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第35話 切り札

「あんた、いい加減にしなさいよ!? あたしにフラれたからここにいる人全員殺す? 頭おかしいんじゃないの!?」

「ああ?」


 レーナが立ち上がり、ライナスに向かって叫ぶ。

 ライナスは殺気の籠った邪悪な目でレーナを睨みつける。


「頭おかしいのはお前だろ? そんな男にでれでれしやがって。まあいいけどな? お前みたいな心が非処女の糞女が俺みたいな主人公様のヒロインになれるわけがねえもんな!?」

「あんたほんと、何言ってんの……?」

「うるせえ!! 喋るんじゃね! 処女膜から声が出てなくて不愉快なんだよ、くそが!!!」

「……気持ち悪っ」


 完全に狂ってる。

 ここまで興奮状態だともう何を言ってもどうしようもないな……。

 

「ていうか、いい加減周りのゴミ共がうるさいな……」


 衛兵たちを殺し終えたライナスが、苛立つように呟く。

 そして立ち止まり、何かを唱え始める。


「【五月雨】」

 

 そう言った瞬間、ライナスの後ろに巨大な魔力の塊が現れる。

 その魔力の塊から何かが大量に飛んでいき、聴衆たちを貫いていく。


 なんだ、あれ……?


「はははははは!!! なあおい、お前ら今どんな気持ちだ!? 散々馬鹿にしやがって、なあ!? 俺のお陰でなんども命を救われた王都の住民がなんて態度取ってんだよ!? ああ!?」


 やばい、このまま放置したら全員……。

 急がないと……。

 取り敢えず、間合いに入れさえすれば勝機はある……はず。

 多分、きっと、だといいなぁ……。


「……やっぱり、わたしがやるしか」

「いや、リゼは2人を守ってくれ」

「……いいけど、それでどうにかなるの?」

「どうにかするよ」


 カノンとレーナは今の状況では完全な非戦闘員だから、リゼに任せないとどうしようもない。

 ルイーゼは今も必死に指揮を執っているし、周りに衛兵たちもいるから大丈夫だろう……。


 俺にはあと3つ切り札がある。

 特にそのうちの一つは、“こういう事態”を想定して確保しておいたものだ。

 あーあ、あの時油断してなければなぁ。


 まあ、済んだことはしかたない。

 今はやれるだけの事をやろう。

 

 裁判所内にいる聴衆たちはもう半分以上が死んでいる。

 余りにも惨い現実に目を背けてしまいたくなる。

 ……ごめんな。


「【偽典・死者の書】」


 俺に残された3つの切り札。

 そのうちの1つを使用する。

 

「……は? なんだ、これ……?」


 ライナスが驚嘆の声を上げる。

 いや、ライナスだけじゃない。

 周りの全ての人が、悲鳴を上げ恐怖している。


 当然だろう。

 周りの死体が一斉に動き始めたのだから。


「フィル、なにこれ……?」

「俺のスキルだ」


 偽典・死者の書。

 周囲にいる死体をゾンビにして従えるスキル。


 これを入手するの、滅茶苦茶苦労したんだよな……。 

 本当に大変だった、思い出したくもない。


「ははははは!!! 流石“悪役貴族”だな!」


 ライナスが周囲の事態を理解して笑いだす。

 まあ、そうだろう。

 これはもう完全に悪役の所業だ。

それでも、この状況を打開するにはこれしかない。

 

 俺は魔力を籠め、ライナスに指をさす。

 するとゾンビ達は一斉にライナスの元に群がり始める。


「行け!!!」

「こんなものでどうにかなると思ってんのか!? 雑魚が何人集まっても雑魚のままなんだよ!!」


 ライナスが魔力の雨を降らせゾンビ達を攻撃する。

 当然の如く簡単に倒れるが、それでもゾンビ達は這いずり近づいていく。

 

 さっきまでの反撃のない民衆への攻撃とは違い、多少なりとも攻撃能力のある“敵”に対しての攻撃。

 これなら、近づく程度の隙は十分にある。


 俺は一気にライナスに近づき剣を振るう。

 が、ライナスの剣で簡単に受け止められる。


「奇襲のつもりか?」

「いや、違う」


 当然、こんな攻撃が通るわけがない。

 そんなものはわかりきっていた。

 だが……、これでようやく“範囲内”だ。


「【絶対凡人領域】」


 切り札2つ目。

 俺のとっておきにして、万が一ライナスと戦う事になった時のためだけに取得していたスキル。


「なん、だ……?」


 ライナスの後ろにあった魔力の塊が消える。

 ゾンビ達も全く動かなくなる。

 

「モブキャラになったんだよ、俺も、お前もな」

「……は?」


 【絶対凡人領域】

 剣を交えた相手と自身のスキルを完全に無効化する能力。

 領域は100メートル程の大きさで、領域内にいる対象者はスキルを発動できず、対象者以外のスキルを含め、一切のスキルの効果を受けない。


 対強敵専用のスキルだ。

 これならライナスはどれだけスキルをため込んでいようとも使えない。

 ただの凡人と同じだ。


「スキルが使えないなら、俺でも……!」


 目の前にいるライナスを蹴り飛ばし、もう一度剣を振るう。


「当たると思うかよ!?」


 ライナスは剣をかわし、俺を切りつける。

 ……これは駄目だ。


 俺はギリギリのところで避けて、一度距離をあける。


「スキルが無ければ俺を殺せる? 馬鹿か! 素の能力でお前は俺に負けてんだよ!」

「……そうかもな」


 ライナスが辺りを見回し鼻で笑う。

 辺りには、大量の遺体が転がっている。


「残念だったな? もう少し早く……衛兵たちが生き残ってるうちだったら数で押せたかもしれないのに」


 ライナスは強い。

 スキルによる影響だけでなく、天から与えられた圧倒的な才能と身体能力によって他を圧倒している。

 俺とリゼの2人がかり位では例えスキルが無くても歯が立たないだろう。


「まだ分らんだろ」

「……そうか……。“同郷”なのに馬鹿なんだな、お前」


 俺はもう一度剣を構える。

 これが最後、ここで決める。


「死ね、ライナス!!!」


 ライナスの元に走り、剣を突き刺す。


「残念、足りなかったな?」


 俺の剣は、ライナスには届かなかった。

 視線を下げると、ライナスの剣が俺の腹に突き刺さっている。


「お前の負けだ、フィル・クーリッヒ」


 ライナスがニヤリと笑う。

 ああ、ムカつく顔だ。

 

 くそっ、腹が熱い。

 今にも意識が飛びそうだ。


「フィル!!!!」


 後ろから誰かの悲鳴が聞こえる。

 意識が飛びかけていて、声の識別も出来ない。 

 本当に、死んでしまいそうだ。

 

 ……だけど、これでいい。

 これこそが、千載一遇のチャンスだ。


「いや、お前の負けだよライナス」

「はぁ?」


 俺はライナスが剣を持つ手を掴み魔力を籠める。

 さあ、乾坤一擲の大勝負だ。


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