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第39話 ロキシア② 地獄からの脱出

「狭い部屋ですけど、大丈夫ですか?」

「大丈夫! 綺麗にしてるし、全然いい部屋じゃないか」


 フィル様は部屋の中を見回しながら笑顔になる。

 狭くてボロい庶民の部屋でしかないから、身なりの良い貴族様をこんな部屋に招き入れるってだけで恥ずかしくなる。


「ありがとうございます。……でも、どうしてフィル様はこの街に?」


 フィル様はまだ私と同じ子供だ。

 上級貴族ともなるとこの年から戦場に出るんだろうか?

 それにしても、流石に子供すぎる気がする。


「ん? ああ、訓練なんだ」

「訓練?」

「そうそう、いずれ戦場に出るからね。その時のために今のうちから行軍に参加して外とか、こういう慣れない民家とかで寝泊りしたりする訓練。あと、長距離を巡航速度で歩いたりとか、まあ色々あるけど……」

「す、すごいです! 私と同じくらいの歳なのに……」


 母から怯えて、殴られて過ごしている私とは違う。

 いずれ自分で何かをするための生活。

 本当に憧れる。

 私は、どうせいずれ娼館にでも売られる運命だろうから、なおのこと……。


「でも、やっぱり色々ストレスもたまるよ。だからあいつも同い年位の子がいる家を指定してくれたりとか、色々気遣いをしてくれてるんだけどね」

「えっと、それって……」


 まだ子供だけど、“そういう”事なの?

 いや、でも……。


「君みたいなかわいくて話しやすい子と一緒に過ごせたら、少しは気も晴れるから有賀方い限りだよ」

「そ、そういうものなんですか……」


 ……かわいい。

 よくわからない、私はかわいいの?

 だから、お父さんは……。


「お母さんと二人で、生活は苦しくない?」

「……よく、わかんないです。多分苦しい? 多分ですけど……」


 お母さんがどうやってお金を稼いでるのかはよくわからない。

 知りたくもない。


「そうなんだ、お母さん頑張ってるんだね。偉いよね、一人で君を育てて」

「そ、そうですね」


 偉い?

 あれが?

 あんな理性もなく私を蹴りつける化け物が?

 ……偉いわけない。


「……ん?」

「どうしました?」

「……いや、なんでも。一個だけ聞いてもいい?」


 フィル様が目を細めて、声を小さくする。

 どうかしたんだろうか?


「なんですか?」

「お母さんと二人で暮らしてて、幸せ?」

「……し、幸せです、よ?」


 涙が出そうになるのを必死に抑える。

 声が上擦ったのに、気づかれていないだろうか?


「ロキシア、君噓ついてない?」

「は、はい?」

「なんかさっきから……お母さんの話になってから、変だよ?」


 ……気づかれた。

 ……でも、どうでもいいか。


 ここでフィル様に虐待されている事を話しても良い意味でも悪い意味でも何も変わらない。

 子供のフィル様に何かが出来るわけもない。

 嘘を吐くのも面倒くさいし、話してしまおう。


「バレちゃいましたか」

「……何か、されているの?」


 いうよりも、見せた方が速いよね。

 服を脱げば、私がどういう事をされているのかなんてすぐにわかる。

 ちょっと恥ずかしいけれど、見せてあげよう。


「ちょ、なにして……!」


 服を脱ぐと、フィル様は焦ったように視線を逸らす。

 なんだかその仕草がちょっとだけかわいく見える。


「見ればわかります」

「見ればって……は? なんだよ、これ……」


 私の身体を見たフィル様は、苦しそうに顔を歪ませる。

 痣だらけの醜い身体。

 当然、“なんでこうなったか”なんてすぐにわかる。


「父が、私を“愛そうとした”のが気に入らないらしいです」

「愛そうとしたって……そんな事って……」

「“そういうこと”です。……でも、いいんです。気にしないでください」


 随分とショックを受けているみたい。

 優しい人。

 ……でも、所詮はそれだけ。

 私を助けられる力なんてない。

 ただ、同情してくれるだけの人でしかない。


「じゃあ、寝ましょうか。フィル様は明日も早いんですよね?」

「……わかった」


 そう言って、フィル様は黙り込む。

 狭いベッドに二人で入り、身体をくっつけながら眠る。

 ……ごめんなさい、フィル様。

 余計ストレスをためてしまいましたね。



 ―

 ――

 ―――

 ――――


 翌朝、目が覚めるとフィル様はもうベッドにいなかった。

 怒らせてしまったのかな?

 まあ、あんなものを見せたら当然か。


 ちょっとだけ落ち込みながら部屋を出ると、身なりを完璧に整えたフィル様が立っている。

 その前には母もいて、何か小さな袋を持っている。


「ロキシア、あんたよくやったね」

「……はい?」


 母がニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべ近づいてくる。

 そしてそのまま耳元で小さく声を出す。


「実の父親も誑かす色情魔だけあって、お貴族様を一晩でねえ?」

「……どういう意味、ですか?」


 母は耳元から顔をどけ、気味の悪い表情で話を続ける。


「ロキシアは今日からうちの子じゃなくなる、そちらのフィル様が是非にとおっしゃってくれたんだ」

「……え?」


 うちの子じゃ、無い?

 それって……?


「これからよろしくね、ロキシア」


 ずっとずっと、暗くて苦しくて絶望的だった半年間。

 それが、終わる……?

 信じられない。

 でも、でも……。


「はい、よろしくお願いします、フィル様……!」


 今はただ、この喜びを……!





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