第38話 ロキシア① 出会い=初恋の始まり
「お前みたいな子供、産まなければよかった! このふしだらなメス! 今すぐ娼婦にでもなってしまえ!!!」
母が、私の腹を蹴りつけながら狂ったように叫ぶ。
倒れこんだ私を何度も何度も何度も何度も蹴りつけてようやく落ち着いたかと思うと、酒を飲み始める。
母が狂い始めたのは半年ほど前の事。
それまでは幸せだった。
貧乏だったけど、それでも暖かくて幸せな普通の家。
王都から離れた帝国との境目にあるらしいこの街には多くの人が住んでいて、私もその一人だった。
半年前、家の中で父が私に近寄ってきた。
それまでとは違う、気持ちの悪い笑みを浮かべながら身体を押し付けてきて父が言った。
「俺はな、母さんよりお前の方がずっと愛してるんだ。ロキシアも同じだろう?」
心底ぞっとした。
気持ちが悪い、以外の感情は浮かばなかった。
まだ子供の私を、父は襲おうとしてきた。
服を脱ぎ、私の服を脱がせようとして動く手が気持ち悪くて吐き気が止まらない。
いよいよ私を裸にした時に母が帰ってきたのが幸運だったのかは今でもわからない。
父はその後衛兵に捕まって……私は母に殴られて過ごしている。
ただそれだけだ。
今すぐにでも死んでしまいたい。
心の底からの願い。
どうせ誰も私を救ってはくれないのなら、せめて誰か私を殺して。
うずくまって痛みに耐えながらそんな風に思っていると、突然扉がノックされる。
誰だろう?
「ちっ、あんたはそこで顔見せずに座ってなよ」
「……はい」
街の人たちは私がこういう扱いを受けてること位気づいてるよ。
この人、本当に馬鹿だな。
まだ隠せてるつもりなんだ。
「誰だい、もう夜だよ」
「あ、メイシアさん。いや実はね、急遽この街に軍隊が泊まることになったんだ」
「はぁ……」
街の偉い人?
名前は知らないけど……。
軍隊が来るなんて嫌だな。
「友邦のご領主様の軍なんだけどね、君の家に泊めてもいいかな?」
「はあ? なんでうちに??」
「泊まるのはご領主様の息子とその護衛の兵士が数人なんだけど、できれば同い年位の子供がいて、且つ男が住んでいないことが条件なんだよね」
「ふーん、まあいいですけど……」
……人がこの家に泊まれば、少なくともその間は殴られない。
軍隊は怖いけど今よりはましになるはず。
すごく嫌だけど……。
―
――
―――
――――
「お邪魔します」
言っていた通り、家に身なりの良い少年が入ってきた。
周りには大人の兵士が2人いて、周囲を警戒してる。
「狭い家で申し訳ございません」
「いえいえ、急に押しかけたのは我々ですから」
少年はまるで大人みたいに話している。
すごいな、これが貴族様なんだ。
「そこにいるのが娘のロキシアです。どうぞ、お好きなように……」
「……はい?」
少年が意味不明、と言った様子で首をかしげる。
どうやら母は私をこの貴族の少年の供物にしようとしたみたい。
「同い年位の子供を所望、とのことでしたので……」
「え? いや、知らん何それ……」
少年はぽかんとしている。
どういう事なんだろう?
「私がお願いしました。フィル様の心労が少しでも安らぐようにと」
「あぁ、そうなんだ。ありがとね」
兵士さんが頭を下げる。
フィルと言われた少年が私の方を向いて、近づいてくる。
「よろしく、ロキシア」
「あ、はい……。よろしくお願いします」
フィル様が出してきた手を握り、握手をする。
貴族様に直接触れたことなんてないから、なんだかすごく緊張する。
汚いって、思われてないかな……?
「大丈夫、変な事はしないから」
「は、はい……」
フィル様が私に微笑みかけてくれる。
それだけで、お腹の痛みや心の苦痛が溶けていくような、そんな気持ちになる。
優しくて、格好良くて、大人びていて……。
何もかもが、理想的だった。
「それで、俺はどの部屋で寝れば?」
「ロキシアの部屋が開いておりますのでそこでもよろしいでしょうか? ロキシアと同じ部屋で寝ることになってしまいますが……」
我が家は4部屋しかない。
私、母、父のそれぞれの部屋と食事を食べる広間。
今はもう父の部屋は客間だけど……。
「構いませんよ、ロキシアが良いなら」
「娘が嫌がるなど、そんなわけがございません。そうよね?」
「は、はいっ」
本音で、全然嫌じゃない。
寧ろちょっと嬉しいような……。




