろう。


 まあいいんだけど、いいんだけどさ!

 その方が都合が良いんだけど、流石に露骨すぎないか?

 ほんの少しイライラしてしまう。


「……じゃあ、わたしは戻ってもいい?」

「ええ、どうぞ」


 そう言うと、リゼが席を立ち俺の隣に戻って来る。

 顔に“褒めて”と書いてある。

 まあ、とりあえず頭を撫でまわしておくか。


「リゼ、お前どうして?」

「……わたしは、フィルに二度も救われたから。だから、“みんな“でフィルを助けるの」

「みんな?」

「……うん、それに」

「ん?」


 リゼが息を吐く。

 何か、決意を籠めているような……。


「……子供、早く欲しいから」

「……はい?」


 子供?

 子供って、え?


「……フィルとの子供、作らないと」

「いや、お前それは……」

「……わかってる、順番は守る。……決めたから」


 何を、誰と?

 主語を言ってくれ主語を!!

 あと、心配してるのはそこじゃないんだが!?

 俺はいつからここまで好感度を稼いでたんだ??


「ねえ、馬鹿な事話してないで集中した方がいいんじゃない?」

「あ、ああ」


 若干不機嫌そうな声でレーナが割って入る。

 そりゃあ裁判の最中にこんな話してたら怒るよな……。


「それで、他の罪って言うのは?」

「殺人です、しかも我が軍の指揮官を戦場で殺害しています」


 ライナスと裁判長が話を次に進める。


 殺害、指揮官……。

 あー。

 心当たり、あるなぁ……。


「詳しく聞いてもよろしいですかな?」


 やや呆れ顔だった裁判長が途端に真面目な顔つきになる。

 そりゃそうだろう、軍の指揮官とは即ち貴族だ。

 貴族殺しともなればさっきまでの罪とは比べ物にならない。


「ええ、もちろん。この男は軍の山賊狩りに参加しておりました。そして、その際に背後から指揮官を斬り殺したのです」

「もしそれが本当なら重大な犯罪ですが……証拠はあるのですかな?」


 険しい顔の裁判長が詰める。

 さっきの失態が響いてるんだろう、信用が減っているようだ。


「証言者を用意しています」

「……今度は大丈夫でしょうな?」

「ええ、もちろん」


 そう言って扉の外を見る。

 恐らく誰かしらあの場にいた兵士を連れてきているんだろう。

 今回のやつが言っている件は事実だ。

 俺は間違いなく指揮官を殺している。

 だからさっきみたいな事態は起きないはずだ。


 まあ、これなら国外追放されるには十分な罪だろう。


「……大丈夫、安心して」

「ん? 何がだ?」


 リゼが小声でつぶやく。


「あなたは、わたしたちが必ず守るから」

「それって、どういう……」

「ライナス様、申し訳ございません!」


 言いかけた所で扉の外から衛兵たちが血相を変えて走って来る。

 ……なにかあったのか?


「何があった?」

「それが、証言者たちがみな“あれは嘘だ、俺たちは何も見ていない”……と」

「はあ!?」


 ええ?

 なんだ、どういう事だ??


「ライナス殿、どういう事ですかな?」

「い、いや! 昨日までは確かに……」

「今日この場に来なければなんの意味もありません。嘘が立証されれば罪になる、この裁判所で話さなければ証言に意味などないのですよ」


 裁判長が声を荒げる。

 聴衆たちもみんな一斉にため息をつく。


「しょ、証言が無くても証拠があります! おい、死体の記録を持ってこい!」

「は、はい!」


 衛兵が足早にライナスの所に近寄り、何枚かの書類を手渡す。

 ライナスは中身を見ず、すぐに裁判長にそれを渡した。


「馬鹿ね……」


 左隣に立つレーナが深く息を吐く。

 幼馴染の行動が気に障ったんだろうか?


「何が馬鹿なんだ?」

「まあ、見てればわかるわ」

「……?」


 どういう事なんだろう。

 右隣をみると、リゼも見下すようにライナスを見ている。


 ……二人は何か知っているのか?


「……ライナス殿、これのどこが証拠なのですか?」

「は? いやいや、ちゃんと書いているでしょう!」

「ふむ……なんと?」


 裁判長はそう言いながら書類をライナスに手渡す。


「ですから書いてある通りですよ! “傷口の切り口に微量に残る魔力から山賊の物と思われる魔力が確認され”……え?」


 ライナスは何度も書類を読み返している。

 そのたびに額の汗がどんどんと増え、顔が青ざめていくのが見える。


「ど、どういう事だ!」

「それは私が言いたいのですが?」


 裁判長も、そして聴衆たちもみんな呆れが怒りへと変わったように怒号が起きていく。

 なんだこれ、何が起きているんだ?

 あの指揮官を斬ったのは確かに俺だぞ?


「ね、捏造だ! 俺は確かに見たんだ! 切り口にフィル・クーリッヒの魔力が確認されたと……!」


 ライナスが真っ青だった顔を赤く染めて叫ぶ。

 その顔には裁判が始まった時の余裕はない。


 なんかもう、俺には何が何だかわからん。


「捏造とは聞き捨てなりませんね」


 聴衆の一人が大きな声を上げる。

 聴衆と言っても雑多な民衆が座る場所とは違う、より法廷に近い位置に座る云わばVIPだ。


 この国の軍における最高権力者の一人。

 そして、この原作のメインヒロインでもある女性。

 “将軍“ルイーゼ・クネフが、氷の様な冷えた顔でライナスに近づいていく。


「ルイーゼ様……」

「ライナス殿、あなたはこの国の英雄です。……しかし、軍の書類を捏造と言われるのは困ります」

「……申し訳ございません、しかし!」

「それに!」


 ライナスの言葉を制するようにルイーゼが声を上げる。

 原作でもそうだが、普段はわりとほわほわした感じなんだけどな。

 今は完全に仕事モードって感じだ。

 そのギャップが人気のあるキャラでもあるんだよな、この子は。


「自分もあの戦場におりました。そして、この目で確かに見ました。……あの指揮官は山賊に殺されたのです」

「そんなわけないだろ!」


 ライナスが声を上げる。

 というか、俺も声を上げそうになった。


 いや、だって……。

 俺、ルイーゼの目の前であの指揮官を殺したんだけど!?

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